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Lost memory  作者: ぴかちゅう
第一章
11/15

席替え

 あれから約二ヶ月が経過した。

 葉月との関係になにか進展があったかといえばそんな事は無く公園で別れた次の日、学校で会った葉月に対して挨拶をしたところ無視をされるという結果となりその日以来再び観察するだけの一方通行状態へと戻っていた。 

 しかし改めて観察し気づいた事がある。

 クラスにいるときの葉月は素の時と比較にならないほど可愛い。悪い言い方をすれば猫かぶっているということだ。

 活気にあふれた口調やトーンからは元気な子ということが伺え、高圧的な態度も一切取らないし顔立ちがよくそれでいてどこか抜けた感じもあり男子の間では人気急上昇らしい。

 その中に俺も含まれているわけだがほかの男子とは違う点が一つある、俺の場合は葉月 凛(クラスver)に限るということだ。まぁ素の葉月も黙っていれば可愛いし時々反則的な言動もしてくるのは何とも言えないが流石にマイナス面がひどすぎるのが欠点となっている。

 いつまでも一方通行のままではいけないと思うものの一向にその糸口が掴めず、そうこうしている内に時期は梅雨へ、俺の貧弱な気力は連日降りしきる雨とともにどこかへ流れ去ってしまっていた―――


 今日も雨が続きこれで5日間連続の雨となっていた金曜日の朝の教室。

 クラスの奴らは死人のような顔で濡れた箇所をタオルで拭いたり机に顔を伏せたりとどんよりとした雰囲気が教室の中に漂っている。ただひとりを除いては……

 「おはよー」

 突如ドアの方から元気な声が発せられこの雰囲気に逆らう。その声音を耳にした男子どもが一斉にドアの前で朝の営業スマイルをしている葉月に注目し脳内をお花畑へと変える。

 その最中営業スマイルに全く応じない男が俺の方へと近づき話しかけてきた。

 「すごい効果だな、しかし蓮もあんな倍率の高い子を好きになるなんて、もう頑張れとしか言いようがなくなってきたよ」

 それは学年一、いや校内一情報通と呼ばれる男、長月 十五夜だった。どうやら彼には女子の人気を倍率で表せるほど情報量があるらしい。

 「俺は最初から好きだったんだ。この頃好きになったそんじょそこらの奴らとは一緒にしないでもらいたい。でも、頑張れなんて言われてもさ、何かきっかけでもあればいいんだけど」

 「きっかけか。実は今日の帰りのHRに席替えをするらしい。それで運良く葉月の隣になれればきっかけになるかもな」

 なんだと……席替えの情報なんてどこから手に入れたかは知らんがそれなら確かにチャンスがあるかもしれない。問題はこの30人以上いるクラスの中で隣になれるかということ。

