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Lost memory  作者: ぴかちゅう
第一章
15/15

初デート(上)

 ガタンゴトンと一定のリズムを刻む電車は遠い地へと俺を運んでいく。

 何故俺が今このような状態に犯されているのかというと、この間葉月と交わしたデートの約束から数日後に届いたメールが原因となっていた。

 送信者はもちろん葉月。

 そのメールに書かれていた内容なのだが何でも買い物がしたいという事らしい。

 まぁここまでは理解できた、あんな毒舌で冷め切った彼女でも列記とした高校生。流行に乗り遅れるわけにはいかないのだろう。

 しかし問題はその場所だった。

 今やクラスのアイドルにまで上り詰めた葉月だ、休日に俺みたいな奴とデートしていたなんてバレたら大スクープになる。

 そのことを考慮した上で場所が選ばれるということもなんとなくだが予想はしていた。

 でもなぁ。流石に10離れた駅の近くにあるショッピングモールっていうのは遠すぎじゃないですかね……。

 だが、今日のことを全て葉月に任せたのは紛れもなく俺自身、今更兎や角言う筋合いも無いのでこうして電車に乗り込み目的地にまで向かっていたのである。

 誕生日というこの日に思わぬ出費が出たけど葉月に会えるというのなら安いものか。そんなことを考えながらも俺は車窓から見える景色を眺めるのだった―――


 電車に揺られること約一時間。ついに、目的の駅へと到着した。

 プルルルルル……

 という音があちこちで鳴り響いているホームは実に騒々しい。

 それにしてもあたり一面人だらけだな……。

 どうやら此処は特急を含む全列車が停車するほどの大きい駅らしく、そのため自然と人混みができるみたいだ。

 そんな中皆は一斉に改札口を目指し進んでいくもんだから、よくアニマルビデオに出てくるヌーの群れを見ているようで面白く感じてしまう。

 だが、初めて来る駅なのでどこに何があるかなど知る由もない俺にとってコレは実にありがたい事だった。

 今こそ乗るしかないこのビックウェーブに!

 ヌーの群れと称した人混みに紛れること数分やっと外に出ることができた。

 此処でようやく群れは解散するらしい。

 未知なる土地に1人取り残された、俺は取りあえず葉月を探すとする。

 そういえば、具体的な待ち合わせ場所決めてなかったな、こんな所で無意味にうろちょろしてると天敵に襲われてしまってもおかしくないぞ。ん、いや待てヌーのフリをする必要はもうないのか。

 もはや最初からその必要が無かったまである。と言うかねーよ。

 などと謎の1人ツッコミをしている時だった。

 「10分遅刻。女を待たせるだなんて男として最低ね」

 突如背後から浴びせられた冷たい声音。

 それに対して俺は迂闊にも天敵の襲撃と勘違いしてしまい大きく飛び跳ね情けない声で鳴いてしまった。

 ところでヌーってどうやって鳴くんだ?

 恐る恐る後ろを振り向くとそこにはトラでもなくライオンでもなく普段の印象とは明らかに違う葉月の姿があった。

 白いワンピースに五分袖程のクリーム色をしたカーディガンを羽織り、革紐が編まれたサンダルを履いている彼女からは女子独特の柔らかい感じがプンプン発せられている。

 何これ眼福の最上級、激がんプクプク丸まで達しちゃうほど目の保養になるんですけど。

 「…………。あっ、ご、ごめん。初めて来た場所だったから、それにどこで待ち合わせかなんて知らなかったし」

 思わず葉月の私服に見惚れてしまっていた俺は正気を取り戻し、とりあえず謝罪。ついでに言い訳までしておいた。

 「そこまで伝えていなかったかしら?ごめんなさい私としたことが取りこぼすなんて」

 確かに、葉月にしては珍しいことだな、だがそれよりも素直に謝ってくる方が意外だった、てっきりそこらの教員みたく屁理屈を言うなのダメ出しでもしてくるのかと思っていたが。

 「確認しなかった俺も悪いよ。まぁ、合流出来たんだしそろそろ行こうぜ」

 「そ、それもそうね」

 そう言うと、葉月は肩から掛けられたショルダーバックの長い紐をギュッと握り俺の一歩前を歩き始めるのだった―――


 葉月と無事に合流し歩き続けること10分ようやく目的の場所へと到着した。

 その間いつもとは違う彼女に戸惑いながらも歩を進めていたが、気が付けば口数も増え心なしか緊張もほぐれてきた気がする。

 それは葉月も同じようで

 「思っていたより広いな」

 「迷子にならないように気をつけるのよ」

 と、ショッピングモール全体が載っている案内板を見て思ったことを口にしただけで幼児扱いをしてくるまでにいつもの煽り癖が見え始めている。

 「初めて来るとは言え流石に迷子にはならんだろ」

 「あら、先ほど涙目で辺りをキョロキョロしていた挙句ちょっと話しかけたくらいで大袈裟なリアクションを取っていた人が自信満々にそんなことを言えるのかしら」

 軽く微笑みながらそう言い放つ葉月。

 てか、しっかりと見られてたんだな。おかげで顔が熱くなってきた。

 これ以上この会話を続けてたら顔から火でも吹き出してしまいそうだ。ただでさえ穴でもあればそこに入ってしまいたいなどと本気で思う程にまで思考がおかしくなっているというのに。

