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Lost memory  作者: ぴかちゅう
第一章
13/15

謝罪

 昼休み。十五夜と屋上で弁当を食した後、俺は自分の席へと戻り机に顔を伏せていた。

 別に眠いから伏せているわけではない。隣の席に座っている葉月に昨日の事で謝りたいのだが、彼女の周りには普段小動物のように静かで大人しい男子共が群れを成し求愛をしているのでそれを効率的に待つためにこうしているのである。

 「葉月ちゃんってかわいいよね」

 「ありがとう」

 「性格もいいし」

 「ありがとう」

 「理想の女子って感じだよなあ」

 「ありがとう」

 我先にと褒め称える男子共の言葉も、葉月お得意の営業スマイルと“ありがとう”の前では何ら意味を成さない。

 あらゆる発言に対し決まり文句しか返ってこない時点で興味がないのは丸わかりだが、このバカ共はそれを理解できずどうにも各々好感度が上がったと思い込んでいるらしい。

 そんな中、昨日はごめんなどと抜かせば奴らにどんな仕打ちを受けることやら、想像したくもない。第一に教室では話しかけないでと昨日断りを入れられたばかりである。

 だからこそ寝たふりをして葉月が一人になるのを待っていた訳だが、その機会が訪れることはなさそうだった。

 「あぁ~席替えで葉月ちゃんの隣が良かったのになんで六無月(むなづき)なんかが取るかなぁ、ただでさえアイツ窓際でいい席なのに」

 そうだーそうだーと同感する男子共が六無月君を責め立てる。

 ところで六無月君って誰だよ、このクラスにそんな人はいないはず。似た名前で水無月なら……あー、なるほど。こいつら俺の名前を間違えて覚えていやがる。そして何で葉月は必死に笑いをこらえてんの。

 ……いやはやしかし、何とかクラスに馴染もうと俺なりに努力した結果、名前すらろくに覚えてもらえず、あまつさえ敵意が向けられていたとあっては色々な事がどうでもよくなってくる。

 ああ、これ以上ここにいれば更なるダメージを被りそうなので一旦席を外そう。そう思い立ち上がるやいなやざわめきに充ち満ちていた隣席は無音と化し、“やばい聞かれていたかも”という心の声が聴こえてくるような気がして、それはその愉快さ故についニヤけてしまう自分の性格の悪さを感じる瞬間だった。


