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ぬらりひょんとの思い出

作者: 倉田四朗



 ぬらりひょんという妖怪をご存知ですか?

 ぬらりひょんとは、見た目はみすぼらしい服を着た、頭の大きな老人が一般的なイメージの妖怪で、ところによっては妖怪の総大将だとか、そんな言い伝えもあります。

 じゃあそんなたいそうな妖怪ならば、きっとやることもスケールが大きいのか、と言われれば実はそんなことはありません。なにをするのかといいますと、なんと、勝手によそ様の家の軒先に上がりこんで、茶を持ってこさせたりしてくつろぐだけなんだそうです。

 いったいどういう妖怪なんだよ、とお思いの方もいらっしゃいますでしょうが、なかなかこの妖怪も馬鹿にはできません。なぜなら私は幼いころ、このぬらりひょんのおかげで命を救われているのです。

 信じられませんか? 

 ではおはなししましょう。

 私がぬらりひょんのおかげで命を救われたはなしを……。





 私の幼少期は妖怪とともにありました。

 六歳のときに「ゲゲゲの鬼太郎」を見ていらい、すっかり妖怪という摩訶不思議な存在にはまってしまい、毎日毎日、あらたな妖怪の言い伝えを探してはあっちこっちの図書館へ行き、地元の老人たちの話を聞きに行きました。

 最近では「妖怪ウォッチ」という漫画の影響か、私のところにも、かつての自分がよく話を聞きに来てくれて嬉しいですね。

 それはさておき、私の両親は共働きで、幼い私はよく狭苦しい団地の中にひとりぼっちでした。重苦しい雰囲気の満ちた団地の一室で、私は友だちと遊ぶこともなく、妖怪の本ばかり読んでおりました。




 そんなある日、私がいつものようにひとりぼっちで妖怪の本を読んでいると、いきなり、鍵のかかっているはずの玄関の扉が開いたのです。私はとてもびっくりして、玄関に様子を見に行きました。今思うと、なんてあぶないことをしたのか……すると、玄関に見慣れない男が立っていたのです。

 男はぼろぼろの服を着て、腰の曲がった老人でした。頭には髪の一本も無く、しかも妙に細長いのです。私は彼の姿を見て、すぐにわかりました。

「あなた、ぬらりひょんさんですね?」

 私が話しかけると、老人は目を丸くして、それからにっと黄色い歯を見せて笑いました。

「おう、ぼうず、よく知っとるなあ」

 私は感激しました。なんといっても、私の好きな妖怪の、その総大将が目の前にいるのですから!

「わしがぬらりひょんじゃ。ぼうず、茶をもってこい」

 ぬらりひょんはそういうと、億劫そうに玄関に腰を下ろします。私はあわてて冷蔵庫から麦茶を持ってきて、ぬらりひょんに出しました。彼はとても喜んでくれました。

「いまの時代はよいのう、いつでも冷たい茶が飲める」

「昔は違ったんですか?」

「もちろんだとも、昔は冷蔵庫なんてなかったからなあ、冷たい水が飲めるのは、ある種の特権だった」

 そうしてぬらりひょんは昔の話をしてくれました。昭和、明治、大正、江戸……それらのおはなしはとてもおもしろく、私はすっかり聞き入ってしまったのです。ぬらりひょんも、人とじっくり話すのは久しぶりらしく、実に楽しそうに語ってくれました。




 いきなり、部屋にぼーん、ぼーん、という音が響きました。それは居間に飾ってあった壁掛け時計の音でした。ぬらりひょんはその音を聞くと、これまた億劫そうに腰をあげました。

「さて、わしはもういかねば」

 彼の言葉も、彼が妖怪であると理解していた私にとっては、名残惜しくも仕方のないものでした。私は引き止めたくなるのをぐっとこらえ、彼を見送ることにしました。

「いろいろ話せて、楽しかったよ、ぼうず。でもなあ、知らない人を簡単に家に上げちゃあ、だめだぞ」

 ぬらりひょんは、そう言い残して出ていきました。




 ……さて、これが私がぬらりひょんに出会った話の一部始終です。

 ん? なに? 最初の説明と違うですって?

 ああそうでした。

 実はですね……




 あのぬらりひょん、次の週に、連続強盗殺人犯として逮捕されたんですよ。




おわり

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