 いかんいかん、とりあえずパンフレットでも読んで落ち着くとしよう。

 そう思い俺は案内板の側にあったパンフレットを手に取り葉月の後をついて行きながら流し読み程度に目を通していく。

 ふむ、どうやらここは自然がコンセプトらしい。言われてみれば草木がそこらへんに生えてるな、水路とかもあってなかなか綺麗だ。

 しかし、そんなものに目もくれない葉月はお店が立ち並ぶエリアへとまっしぐらである。

 「ここ自然を重視しているらしいぞ」

 「そう」

 遠まわしにもう少し自然を眺めながら行かない?と尋ねたのだがどうやら彼女には伝わらなかったらしく、その足は一向に止まる気配がない。

 多分、パンフレット無しにどこに何があるかわかっているみたいだから何度か来たことはあるんだろうな。

 それなら興味ないのも合点がいくと思いながらも葉月のあとに続くこと数分、お店が立ち並ぶエリアへと着いた。

 だが、周りを見てみれば女性用の服ばかりで当然葉月はそこに入っていく。

 え、これ俺も入る感じなのかな。場違い感が半端ないんだけど。

 そんなことを思いつつも3軒程葉月と共に出たり入ったりを繰り返していた時だ。

 「はぁ。私について来てもすることがないのだし、自分の行きたい所にでも行ってきたら?」

 と、ため息混じりそう言われてしまった。

 まぁ、俺も薄々おかしいなとは感じていたんだ、驚く程に無視というか他人のフリをされてたからな、お陰で店員さんに白い目で見られ、ついには「何かお探しでしょうか?」なんて聞かれてしまった。

 完全に不審者扱いされてるよな、警察に通報されてなければいいけど。

 「あぁ、悪い。ついて回らないといけないのかなと思って」

 「お得意のお回りさんスキルが発動したのね」

 何かを納得したかのように葉月は頷く。

 にしてもまだ覚えたのかよ、もはや能力的なやつになっちゃってるし。

 てか、今警察関連のことには敏感なんだからやめろよな。

 「いやだってリスクを背負ってまで来てるのにここで別行動するのはおかしいだろ?」

 「蓮君って学校では一人でいるくせにこういう時は一緒に行動したがるのね......。心配しなくてもお昼から一緒に回る予定よ。ただ、今は一人で買い物がしたいってだけ」

 別に一人が好きってわけじゃないんだけどな......。

 そもそも俺は安易に親密な関係になろうとしないだけであって、信頼を寄せている人であればその信頼を更に高めていこうとする、俗に言う狭くて深い関係って奴を大切にしているのだ。

 葉月はその逆で、広くて浅い関係を大切にしているのだろう、最近はそのある一部の関係者にやたらうんざりしているようだが。それでもその信念を貫こうと笑顔を作り声を変え彼、彼女らに明るく振舞っている。

 仮面を被り嘘を吐きながらも自分の時間は他人に(むさぼ)られる、こんな生活俺には到底できそうにないけどな。

 ま、そんな話はどうでもいい。

 今大切なのは彼女が発言した言葉の意味を理解することだ。

 というわけで翻訳開始。

 『お前、ぼっちのくせにかまってちゃんなん?心配せんでも後で可愛がろうと思っていたから安心しな、でも今の間だけは消えてろ』

 ......なんか超怖い人出て来たんですけど。

 「要するに邪魔だからどっかいけってことか」

 あれ、俺が成した翻訳のおかげで少し言葉が荒っぽくなったかな。

 そのせいか葉月は顔を曇らせてしまった。

 「そこまでは言ってないのだけれど。ただ自由な時間も必要かなと思っただけだから、そんなに気にしなくていいのよ」

 気使わせちゃったかな。てか、葉月が気を使うなんて余程怒ってるようにでも見えたんだろうか。

 何にせよ誤解は解いておくのが一番だろう。

 「全然気にしてないよ。それより昼からの待ち合わせ場所決めないとな」

 普段よりも少し明るい調子でそう言った刹那。

 「よかった......」

 誰にも聞こえない声で呟いた葉月はホッと一息し、微笑みを取り戻す。

 「そうね、12時頃に中央広場にある噴水の所で待ち合わせということでいいかしら」

 「わかった。んじゃ、また後で」

 そう告げると俺は時間が来るまで暇をつぶしに行くのだった。

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