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Lost memory  作者: ぴかちゅう
第一章
8/15

四次元

 葉月(はづき) (りん)、ショーヘアーがよく似合い明るく少し天然染みた可愛い女子。

 それが一時間前まで俺が思っていた葉月へのイメージだった。

 だが今は違う。

 放課後、簡単に言えば教師を舐めているという理由で生徒指導室に集められた俺と葉月だったが、俺はそこで彼女があらわにした本性を知った。

 とにかく毒舌で考えることもどこか普通の人とはかけ離れているというのが今の葉月へのイメージだ。

 葉月はどんなことを考えるのかって?

 いい質問だな、現に今普通の高校生ならばやるはずもない話の内容を振られたところだ。

 あの野郎、四次元について話そうなんて言い出すんだぜ、そんな話できるわけがないだろ?

 だが、この話は必ずしもできないというわけでもなかった。

 四次元という現実にあるのかないのかまだわからないものを自分が想像して創り出す、その答えは正しくもなければ間違ってもいない。

つまりはまだ正しい答えなんてありもしないようなことを自分の想像だけで自分なりの答えを出せるような事が葉月は好きらしい。

 それにしても俺までその考え方に巻き込まないで欲しいのだが……

 「それで、君は四次元の事をどう思っているの?」

 頭に回想を張り巡らしていたのもつかの間、一つの言葉により中断されついにこの話の歯車は回り始めたらしい。

 「いや、今までそんなこと考えたこともなかったし、急にどう思ってるの?なんて聞かれても答えられないから、葉月から先に言ってくれよ」

 俺がそう言うと葉月は一呼吸置いた。

 「まずこの話の前提を定義することにしましょう。n次元はn+1次元の切り口であって、私達三次元に生きる人間が二次元を娯楽等に活用すると同じように四次元に生きる生命体にとって私達が住む世界はゲームやアニメと同じ感覚と言うこと。つまり、この世界は四次元に住む生命体によって創られたゲームみたいなもので、私達が考えてることも言動も出会いも身の回りに起こることすら全て四次元に住む生命体が考え創り出しているということ。先ほど君が持ってきたおしるこだって何が出てくるかわからない自動販売機から偶然出てきたものだけれど、これほどバカらしくも面白いネタになる話なんかもきっと四次元に住むものが考えてそういう状況を創りだしていたって言うことよ。でもこれは私達三次元に住むものでも創り出すことはできる、もちろん1つ次元を下げた二次元にね。そう考えれば四次元世界も私達の住む世界と何ら変わらないのかもしれないわね。私の考えはこれで終わりなのだけれどどう思う?」

 どう思うって言われても正直コメントすることなんてない。それは葉月の言う考えを全て受け入れて返す言葉が見つからなかったわけではなく、只々(ただただ)理解をするのに感想を考える暇がないということだ。

 ただ、俺らが二次元の世界を見ている光景と同じように四次元の奴らが俺達の事を見ていて、三次元と同じような生活をしているっていうのは分かった。

 しかし自分の中には納得出来ない何かがあった。

 「まぁ葉月の言ってることは大体分かったけど、次元っていうのはグラフでも表せると思うんだ。X軸、Y軸、Z軸この三つの軸のもとで三次元は出来ている、つまりこの世界は三つの軸により形成されている。この軸を一つとってしまえば二次元になるしもう一つとってしまえば一次元にもなる。だが問題は四次元を考えるためには軸を増やさなければならないということだ。ここで一つ質問だが、葉月の考えた世界はグラフのどこに軸が通っているんだ?」

 「そ……それは、そう言われてみればそうね、そこまで考えたことはなかったわ」

 最初は真剣に俺の目を見ながら話を聞いていた葉月も突然の質問には答えられず目を背けた。無理もないグラフの軸を知るということはその次元の構造を知るような物だ、俺達三次元に生きる者が知る由もない。

 「葉月の考えは間違えではない、でも軸を増やすことのできないその考え方はグラフに対する軸の数は三つまでと決まっていてそのグラフを客観的に見ている。簡単に言えば画面の向こうに映る世界が見れるというだけであって、創りだす(・・・・)ことはできないということだ」

 矛盾こそ生じてはいないもののその考えでは創りだすということに欠けている、もう少し考えをつぎ足さないといけない。

 「君がそう言うなら私が納得できるように君の考える四次元を説明してみなさいよ」

 葉月の意見を否定したものの自分の意見がはっきりとしていなかった俺は少し焦りを始めた。このまま何も言うことができなかったら後でどんな仕打ちを受けるやら……想像しただけで寒気立ってしまう。

 しかし、俺が思う意見なんてただ三次元というこの空間が中心に動いていることを信じたいというくらいだった。この世界が四次元の奴らに創りだされていて、自分もこうして目の前で話している葉月も友達も家族もみんな四次元の奴らの思うがままに動かされているなんて考えたくもない。

 ただこの3次元を観察するだけ且つグラフの軸も考えられそうな概念を考えるしかない。

 カチッカチッっと時計から鳴る秒針の音が俺の頭に響き渡りこの静まり返った部屋にも響き渡る。いつまでも葉月を待たせるわけにも行かないわけだがどうしても軸に変わる大切なモノが想像できず挫折しかけた時だった。

 時計の針がカチッとさっきまでとは違う少し大きな音を経てたと同時に学校のチャイムが鳴り始める。

 時計を見ると短い針は6時を指していて長い針は0の地点を指している。

 まてよ、時間……!? そう思うと俺の考えていた四次元はついに完成し言葉として伝えられる。

 「さっきn次元はn+1次元の切り口といってたよな、つまりは切り口が三次元になるような世界を考えれば四次元が見えてくる。それに必要なキーワードは時間だ、1~4次元まで全て共通させるものとしてグラフの中に軸を置くのは三次元の俺達からすると想像することができない。だが時間だったらどうだろうか、どの次元も共通させることができるはずだ。そして四次元はその時間の上に存在しているつまりは時空ということだ。過去から現在、そして未来へとつながる時空の一直線を軸とするならばこれは四次元といえるだろ。この軸を切り落とし切り口を見ればその時間帯の現状況に繋がる三次元を見ることができる。残念ながら創りだすっていうのは難しそうだがな」

 なんだろうこの達成感は、あるはずもない答えを自分なりに考えて答えを見出し伝えるのってこんなにも気持ちのいいものなのか。

 プシュー

 俺が余韻に浸っている中、葉月は先ほど手渡したおしるこを開けゴクッゴクッと飲み始めた。

 「時空……たしかにこれなら全部話が合う気がしなくもないかしら、よくこんな短い時間の中でそんなこと思いつけたわね、褒めてあげる」

 おしるこを飲みながら発せられる言葉とは思えないが、初めて褒められた気がする。さっきまでは毒舌のオンパレードだったからな。

 「ありがとう。もう下校の時間になったし帰ろうか、よかったら一緒に帰らない?」

 ん、もしかして俺は今誘っちゃった?余韻に浸りすぎたせいかどうやらおかしくなっているらしい。でもこれ断られたらキツイな、まぁ今までの言動を見るからに断られることなんて目に見えてるんですけどねー

 「そうね、こんな話に付き合ってくれたお礼に帰ってあげてもいいわよ」

 え……? なんだなんだ、もしかしてツンデレってやつか?これが葉月のデレデレなのかぁぁぁ。

 などと最初は思っていたものの下校中に葉月の毒舌ぶりは更に牙を剥くことになり嬉しいのか悲しいのかわからない状況になるなどこの時の俺は知る由もなかった。


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