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Lost memory  作者: ぴかちゅう
第一章
7/15

じゃんけん

 水無月蓮は考えていた。学校生活を送る上で逆らうことなどできない教員を納得活かせる術を


―3時間前―


 俺はいつもの通り授業中に眠っていた。もとい落ちてしまったという方が適当だろうか、自分自身寝るつもりなど全くないのだが心よりも身体は正直らしく気づいたら眠ってしまっている次第だ。

 しかし、先生側から見れば眠りに入ったのも眠りに落ちたのも一緒に見えているわけで見つけ次第怒られるのは不可避なのだが、今日はいつもとは違った。

 おそらく毎回怒っても居眠りが直らないから堪忍袋の尾が切れたのだろう。して、先生は俺に語りかけた。

 「水無月、お前はどうして毎日寝てるんだ!特に今日なんて一回きりじゃなく何度起こしてもまた寝ているじゃないか、授業を聞く気がないんなら帰れ!」

 先生の喝に教室には緊張感が走る。

 朝にも生徒を叱っているのに疲れないのだろうか、まぁ怒られてる俺が言うことではないが。

 でも、ただ怒ったって意味がなくないか、なぜこんなに寝るのかなんて考えたりしないのだろうか、寝るのにもなにか理由があると考えようとはしないのか、まぁ奴の考えでは授業を聞く気がないから寝ていると思っているらしいが、あぁこんなことを考えていたらイライラしてきた、こうなったら直接言ってやろう。

 「先生、俺は寝ているんじゃありません睡魔という生理的に根性だけでは耐え切れないものに落とされてしまったんです。しかも今回の睡魔はいつものとは訳が違う、生活の疲れ(昨日などは特に)、寝不足、退屈さ、気だるさ、他にもいろいろな条件が積み重なり頂点に達したときにきた睡魔を前では気づいたら落とされ……」

 あれ?まだ喋てる途中なのに声が出ないぞ、気づけば俺がぺらぺらと喋ていた口にはこれ以上バカげた言い訳ができないように手で封鎖されていた。その手の主をみてみるとそこには青ざめた顔をした十五夜(とおや)の姿があった。一体どうしたのだろう。

 !?

 俺はさっきまで目の前で怒鳴り声をあげていた人物を再確認して十五夜の顔の意味を理解した、そして自分がやってしまった行為のことも……

 顔を真っ赤に高潮させた先生からは今にも殴り出しそうな気迫を感じられたが身をぶるぶる震わせているのを見るに、恐らく教師が生徒に手を出すと後あとめんどくさいことになるのでそれを避けるためにも我慢させているのだろう。

 さて、俺はこれからどうなることやら想像出来やしない。

 「水無月、言いたいことはそれだけか?」

 なんだ、後に恐ろしいことが待ってるのを予感させるこの言い回しは。

 「はい、他に言うことはありません」

 次の言葉で俺の言い訳に終止符を打たれることとなることにクラスのみんなそして何よりも俺自身が強く感じていた。

 「放課後、職員室にこい。言い訳があるのならそこでいくらでも聞いてやる。」

 この言葉を最後に俺は絶望と言うものを知った。恐らく職員室でただ怒られるのではすまない、また前のように生徒指導室に何時間も立たされ反省文を永遠と書き続けなければならなくなるのだろう。


 ***


 そして時は流れ今に至るわけだが言い訳も思いつかずについに職員室に来てしまった。勇気を振り絞り入ると先生がさぁおいでと言わんばかりに手招きをしているのが見える。

 「よく逃げずに来たな、しかし残念だ先生は今日忙しいからお前を怒ってる時間はないんだ」

 「……ということは今日はもう帰っていいのですか?」

 死ぬ気でここに来たというのになにもなく帰られることになったらこれほどの幸せはない。

 「そんな訳無いだろまだ寝ぼけているのか?しかしまだ入学して1ヶ月も経ってないのに生徒指導室に二度立たせれるなんてお前が初めてかもしれんな、あと反省文もコレ全部やって来い」