 そういえば今日の星座占いでは俺の星座である蟹座が一位だったことを思い出す。所詮気休めだが期待してみても良いだろう―――


 それからの数コマはろくに集中も出来ず時間が過ぎ気が付けば帰りのHRへとなっていた。

 「突然だが今から席替えをする、ここにくじが入った箱があるから出席番号順に取りに来い」

 流石、十五夜。本当に席替えがあるとはな。

 葉月との仲を進展させるきっかけとなりうる第一の関門、席替えが今始まった。

 まずランダムに数字が振られた黒板の座席表を確認し自分の理想形の席の番号を確認する。その番号は9番だった。

 俺の理想は窓際の一番後ろの席に俺が座りその隣に葉月が来ること。だがこの確率は極めて低い、それどころか俺の隣に葉月が座るというのもそこまで確率は高くないだろう。

 刻一刻と迫り来るくじを引く順番。一人、また一人とくじをひいて俺の前から消えて行く、そしてついに自分の番へと回った。

 箱の中に手を突っ込み何も変わることはないのに無駄にぐるぐるとかき混ぜやがてくじを一枚引き出し自分の席へと戻る。

 一枚の紙を小さく切り、折り曲げて作った簡単なくじなのに開く時は祭りなどでよくあるくじを開く時と同じ感覚なのは気のせいなのだろうか。

 お祭りのくじ引きの特賞が今この場では9と書かれた番号且つ隣に葉月が来ること。1等はどこかの席の隣に葉月が来ることそれ以外はハズレに等しい。

 いつまでも開かないというわけにはいかないので意を決してそのくじを開きそして刮目することとなる。

 そこに書かれていたのはなんと9だった。理想へと第一歩を踏むことができ歓喜する。

 しかし喜ぶのはまだ早い、隣に葉月が来なければ全く意味がないからだ。

 「皆自分の席が確認出来たら移動開始」

 歓喜に浸るのも束の間早くも第二歩目へと駒を進めることとなった。

 一斉に引きずられた机と椅子が床に擦れ暫し雑音が響き渡る。

 進路を譲り譲られやっとたどりついた新たなる自分の席。

 ここでまた緊張が高まってくる。幸いなことに未だ隣の席は空いたままだった。

 これ以上目視することに耐えられなくなった俺は雑音が鳴り止むまでの間机に顔を伏せる。

 すると前の方から聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

 「あの、通れないから少し左側に寄ってもらえると嬉しいかな」

 この声は…… と思い顔を上げるとそこには困った表情を浮かべる葉月の姿がありつい見とれてしまう。

 「あぁ、ごめん」

 そう言って席を左側へと寄らせると葉月は机を引きずり始める。だが、その進行はすぐに止まり椅子を引き座り始めた。

 ……え? 一瞬理解が出来なかったがそれを理解したとき再び歓喜が蘇り脳内では何人もの俺が万歳を繰り返す。

 だがこれはあくまできっかけを作る設備でしかない、本当に大切なことはこれからだということを考え思い切って話しかけることにした。

 「これからよろしく」

 なんだこの意味のわからない挨拶は、席替えして隣の人によろしくなんて言う奴いないだろ。

 馬鹿げた発言をした自分を責める。

 「うん、よろしくね。それにしても君は相変わらず教室ではいつも一人みたいだね」

 良かったちゃんと返してくれたよ。一人称は君に戻ってたけどまぁクラスのみんながいるところで下の名前で呼ぶと色々誤解を招くから避けたんだろうな。

 それにしても俺が一人でいる事を知ってるって事は葉月も俺のことを見ているっていうことなのか。

 「まぁ時々十五夜とは話すけどそれ以外は一人だな」

 今更だが好きな相手に友達が少なく一人の時が多いなんて言う自分が痛い。

 「そういう葉月も相変わらず……」

 「しーっ」

 こちらからも同じ条件で質問をしようとしたのだが途中で人差し指を口に当てる葉月にそれは言っちゃダメと遮られてしまう。

 しかしその不意の行動に眼福した俺はそれ以上聞くことはしないことにした。


 「移動は済んだか? 再来週からはテストがあるので明日、明後日の土日からでもテスト勉強を始めるように、それじゃあチャイムが鳴るまで待機」

 テストか最近授業についていけてないし勉強しないとまずいだろうな。一人だと結局他の誘惑に負けて勉強が出来ないし、十五夜でも誘って一緒に勉強するかな。

 いや、待てよ。これこそ葉月と仲良くなるきっかけになるんじゃないのか。

 そう思うとすぐさま誘いを入れる。

 「テスト近いし良かったら来週から一緒に勉強しない?」

 周りには届かないよう小さな声で告げ返事を聞こうとした時だった。

 タイミングよく学校のチャイムが鳴り起立という号令とともに椅子から発せられる音が鳴り響く。

 葉月は口を動かし何かを言っているようだったが雑音が邪魔をしその声は俺の耳へと届くことはなく次に礼という号令の後葉月はその席から去ってしまった―――

 

