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百合に刑霊  作者: AYaMe
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第三章

 

第三章



「レイ、ちょっと話がある」

 みんなが帰宅する中、レイはケイに呼び止められた。

「ケイ! ごめん皆、先に帰ってて」

 レイの周りにいた女子たちは手を振って教室を出ていった。

 ケイを前にしたレイは照れ臭そうに前髪を手で触っていた。落ち着かない、そんな素振り。

「久しぶりだね」

「そう……だな」

「昔はいつも2人だったのにね……」


 レイの浮ついた表情に対して、ケイの表情は強張ったままだった。

「お前さ、何笑ってんだよ」

「え?」

 その言葉に、レイの浮ついた心はすぐに砕け散った。

「あー、やっぱ我慢できねぇ。いくら幼馴染だって言っても、やっぱり我慢できねぇ」

 ケイは黒髪の短髪をくしゃくしゃと手で掻いた。

「……何?」

 レイは怯えてそれに疑問で答える。初めて見るケイの表情。態度。

「お前がそんな奴だって、思わなかった」

 軽蔑。その眼差しでケイはレイを見つめた。

「ど、どういう意味!?」

「心当たりがないとは言わせないぜ」

「……ユリのこと言ってんの?」

 ケイの言う通り、レイに心当たりはあった。

「……」

 沈黙は肯定。

「勝手に来なくなっただけじゃないの! 最初に仲良くしてあげたからって何? 私がお守しなきゃいけないわけ?」

 レイはカッとなって言い返した。

「お前は、そんな奴だったか?」

 ケイはレイに近づいていく。ゆっくりと。

「……何怒ってんのよ、意味わかんない。裏切られたのは私なのに!」

「ユリが女の子が好きって秘密を言ったのは、お前だけだって言ってたぞ! 何そんな繊細な、人の大事な部分を言いふらしてんだよ! ユリはそのせいで転校を繰り返してきてたことぐらい知ってんだろ!」


「あたしは……、言ってない!」

「お前以外に誰が知ってんだよ!」

「そりゃ……、1人には言ったけど……、こんな風に広まるなんて思ってなかったもん」

 レイは少し分が悪そうに呟いた。だって、私はユリに裏切られて……だから、ユリと喧嘩しちゃって、他の友達にユリとのことを話した。ユリとケイのこと。だけど、本当にそれだけで、それがこんな風にクラスのみんなに広まるなんて思ってなかった。


「お前には失望した」


「ま、待ってよ」

 レイは絶望を顔に表し、ケイを引きとめる。

「ユリに騙されてたのはケイでしょ!」

「何が」

「だって……、だって、私、見たんだから」


「見たって……」

 ケイが一瞬だけ顔を歪ませた。

 レイはここぞとばかりに薄らと美しく笑ってみせた。カーテンが揺れる窓際。そこに腰かけ、髪を優雅になびかせていた。

「ユリに騙されたのは、ケイも同じじゃん。私は、ケイのためにユリと喧嘩しちゃったの」

「どういう意味だ?」

「ユリは女の子が好きなのに、あの日、ケイと……」


 バンっ!!


 ケイは机を思い切り殴った。

「だから、なんだよ。ひどいことしたのは俺だ。ユリは、断りたくても断れなかったんだ」

 ケイの体はふるふると震えていた。レイはだんだんと怖くなってきた。この場所に流れる空気が。

「どういうこと?」

「当然だろ!? 気弱なユリを、俺は自分のことだけ考えてしつこく誘いすぎて……、断れなかったんだ! 真実を話すこともできずに、ユリは俺につき合ってくれたんだ。なのに俺はあんなことして……。だから、ユリが学校に来なくなったのは俺のせいでもあるから……、見舞いに行ってたんだ。そしたら……」

 そしたら……?

「ユリは、お前のことが好きだっていうのに、お前はその百合を拒絶したんだ。あの純粋なユリを」

 胸が痛くて、上手く息が出来ない。レイはその場から動けずにいた。

「何……? ユリは、私のことなんて好きじゃないわよ」

「ユリにお前は相応しくない」

 ケイ? 待ってよ。私がケイのことが好きだって、気付いてないの? それに……、ケイが好きだったっていうの? ユリのことを……?

 色んな事が頭の中を巡って、何がなんだかわからない。ねぇ、私だってずっと、ずっとケイのこと見てたんだよ? 気付いてくれてないじゃないの。

「ユリは、俺が支えていこうと思う。つき合うとかそんなんじゃなくても、ユリのこと、俺は友達として支えていこうと思ってる」

 待ってよ……。待ってよ……、ケイ。そんなつもりじゃなかったのに……。


「レイ、もう、お前の傍にはいられない」


 私の世界が色を失った。

 最後に見たのは、大好きな人から向けられた、大嫌いな目。

 

「まっ!」

 グンッ!

 手を伸ばし、大好きなケイへと手を伸ばしたけど、それは届かなかった。後ろに引き戻される。

 え?

 それは刹那の出来ごとだった。勢いよく前へと体を起したら、窓のさっしの隙間にスカートが引っかかってた。反動で、私の体は後ろへと、そう、開いた窓の外へと……。


「レイっ!!」


 ケイの声が聞こえて、ケイが私の手をとろうと手を伸ばしてくれた。

 死んでも、その手を掴みたかった。


「レイっ!!」



 ボトリ。

 私は、むせかえる百合の中に、落ちた。花壇の百合の中で、ユリを赤く染めてやった。

 ユリ、

 ユリ、


 許さない……。殺してやる……。殺してやる……。

 死んでも掴みたかった、あの手を、あんたは簡単に手に入れたんでしょ?


 


 殺してやる……。








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