黒翼の神父と銀髪の男
真っ暗な教会に一つ、足音がコツコツと響きわたり、
窓がカタカタと揺れ音を出している。
教会の内装は至って普通で、
特徴が在るとすれば、
壁には火の灯ってない蝋燭が複数、いや壁中についていることぐらいだ。
十字架のあしらってある服が揺れた時、
壁中の蝋燭の全てが火を灯して――
いつの間にか……
其処に浮かび上がった二人の人間は、
静かに互いを意識する。
「私に、何の御用ですか」
祈りを捧げる祭壇に背を向けて問いかけた神父。
「君に訊きたい事がある」
教会の扉から現われた銀髪の男が呟く。
「はて、異界の教会に来て訊きたい事とはなんでしょう」
銀髪の男の問いに首を傾げて再度、問う。
「力を分け与えて枯れていた大神に、
止めを刺した奴の居場所を訊きたい」
銀髪の男の言葉を聞いた神父の眼は、
驚きと困惑によって強く見開かれていた。
「何故、その事を知っているのですか」
自らに染みる冷や汗を拭う事もせず、
気に留めないまま口を開いて神父は言葉を零す。
が、銀髪の男は違う。
神父とは相反して、銀髪の男は、
「何故知っているか、
其れを――貴様に答える理由など存在しない」と。
燃えるように熱く刺すように鋭い眼差しで黒翼を持つモノへと言葉を放つ。
銀髪の男の右手には一本の紅に染まった短刀が一本、
対象となるべき神父に向かうように切っ先が鋭く威圧していた。
其れをみた神父は小さく、
本当に小さく震えて、
最後になるであろう言葉を目の前に居る獣のような男に伝えた。
「彼は、貴方達の手によって空間そのものから消去された筈、
違うのですか?博識のミスター。
いや、あなたの本当の名は確か、クラ――」
紡いだ言葉が声になる前に、
黒翼の神父は灰となってこの世界を、空間を去った。
教会を去る間際、
銀髪の男は小さくため息を吐いて、
こう言葉を零した。
「俺の名前を出さなければ、
アイツに呪いをかけられて居なければ――
君はまた俺達と同じように笑えたのかもしれない」
そういう銀髪の男の顔は、無力さと虚しさに埋め尽くされている。
男の姿は静かに消えた。
ザアザアと、強く強く、
教会の外は土砂降りの雨が降っている。
これは無情の雨なのか、それとも憂いの雨なのか。
それは誰にも分からない。
けれど――
教会の中に残された黒翼の隙間から黒くけれど暖かな光が灯り、
――小さく可愛らしい子どもが顔を出した。
子どもは、黒翼を物珍しさげにキラキラとした眼で眺めていた。
今分かる事、其れは――
そのキラキラとした眼だけは、
教会に降る土砂降りの雨よりも、
確実に明るい意味のあるものという事が言えるだろう。
子どもが寝息を立てる頃、
土砂降りの雨は静かに止んだ。