友達
学校に着き教室へと向かっていると、なぜだろう教室の方が騒がしいのが廊下からでも窺えた。教室に入ると昨日まで話すことがなかった女子と男子が仲よさげに話している姿が目に映る。
「おはよう」
聞き覚えのある声が発せられたほうを向くとそこには十五夜がいた。
「おはよう、今日はみんな仲よさげだけどなにかあったのか」
こういったことは情報通の十五夜に聞くのが一番だ。
「あぁ、昨日LINEで話が盛り上がってたからその影響だろう、蓮も誰かと話してきたらどうだ」
案の定予想していた答えが返ってきたわけだが追加の質問は予想外だった、もちろんその質問に応えてやる気はない、というよりも応えてやれる自身がない。
この学校に入学してまともに喋ることができるのは十五夜くらいだ、それは俺の人見知りな性格が原因だということはわかってるのだがどうにも性格を変えるのは難しい、できればクラスの人全員と話せるようになりたいもんだがそんな日が訪れるのはおそらくずいぶん先のことだろう。せめて葉月さんとは仲良くなりたいもんだが……
いかん俺としたことが変なことを考えてしまった。
「俺の性格的にそういうことは無理って十五夜も知ってるだろ」
十五夜は俺と打って変わって誰にでも話しかけられる様な性格だからおそらく俺の苦労など知りもしないのだろう。
しかし俺と全く違った性格な十五夜だったからこそこんなにも仲良くなれたのだと思う。
「それにしても今のままだとまずいと思うぞ、もう入学して結構日にちも経って仲の良いグループがいくつか形成されつつあるし、せめてどのグループかに入らないとこれからの高校生活も楽しくないだろう」
たしかに十五夜の言ってることは間違ってはいない、ただそんなことができるのならとっくにやってる。
「そんなことが出来たら苦労はしないよ、まぁ俺は今のままでもいいかな」
正直なところこのクラスはノリノリな奴が多くて俺にはどうにもついていけない気がする。
「そうか、まぁ仲良くなりたい人が見つかったら俺に言えよ、一人で話しかけるよりも俺と一緒に話しかけたほうが蓮も話しやすいだろ」
な、なに!?ということは葉月さんとも……
また俺は変なことを考えてしまった。だがこれはとてもありがたい話である。
「ありがとう、そのうちお世話になるよ」
そんな話をしてるとチャイムが鳴りみんな慌てて席につく。と、同時にドアが開き先生が入ろうとした刹那、突然先生が俺の視界という画面から消えそこには息を切らしながら寝癖立った葉月さんが教室に入る光景へと変わった。
なにが起きたかわからない状況に俺を含めクラスの全員が呆然としている。すると教室の外から消えたはずの先生の声が聞こえた。
「葉月、廊下を猛ダッシュして先生を突き飛ばすなんて朝から元気がいいな!」
この発言により先程どうして先生が消えたのかがようやく理解出来た、そして先生がキレ気味な様子も窺える。というかまた葉月さんは遅刻ギリギリで登校してきて、まぁあんな時間まで起きてたら無理もないか。
「あはは、先生おはようございます……」
この状況で普通に、とは言っていっても少し申し訳そうにだが挨拶するなんてやはりすごく勇気がある人だ、それかただの馬鹿なんだろうな。
俺はなぜあの少女に恋心を抱いているのか自分でも不思議に思う。
「葉月……放課後職員室な」
先生からの招集をかけられてしまった彼女はおそらく前に俺が体験した説教と生徒指導室で一時間立たされる地獄がまっているのだろう。
「ふぇぇ……私放課後大切な用事があるので無理ですよぉ」
必死でこの招集を解消させようとする葉月さんの姿はとても可愛く癒やされる。
「ほぉ、大事な予定とな?してその用事とはなんだ言ってみろ、その答えに俺が納得出来たのなら明日に持ち越しとしておいてやろう」
その用事が本当であれ嘘であれ絶対に説教はするという鬼畜発言に寒気がした。詰み将棋でいう王手ってやつだなこれは。
「えぇ~っと、そのーあれですよあれ、ね、わかるでしょ?」
新手のあれあれ詐欺は先生に通用すること無く用事が嘘だとわかった先生はじゃあ今日の放課後職員室で待ってるからなと彼女の肩に手をポンッとおき教室へと入り教卓の前と向かう。
それに対して完全に論破されてしまった彼女は生きる希望をなくしたかのように自分の席へと向い椅子に座るのだった。