 机の上に山のごとく積み重なった反省文が置かれた。

 分かっていたさ、なんのお(とがめ)めもなく解放されることなんてないことぐらい、ただこの反省文の量はないだろ。そう愚痴りながら生徒指導室へと向かった、重なり合った反省文のせいで歩きにくい。

 生徒指導室につき片足を上げ重なった反省文を先ほど上げた片足の太ももに置き片手で支えながらなんとかドアを開けると、窓から射した夕日の光が反射して目の前の光景を(さえぎ)った。

 光が目に射さらないよう額に手をあて影をつくる、すると前には机に座り黙々と紙に何かを書いている見覚えのある少女の姿があった―――


 少女の名前は葉月 凛、何度も言っているが俺が恋する相手だ、おそらく朝の件で先生を怒らせた彼女は俺と同じ刑罰を受けることになりただひたすら反省文を書いているところなんだろう。

 まてよ、ということは俺は彼女と二人きりってことに……

 「あら、君は確か私と同じクラスの授業中に怒られてた人だったかしらね、そんなに反省文を手に持ってもしかして君ってバカなの?」

 そんなことを考えていると冷たい視線に声音を浴びせられた。

 ……。やばいな最近耳の掃除してなかったから難聴になってきているのかもしれない。

 「私の質問に答えられないほど低脳のようね」

 やはり聞き間違えでもなければ見間違いでもない。それはあの葉月さん本人から発せられている。

 この状況に理解ができないままではあるがとりあえず返事をするとしよう。

 「先生を突き飛ばすような人にバカなんて言われたくないな、そう考えたら葉月の方がバカなんじゃないのか?」

 あまり他人の失敗をえぐることはしたくはないのだが、やられたらやり返すってやつだ文句も言えんだろう。そう思いながら顔色を伺うと思ってたよりも平然としていた。

 「君、見かけによらず結構言う人のようね。ま、そういう人嫌いではないわ。大体の人は笑顔でやり過ごすか聞かなかったふりをするだけ、自分の意見を素直に伝えないバカが多いのよね」

 彼女が言うことは少し共感を持てた、なるほどさっきの挑発に聞こえたような発言は俺のことを試していたのか、それにしても葉月さんのことが全く違って別人に見えてきた。

 俺の中での彼女のイメージは少し天然というか、活発というか強いて言うなら少しバカなおてんば女子だろうか。そんな純粋な心に俺は惹かれっていったんだと思う。

 だがそのイメージも全て崩れ、ますます不思議なイメージへと変わった。

 「まぁそれには共感できるな、それにしても葉月さん第一印象と大分違って見えるけど毎日そんなこと考えてキャラでも演じてんの?」

 もし演じていたとすれば恐怖を覚えるかもしれん。

 「私話し方とか相手に合わせて話すからそんな風に見えるのだろうけど、演じてるとかではないと思うわ。でもどうしてそんなこと聞くの、さては私に気があるのかしら」

 クスクスと笑いながら俺の胸に突き刺さる言葉を聞き返す彼女に俺はタチが悪い人というレッテルを貼る。

 「べ、別にそんなんじゃねーよ、それにしても相手に話を合わせて心ではバカなんて思ってる葉月はタチ悪いし自分で自分のことバカって言ってるようなもんだぞ」

 またもややり返した俺はきっと自然とクスクスと笑っていたに違いない、こう言われてしまったら返す言葉も見つからんだろう。

 「……君もなかなかタチ悪いわよ。話していたら喉渇いてきたわ、飲み物買ってきて」

 言い負かしたのは嬉しいが、なぜそうなるんだ。

 「なんで俺がパシられないといけないんだよ、まぁ俺も喉渇いたしじゃんけんして勝ったほうが買いに行く事にしようぜ、あとこのじゃんけんは心理戦ありな」

 この提案に彼女は軽く頷き了承する。

 心理戦をつけたことによりおそらく俺は半分の確率で勝てることとなった。今から俺が使うのは人間の心理をうまく使ったものだ、じゃんけんは「最初はグー、じゃんけんぽん」という掛け声でぽんの時にグーチョキパーのいずれかを出して勝ち負けを決めるわけだが

 俺は「最初はグー」のときに相手にチョキを見せる、そうすることによって相手は見た手と同じ手を出したくないという心理状態に陥る、つまりパーかグーしか出さなくなるわけだ、それが分かればこっちがパーを出せば負けることなく半分の確率で勝てるということになる。


 試合の開始を意味するようにお互い手を出しお決まりのフレーズを口にする。


 「最初はグー」


 「最初はグー」


 ここで彼女は不思議な顔を浮かべるが無理もない、普通ならお互いグーを見せるところにチョキが見えているのだから、さてこれでグーさえ出してくれれば勝てる!