 ***


 「それで話って何かしら」

 時間はズルズルと過ぎていき放課後の今に至る。

 俺を除くクラスメイト全員が教室から出て行ったのを確認し、葉月が問いかけてきた。

 ついさっきまで帰りの挨拶をしに来た男子共をさわやかスマイルと温かボイスで見送っていたくせに、たったの数秒で真顔且つ冷淡なボイスへと変貌している。

 キャラの切り変わり方が半端ないです葉月さん。少しは慣れたからいいものの、もしあいつらがこの場面に直面したら間違いなく凍りつくだろうな。

 さて、俺はこれから隣で頬杖をついてこちらの反応を待つ葉月に対し昨日の件について謝罪をせねばならない。

 謝った後いくつの暴言が吐かれるかを予想し指を一本ずつ開きながら数えてたが、両手がパーになったところで考えるのをやめた。

 「ちょっと聞いてるの? 耳聾(みみつんぼ)さん」

 なかなか話を切り出さないことにイライラしたのか軽く煽りに近いセリフを吐く葉月。いつもより機嫌が悪そうなのは気のせいなのだろうか。

 それを受けて俺は先程完成させたパーを横に振った。

 「いやいや、ちゃんと聞いてるよ。ただ……」

 ここでひと呼吸置き意を決する。

 「昨日は俺から誘っておいてその……悪かった」

 頭を下げその後恐る恐る顔色を伺うとケロッとした顔でこちらを見ているのがわかった。

 「何について謝っているのか見当がつかないのだけれど」

 その一言を聞き俺の顔もケロッとなる。どうやら時期的にケロケロなりやすいらしい。

 「いや、昨日途中で寝ちゃったじゃん。それに、解説とか書いてくれたみたいだし」

 「別に寝てしまったからと言って問題は無いわ、解説も私が勝手にやったことだし。そんなことで謝る暇があるなら勉強をしなさい。あの調子だと間違い無く欠点よ」

 文句を言われるかと思いきや、逆に心配されてしまった。

 暴言の数を指で数えようとしていた手はパーにもチョキにもならず、なんの喜びからかそのグーを軽く手前に引きガッツポーズをする。

 しかしそんな喜びもつかの間、このままでは葉月の言う通り欠点をとってしまうだろう。自分で言うのもなんだが、数学はもちろん英語や理科も壊滅的なんだよな。

 因みに100点満点中30点以下で欠点となり、もし一つでも欠点をとってしまうと夏休みに一週間程学校で補習を受けなければならなくなる。

 「数学は葉月のおかげで何とかなりそうだ、感謝の印として今度何か奢るよ。あとの教科は……まぁ大丈夫だろう」

 さり気なく奢るなどといって好感度を上げようとする俺マジ策士。

 「そうね、それじゃあ私の全教科の合計点から蓮君の点数を引いて出た数値分奢ってもらおうかしら。今のままだとそこそこの額になると思うから頑張ったほうが身の為よ」

 えらく自信満々だな。しかしなかなか面白そうな勝負なので乗ってやるとしよう、いくらオツムが弱い俺でも勉強さえすればそこまで点差がつくこともないと思うし。

 「上等だ。スナック菓子奢る程度で済ませてやる」

 つまりは100点も差がつかないくらいの点取ってるやるよと言ったのだが葉月は呆れた顔をしていた。

 「私に勝とうと思う気はないのかしら」

 葉月がどれくらい出来るのか知らないからなぁ、見た感じだと上の下くらいだから勝つことは無理そうって思っただけなんだが。

 「実力を知らないからあんまり適当な事は言えないしな。前回のテストは何点だったの?」

 そう聞いた瞬間葉月は悔しそうな顔をする。

 「1200点中1199点だったわ、蓮君はどうだったのよ」

 いや待て待て、特上の特上じゃねぇか脂とかのってて美味しそうだな。このままだと特上マグロ一貫でも奢るくらいの金額になりそうだが今更前言撤回なんて男が廃る。

 「そんな頭良かったんだな……俺は400とか500とかそこらへんだった気がする。微塵も、ほんとミジンコほども勝機が無いことは分かったよ」

 同情でもするような目をこちらに向ける葉月は一つため息をついた。

 「あまり頭の出来が良くないことは知っていたけどまさかそこまでとはね……でも今回は私もあまり勉強ができていないから大分点数が落ちると思うわ」

 嘘だな。大体の勉強やってなーい発言は嘘である。これは学校あるあるの中でもかなり有力な物の一つだろう。

 「そいつは信じがたい話だな」

 あくび混じりに言うとキッとこちら睨みつけた葉月。睨み返す度胸もない俺はすぐさま目を逸らしたと同時に男が廃った。

 「最近小バエがうるさいのよ。今日だって休み時間中人の周りでブンブン言ってたしついさっきもそうだったわね。それで家に帰ってやっと解放されたかと思えば今度は携帯がブンブン鳴り始めるの。鬱陶しいことこの上ないわ。どうにかならないかしら……」

 だからあんなに機嫌悪そうだったのか。確かにうるさそうというかうるさいもんなあいつら。

 「あいつらにも今みたいな感じで接すれば解決すると思うが」

 しかし首を横に振り“それはできない”と無言で意思表示されてしまった。

 「私のことはいいから蓮君は勉強しなさい。言いたいことがないのならもう帰るけど」

 天邪鬼な俺に対する命令はナンセンスだ、とか言ってやろうと思ったが帰るというなら余計なことは言うまい。

 「特にないよ。んじゃまた明日な」

 そう言いながら俺は軽く手を振り葉月を見送るのだった。

 

  

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