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Lost memory  作者: ぴかちゅう
第一章
10/15

公園

 学校からおよそ30分ほどの所に公園がある。

 その公園の中心部には巨木があることから地元では木の公園と呼ばれていて子供達が遊ぶのはもちろん大人たちも巨木を目印にして待ち合わせに用いるなど幅広い世代が出入りする人気のある公園だ。

 俺も小さい頃はよくここで遊んでいたが、歳が経つにつれて訪れる回数も少なくなった。

 今では待ち合わせの時などでしか立ち寄らないがたまにはゆっくりするのもいいだろう。

 あの信号機の出来事から会話が弾んだ二人は楽しく口喧嘩。もとい、互いの短所の確認をしながら公園へと向かいようやく到着した。

 喋りまくったせいかものすごく喉が渇いていたのでひとまず喉を潤すべく水道へと向かう。

 水道に着き、水を出していざ飲もうとした時だった。

 「待ちなさい、そこはレディー優先でしょう」

 その一言で水を飲む行為を止められそうになるがそうはいかない。のどが渇きまくっている今レディーも何も関係ない。

 言葉を振り切り再び噴射されている水へと口を運ぼうとした時だった。

 ッッッタァ!!!?

 突如横腹に勢い良く何かがぶつかり、理解もできぬまま痛みと疑問の混ざった声を上げ地面へとダイブする。

 体を起こし元自分がいた場所を見てみるとそこには水を飲む葉月の姿があった。

 「あら、どうしたの。そんなところで寝っ転がったりして、土に還ろうとしてるのかしら、それとも頭の上に星が2,3個ほど回ってる様な腑抜けた顔を見るにお空の星になりたかったのかしらね」

 どうやら俺はこれから死のうとしているらしいのだが意識はまだはっきりとしていて葉月の十八番、猛ダッシュ蹴りをくらわせられたのだと理解すらできた。

 あぁ冗談か。そんな簡単なことに気づいた俺だったが危うく土に還されお星様になるところだったんだ自然と言葉が出てしまう。

 「痛ってーな。何すんだよ」

 「君がどかないからでしょう。うじうじ言ってないでさっさと飲んだらどうなの。ホント器が小さいわね」

 そのような理由で蹴っ飛ばすとはレディーの風上にもおけない、そんな奴に器が小さいなど言われる筋合いはないがそれを言うとまた厄介なことになりそうだから今回は黙っておこう―――


 ベンチに腰を掛けるとその隣に当たり前のように葉月も座り恐らく今まで一番近い距離であることに胸が高鳴る。

 先ほど喉を潤したばかりなのにその潤いは既に無くなってしまっていた。

 今では喉が詰まっているのかと思わせるほど言葉が出せずに、やることといえば横目でチラチラと葉月の姿を見ながらどうせ振ることもないであろう話題を必死に考えるくらいだった。

 何も思いつかないな。ていうか手細すぎだろ、肌も白くて体も小柄で少しでも風が吹けば肩に掛かるか掛からないかくらいの髪の毛からは何やらいい香りが漂ってくる。この香りはどうやら危険なものらしく嗅いでしまったら最後、イケナイ事を考えてしまう。

 ほんのりと湿った柔らかそうな唇……

 柔らかいと言えばと思い再び葉月を見る。だが今回は顔を見ることはなく視線はやや下の方。

 Bくらいか、まぁ平均的といったところだな……

 そんなことを考えていると葉月と目があってしまった。

 やばい気づかれたかも……

 そう思うと瞬時に目をそらす。ここでようやく我に帰った。

 今まで自分は割と紳士な方だと思っていたが、オスとしての本能がしっかりと働いてしまったことに驚く。しかし、それよりも動揺の方が大きい。

 バレていないと信じ気持ちを落ち着かせやがて巨木を眺めることとした。

 「私、小さい頃この公園によく来ていたのかもしれないわ。あの大きな木、とても見覚えがあるもの」

 葉月も同じ木を眺めていたらしくどこか懐かしげな言葉使いで話を切り出す。

 その言葉を聞いた時この公園によく通っていた幼い頃を思い出し脳裏にある少女が映し出された。


 ***


 顔ははっきりと覚えてはいないが満面の笑みを浮かべた少女。口を動かし何かを喋っているようだが声は聞こえない。

 しかし、明るい表情を見るに恐らく楽しいことをしているのだろう。

 ここでカメラのシャッターが切られたかのように場面が移り変わる。

 そこに映し出されるのはまたも同じ少女。しかし今度は口を膨らませている少女に対して何度も謝る少年の姿も写る。その少年は俺自身だとすぐに理解できた。

 何か怒らせることでもしたらしい。

 再び場面は変わる。

 なにやら悲しみを笑顔で押し殺しているやはり同じ少女の姿。しかしこの記憶だけはほかのものと違う、笑顔で涙を流している少女がノイズがかった声で喋りだす。

 「もう会えな……るかもし……けどまた会……といいね、バ……イ……バ……イ」


 昔の記憶によく出てくるあの子はいったい誰なんだろう。特に最後の場面は夢なんかにもよく出てくるし。でも何も手がかりがないから探しようもないんだよな、あの子今頃何をしているんだろう……