 「じゃんけんぽん!」


 「じゃんけんぽん!」


 俺の心理は見事に相手を困惑しそして俺の導く手へと誘導した。そう、彼女はグーを出し俺が出したパーに負けたのだった。

 「俺の勝ちだな、じゃあコーラよろしく」

 汚いとは言えども嬉しい気持ちに嘘はつけず、つい馴れ馴れしくお願いしてしまった自分が少し恥ずかしい。

 「何を言ってるの?君はチョキを出して負けたのよ、ルールも知らない人がじゃんけんをやろうなんて言わないでくれるかしら」

 は、何言ってるんだ負け好は良くないな。

 「負けて悔しいのはわかるが、負け好は良くないぞ、チョキを出したのは「最初はグー」のとこだったし勝ち負けには関係ないぞ」

 だがそう言われるとすこし引っかかるとこがある気がしなくもないと今になって気づいた。

 「一般的なルールでは「最初はグー」のときにグーを出してあと出しはなしっていう確認をするわけ、それなのにチョキを出した君はあと出しをしたっていうことになるのよ。つまり「最初はグー」のとこで勝負を仕したという事になり君がチョキで負けたってことになるのが筋じゃないかしら。それが納得できないなら最初から基本的ルールと形を崩さないことね」

 確かにこの行為は許されないかもしれないが俺はそんな衝突があると思ってじゃんけんする前こういったはずだ、心理戦ありと。

 これを言ってしまえば彼女も諦めるだろう。

 「だからさ、最初に心理戦あり……」

 「心理戦っていうのはじゃんけんを始める前に言葉などで相手を誘導することよ、基本的なルールや形を変えてしまうのは心理戦とは受け取れない、まぁ君は勘違いしていたらしいからもう一度やってあげてもいいけど」

 俺がなんと言い訳をするかわかっていたかのように俺の話を遮り論破しやがった。しかしもう一度チャンスをくれるとは嬉しいな。

 彼女の条件になんなく了承した俺は、普通にじゃんけんを望むことにした。


 「最初はグー」


 「最初はグー」


 おいまて、なんで彼女はパーを出してるんだ。

 「どうやら私の勝ちのようね、何をしているのはやく買ってきて」

 こいつやっぱバカだ自分で俺がやったことを悪いと言っておきながら同じことをやってやがる。

 「いやいやいや、それダメだって自分で言ってたじゃん物忘れ激しいのかな?バカなのかな?」

 俺は嘲笑うかのように彼女に言いつけた。

 「後出しをして負けたのが納得できないのなら最初からそんなことをするなといっただけでそれ自体を禁じたわけではないわ。もちろん私はこの勝ちに納得してる。君も納得しちたからさっきの試合は本当は君が勝っていたのにもう一度やろうと思ったのでしょう」

 だめだ、何を言ってるか全くわからない。

 「まだ理解してないようね、簡単に言えば君は自分の心理戦のやり方を私がそれは心理戦じゃないと言われただけで自分の思っていた心理戦は心理戦じゃなくてインチキだったんだと思い込んでしまった、でも心理戦という条件がついたじゃんけんなんて基本なんでもありなのよ、だからお互いのやり方をお互いが納得すれば成立するの。たしかに私は君のやり方を否定したかもしれないけれど、君が私を納得させていれば君の勝ちだった、私が言った意見が全て正しいなんて根拠はどこにもないのだから納得せざる負えなかったのよ

