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***



 ――かつて、この世界は一つだった。

 世界の全ては海だった。人々は船の上で暮らす以外に生きる術を知らなかった。

 それでも、手を取り合い、人々は日々を生き抜いていた。


 そんなある時、一人の男が言った。

「船で暮らすよりも、もっと良い方法がある。風の神を捕まえて、空に町を造ろう」

 海で暮らす人々にとって、風の神は偉大な神の一人だった。風の神を崇拝し続けなければ、いつ嵐が来て、船が転覆させられるか恐ろしかったからだ。

 最初は、男の言葉に耳を貸す者など一人もいなかった。

 しかし、しばらく経った後、男が「風の神の髪の毛を一掴み手に入れた」と自慢してきた。誰も信じる筈がなかった――だが、その髪の毛を空に掲げると、男が空を飛んだのだった。

 人々は愕然とした。そして、徐々に男の話を信じるようになった。

 そして、男と彼を信じた多くの人々は、とある決断をしたのだった。



 天空史の授業ほどつまらないものはない、とシオンは頬杖をつきながら、ぼんやりと考えていた。

 例えるならば、母親の代わりに鍋が煮えるのを待っているような、そんなつまらなさと退屈さが入り混じった心境である。ただそれをじっと見据え、鍋の変化だけに集中するだけの、たったそれだけの仕事のような。

こんな事をしているくらいなら、壁の向こうに見える空を見ている方がシオンにはよっぽど面白かった。

常々、シオンは疑問に思っていた。何故こんな事を勉強しているのかと。

太古の昔、この町を含めて多くの町や都市が造られた。それは、幼い頃に読んだ絵物語にも描かれていて、誰もが知っている。それをわざわざこうして学校で勉強するというのが、シオンには謎であったのだ。

 ――と、油断していたシオンの頭に、教科書が炸裂した。

「っつう……!?」

「おや、シオン=メイトランド……余所見をするとは良い度胸ですね。天空史は聞かずとも完璧なのですね?」

「ク、クラウス先生……」

「そんな貴方には、特別に課題を差し上げましょうか。――この町の創造者・シルヴェスターの生涯について、まとめてきなさい。良いですね?」

 先生の言葉の最後の「良いですね」には、確実に圧力を掛けられていた。シオンは言い訳しようにも、こう言った先生の考えを捻じ曲げる事は不可能だと悟る。

 周囲のクラスメートはただそんな彼の姿に笑みを零すばかりであった。



 この町の創始者の名は、シルヴェスター=バトラーと言った。

 初めにこの国を造った男の、三番目の弟子である。彼は師がこの国の王都を造った後に、国の交易を盛んにしようと考えた。そして造り上げたのが、この町・シルヴェントだった。

 シルヴェントは王都との交易が盛んで有名なだけではなく、町の特産物として、風で形を整えて作り上げる硝子細工も人々に多く知られていた。

 そんな事は、知らない者の方が少ない。そんな人物、町についてを課題として提出してきたクラウスは、やはり少し意地悪だとシオンは感じていた。

 当たり前に知っている人物についての課題というのは、やはり更に詳細についてを求められるものである。ただでさえ課題というのものに対して嫌気が差しているところに、この町に関する事を研究しろというのは、シオンにとっては苦痛でしかなかった。

 下校中、シオンは深い溜め息をつく。

「なんでシルヴェスターについてかなあ……全然面白くないし。どうせなら、もっと面白い事を調べたいよ……」

 彼は、胸の前に右手を伸ばした。

息を吸うように、風が集う。風は渦を巻いて、シオンの手の上で踊った。

「――よっ、シオン。なんだなんだ、元気なさそうだな?」


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