 最後に葉月が発言した言葉を気にしながらも三日が経ち学校は既に放課となっていた。

 今日は日直だったので職員室にいる先生に日誌を渡し施錠の確認を伝える。

 教室へと戻ると今週からテスト週間で放課後は直ちに帰らないといけない規則があるためか教室は一人しか残っていなかった。

 「遅い。蓮君から誘っておいて、こんなに待たせるなんてどういう神経をしているのかしら」

 二ヶ月ぶりの口調とトーンそれに冷たい眼差しを感じ話しかけてきた人を確認する。

 そこにいたのはいつもクラスで見せている顔ではなく素の葉月だった。

 やっぱり二人きりの時は素に戻っちゃうんだな……てかちゃんと名前で呼んでくれてるし俺としたことがまたもや不意をつかれてしまったではないか。それにしても、誘ったってなんのことだ。もしかしてテスト勉強のことか?

 誘った覚えといってもそのことしか思い浮かばないためあの時聞こえなかった返答はYESだったということで話を進める。 

「ごめん。日直だったから仕方なかったんだよ」

 そう。と納得する葉月、だがこれだけでは終わらなかった。

 「そろそろ周りを確認できる力付けたらどうなの。あの時と全く変わらないじゃない、いちいち寄ってなんて言わせないで。それに、よろしくって何よ蓮君の挨拶の仕方はおかしんじゃないの、どうやらテスト勉強よりもコミュニケーション能力をつける方が先のようね」

 ボロボロに言われ謝る気力も無くしてしまう。今回に関しては葉月が悪いところは一つもないため言い返すこともできない。

 「これからは気をつけるよ……」

 「ふん、まぁいいわ。そんなことよりも勉強はどこでするのよ。学校は無理だし誘ってきたのは蓮君なんだからちゃんと考えてきているでしょうね」

 まずい。一緒に勉強ができるなんて今の今まで知らなかったから全く考えてきていない、しかしこの事を言うとまた怒るだろうからメジャーなところでも言っておこう。

 「無難にファストフードとかレストランとかじゃない?」

 「無難? ホントバカね。そんなところ行ってみんなに見られたらどうするのよ」

 しかしモノの数秒で論破されてしまい少しへこむ。

 「葉月は俺といるところをみんなに見られるのが嫌なのか?」

 「嫌よ。みんなに見られるなら死んだほうがマシっていうくらい嫌。本当なら教室でも話しかけて欲しく無いのだけれどみんながいるところで無視もできないし仕方なく話しているのよ。なるべく話しかけないでくれると助かるのだけれど」

 自分はドMかという程分かりきった質問を与え案の定返ってきた答えに自爆することとなった。

 しかし、ひとつの疑問が沸く。

 「ならなんで俺の誘いに乗ったんだ?」

 その疑問をストレートに聞くと少しの間葉月は黙り込んでしまった。

 「それは……蓮君でストレス解消させるため……かしらね」

 ようやく口を開いたかと思えば相変わらずの無慈悲な言葉で雑な扱いをさせられることが確定した。それでもここからきっかけを作れればと生意気にも考えるストレス解消マシーンこと俺。

 「先が思いやられるな。話は戻るけど、勉強場所は俺の家か葉月の家じゃダメかな?」

 正直これを断られるとほかに思い当たる場所は存在しない。

「私の家は厳しいとして、蓮君の家も本当は嫌なのだけれど仕方がないわね。でも、帰り道はみんなにバレないようなルートがあるのかしら」

 なんとか妥協してくれたが警戒心は未だ衰えることはないらしい。

 「回っていけば、みんなにバレることなく行けるけどその分は時間がかかるぞ」

 「問題ないわ、でも流石はお回りさんと言った所かしらね」

 二ヶ月経ってもまだ覚えているとは、葉月は意外とそのニックネームを気に入っているのかもしれないな。だからといって許可をするつもりは全くないが。

 「それはやめろ」

 クスクスと笑う葉月。その笑顔は素の時とクラスにいる時と何ら変わることはなく俺の心を奪っていく。

 そして葉月との仲を発展させるべく二人は家へと向かった。

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