 簡単に言われても簡単に聞こえないのは俺の読解力がないからだろうか、間違ってるかもしれないけど整理して自分の思った通りのことを伝えてみよう。

 「つまり、さっきの試合は本当は俺が勝っていた、でも負けを認めてしまったということは後出しじゃんけんは有りとお互いが納得したということになるってことか」

 「だいたいそんな感じかしら、それにしても君は他の人とは違って少しは頭が切れるようね、負けを認めた=後出しじゃんけんが有りになったことをお互いが納得する証拠にもなったということにあの場で気づけたら完璧だったのに残念だわ。それじゃあ約束通りに飲み物買ってきてもらおうかしら、何にするかは君が選んでいいわよ」

 結局俺は言い負かされてしまった。先生にも、恋する人にも、なんて情けないのだろうか。

 そんなことを思いつつ自販機へと向かった。俺が選ばないといけないのが無駄に責任を感じてしまう、俺は安定のコーラだが一体彼女はどんなのが好きなのかわからない。

 ん、なんだこれは、俺に疑問を持たせた正体は自販機の商品としてある「?」のついた缶だった、おそらくなにが当たるかお楽しみってやつだろう。

 「よし、これでいいや」

 ボタンを押すとガシャンという音とともに缶ジュースが落ちてきた、しかしなぜか普通の缶よりもすこし音が小さかったような気もしたが、なにが出てきたのかを確認するのにどこから湧いてくるのかわからない緊張感が感じられた。

 例えるなら子供の時カードパックを買って袋など破り捨てレアカードがあるかどうかを確認するときの緊張感に似ていた。そしてレアカードが当たった時の嬉しさは半端じゃなかったのを今でも覚えている、大体が雑魚ばっかで幻滅したことも多々あるが今回はどうだろう。

 恐る恐る確認してみると俺はそのジュースもとい飲み物に存在価値を問うことになった。

 「あぁおしるこ、あなたはどうしておしるこなの」

 「…………」

 おしるこが喋るはずもなく俺の一人劇は終わりそして悲劇が始まろうとしていた。こんなの渡して彼女になんと言われることやら。

 くよくよしていても仕方がないと生徒指導室に戻ると、やっと来たか飲み物はよと言わんばかりの態度で手を伸ばしてきた。その手におしるこを受け渡すと案の定彼女は文句を言い始めた。

 「喉渇いたと言ってる人におしるこを与えるなんて。君一体どういう神経してるの、バカなの、というかバカでしょ」

 バカ呼ばわりされることくらい想像できたがそこまで言われると正直へこむ

 「じゃあ、俺のコーラ飲めよ」

 そう言って渡したがなぜが彼女はそれを拒否した。

 「いいわ、君が選べと言ったのは私なのだし自分が発言した言葉くらい責任持たないと、バカバカ言って悪かったわ」

 変に真面目な奴だな、まぁそこが彼女のいいとこでもあるか、また新しい一面を見つけてしまったな、まぁ今日は一面どころか何面発見したかわからないくらいだけど。

 てか、なんで俺葉月とここにいるんだっけ。あー反省文書かないといけないんだった、ここで俺は本来の目的を思い出す。

 「そういや、葉月って反省文どれくらい終わったんだ、俺なんてまだ書いてすらないんだけど」

 じゃんけんやらおしること会話やらしてて何も書いてない事実が恥ずかしく思えた。

 「こんなの書く気ないのだけれど、君も書く気ないでしょ?せっかくだからお話でもしましょうか」

 書く気ないとはひねくれてますな、それに俺をも巻き込むなんて、まぁ葉月とお話できるなんて即OKだけど。

 「いいけど、何について話すの男子と女子じゃ合う話なんて少ないだろうし、俺あんまテレビとか見ないから話なんてできないと思うけど」

 俺が知識不足で彼女を退屈させてしまうのは嫌だし、なにかいい話はないものか。

 「大丈夫よ、知識なんて無くても想像力さえあれば出来る話にするから」

 想像力があれば出来る話?そんな話想像がつかんが

 「よくわかんないがなんについて話すんだ?」

 「そうね、四次元についてとか」

 …………え?


ここから長い長い放課後の談話が始まる。

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