 「どうかしたの?」

 ふと浴びせられた一言で過去の思い出から現実へと引き戻される。

  気づけば葉月が不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。

 「いいや、何もないよ。ただ、昔のこと思い出しちゃって、俺も小さい頃はこの公園でよく遊んでたからさ」

 「君もよく来ていたのね。もしかしたら私たち一緒に遊んだことあるかもしれないわね」

 巨木を遠い目で眺めながら話す葉月に同感の意味も兼ねて頷く。

 それと同時に頭にある予感がよぎる。

 もしかしたら葉月があの子なのではないか―――

 そう考えると一気に親近感が湧いてくるが確信に至るまでの根拠がないので聞くことはしなかった。

 代わりにずっと気になっていたことを聞くとする。

 「葉月って俺と話す時とクラスの奴らと話す時との温度差が激しすぎる気がするんだけど何か理由でもあるのか」

 すると葉月は俯き出す。

 もしかして聞いたらいけないことだったのかと少し焦る。

 「そうね、私は誰とでも仲良くする。逆に言えば一人が特別なほどの仲になることはない。そうやって過ごすには誰にでも明るく接していればいいって事に気づいたからよ。本当に仲良くしたいっていう人にはいつもの自分で接してるわ」

 仲良くしたい人とは普段通りに話す、と言うことは俺と仲良くなりたいってことに…… 

 「じゃあ葉月は俺と仲良くなりたいのか!?」

 つい勢いで言ってしまったことに後悔した。

 「どちらかといえば興味があるわ。学校でも言ったけど君はほかの人と違うから面白いのよね」

 それを聞き安堵する。よし、興味をもたれているならばその期待に応えて好感度アップさせていこう。

 そしてもう一つ気になっていたことを聞くことにした。

 「葉月ってなんで俺のこと君って呼ぶの。もしかして名前知らないとか」

 初めて話したときから疑問に思っていたがようやくその理由が聞ける。

 「君って感じの顔してるからかしらね。その呼び方が嫌ならさっき星くるくる回してたみたいだったしやっぱりお回りさんって呼んでいいかしら、水無月蓮君」

 実に愉快そうな表情を浮かべる葉月。

 君って感じの顔ってどんな顔だよ。そして終わったネタを掘り返すのはあまり好みではないな、てか俺の名前知ってたのか。

 「そのネタもう終わったから。それに俺の名前知ってるなら名前で呼んでくれればいいのに」

 ちなみにクラスの奴らはほとんどが水無月をベースに君を付けたり付けなかったりして呼んでいるらしい。

 もちろん俺自身話すことが無いから実際に呼ばれたことは無いのだが、そのソースは言わずと知れた情報通、長月 十五夜からだ。なぜそんなことまで知ってるのか不思議に思う。

 「水無月って口にするのがめんどくさい名前だったから水無月君を短縮にして君って呼んでいたのよ」

 理由が単純すぎる上、全国の水無月さんをめんどくさい呼ばわりするとは、せめて名前をいじるくらいはして欲しい。

 「それじゃあ下の名前で呼べばいいんじゃないのか?」

 今日話したばかりなのに下の名前で呼ばれるようになるのは流石に贅沢だが君と呼ばれるのはどうも上から目線な感じがして気に障る。

 「バカね、下の名前なんかで呼んだら色々誤解されるでしょう。まぁもう少し仲良くなったらいつかそう呼んであげてもいいけれど」

 やはりダメだったか。はたしてそう呼ばれる日は来るのか怪しいところだが、それよりも今後も話してくれるのかが何よりも心配だ。そう考えると呼ばれ方などどうでもよくなってくる。

 ピロリン~♪

 この話に終止符を打つように隣から電子音が聞こえてくる。その音が鳴ると葉月は自分の携帯を取り出す。どうやら誰からかメールが来たらしい。

 「お母さんが帰って来なさいだって。私色々と制限されるのは嫌いなのよね」

 そう言いながらも帰宅の準備をする葉月。気づけば時間は20時を回っていた。

 「なんだかんだ言って親の言うことは聞くんだな」

 「だってお母さん怒ったら怖いから」

 何かを思い出しながら発言する葉月。おそらく過去に恐ろしい出来事があったのだろう。

 あの葉月が怖いと言うのだからすごい人なんだろうな、見た感じではただのおばさんって感じだったけど。

 「今までどんなことされたんだ?」

 恐る恐る聞いてみることにした。

 「そうね、私のおかずだけ食べきれないほど塩辛かったり。寝ようかっていう時に急に部屋に入ってきて朝までずっと話しかけてきたり。そのほかにもいろんな嫌がらせをしてきたわ」

 それは怖いな……俺の想像していた怖いとは180度違ったがある意味では0度の怖いよりも180度の怖いの方が怖いのかもしれない。

 「違う意味で怖い人だな。それじゃあ帰るとするか、駅まで送ろうか?」

 早く帰らせないといけないという衝動に駆られ何故か俺が焦る。

 「ううん。駅まで走るからその必要はないわ、でも大通りに出るまでの道は教えてもらおうかしら」

 どうやら葉月も大分焦っているらしい―――

 

 大通りまでの道を簡単に教え終わりそろそろ葉月ともお別れのようだ。

 「また明日学校で」

 手を振りながら言う。

 「ええ。今日は色々と楽しかったわ、反省文頑張ってね。レ、ン、君。」

 そう言い残し走り去っていく葉月。

 現実を思い出させて萎えさせた後の不意打ちとは、相変わらずアメとムチがうまいな。

 葉月のこの一言で俺の顔はニヤケ顔と変化したのだが俺自身気づくことなく家へと帰宅し妹の千咲(ちさきに「ニヤニヤしながらいつもより随分遅くお兄ちゃんが帰ってきたなう~」などと大声で言われその後家族に質問責めされたことは一生の秘密としておくことにしよう。

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