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七色の精霊使い  作者: ぽけぽけさん
地球では高校生だったのに、異世界では異能者であり冒険者です。
3/12

異世界で集結

「・・・お久しぶり、日向」

「お、お久しぶり。冬華」


あの謎の光に包まれて知らぬ草原にワープし、来てしまった場所が異世界だと知り度肝を抜かれてから早一ヶ月以上経ったある日の出来事。

冷や汗がつーっと額を伝い、体全身が小刻みに震える。柔らかい地面に正座している俺は生まれて初めて『戦慄』という名の感覚を味わっていた。

目の前には鬼の姿。じゃ無かった、冬華の姿。逃げなければならない、このままここに座っているのは危険極まりない。俺の本能がそう伝えている。近くの空中に漂う精霊達も


―――アブナイヨ

―――キケンダヨ

―――アレハヒトジャナイ。鬼神か悪魔ダ


と口をそろえて忠告してくる。それと最後の精霊。俺はお前の意見に賛同する。


鬼神―――もとい、冬華は出来るだけ満面の笑みでいようと思っているのだろうが、逆に眉が釣りあがったりして余計怖さ倍増。あまりの怖さに足がすくんで筋肉がいうことを聞かない。子供だったら意図も簡単にちびってしまいそうだ。それとその笑顔が夢に出てくるだろう。もちろん・・・悪夢で。


「あははははッ!日向が床に這いつくばってるのを見るのはいつ振りだろう」


と翔がカシャリと異世界に来るとき一緒に持ってきた携帯電話で俺を撮影する。今すぐやめさせたいが体がまるで地面と一体化しているかのように動かないのでどうしようもない。出来ることは深いため息を吐くことだけだ。

もちろんのことだが電波が来ないので電話もメールも機能を果たさない。アンテナは圏外をずっと指しているのである。

一応みんな携帯を持っているが使えないし、もし遠くで会話しようと思ったら『念話』の魔法を使えばいい話だ。


「・・・で、反省した?」

「・・・なんのことでしょうぎゃあああああ!」


あ、あぶねぇ。

冬華こいつ問答無用とばかしに雷属性の魔法ぶっ放しましたよ。

俺がもしとっさに精霊魔法の属性障壁を張れなかったら一瞬にしてあの世行きだったぞ、っていうか魔力込めすぎだろ!こっち側まで魔力をごっそり持っていかれたわ!


「・・・まったく。・・・私が怒っている理由が分からないの?」

「微塵も」

「・・・いつもだったらチョキの正しい使い方を身を持って知ってもらうところだけど・・・はぁ、日向が鈍いのは今に始まったことではないし教えてあげる」


ビシッと指を前に突き出し、若干口を尖らせて告げる。


「―――なんでいち早く私を探そうとしなかったの?」

「へ?もしかして一人で寂しかったのか?」

「・・・っっ!そういうことじゃない!」


俺が率直に答えると全否定するかのように首を振った。

冬華のこういうのも可愛いなと思いつつ硬直が溶けたのを確認し俺は立ち上がる。


「仲間はずれにしたわけじゃないんだぞ」

「・・・分かってる。・・・でもはらわたが煮えくり返るくらいなんかムカつく」


なんて理不尽な!

別に冬華を見捨てたわけじゃないっていうのにさー。ちゃんとした理由はあるのに。



     ☆



そもそも俺たちは異世界にワープしたって言っても、全員ばらばらのところにワープしたんだ。

翔は中央都市『フェリア』の付近に、冬華は北の国『スノア』の付近なのに俺だけ見渡す限りの大平原。神さま、俺何か恨み買いましたか?それともイケメンと美女だけ優遇するのですか?


という俺の思考はいったん棚に上げておいて次の話をする。

行く当ても無いまま途方にくれていたが、意を決し冒険気分で歩き始めた。当初は動くのを躊躇っていた俺だったがいざ探索してみると未知の光景に驚きを隠せなかった。川を流れる水は透明で、濁りきった汚水が流れる地球の川とは大違いだった。掌にいっぱいすくった水の味はほんのり甘くおいしかった。たまたま持ち歩いていた携帯用のペットボトルに入れ、予備にすることにした。不意に空腹が俺を襲いなんか食べ物ないかな~と森に一人では行ったところ灰色の巨熊、後々知った名だと『グレイトベアー』と遭遇してしまいこの熊の餌になりそうな俺を救ったのは脳内に直接響く謎の幼い声だった。幾人もの男の子と女の子の声に従ってみると天を貫くような竜巻が発生しグレイトベアーを瞬殺した。そのときにここは『シレスティア』という異世界の一つだという事と、この声の主が精霊達だと知ったのだ。


腹が減った俺は食えりゃいいやとやけくそになり、火の精霊魔法でグレイトベアーの肉を焼いた。熊肉を食うのは初めてだったが味は最高だった。「なにこれ、黒毛和牛よりもウマッ!」と一人はしゃぎながら食っていたところ近くを歩いていた冒険者達と遭遇。その人たちは優しく、俺を近くの町まで連れてってくれたのだ。二日くらいかかったがそこは運良く中央都市で一週間もしない内に翔と再開出来た。翔は冒険者とやっており、『ギルド』に所属して依頼を受けているのだといった。冬華を探したいが何処にいるか分からないのでここで依頼をこなしていればいつか会えるんじゃないということになって俺も冒険者となり働くことになった。


俺たちの働きぶりにはギルド長その他お偉いさんの度肝を抜いた。大豪邸の貴族からの草取り依頼を往復一時間で終わらせ、たった二日で一ランク上がりゴブリンを十匹倒して来いということになってEランク五人組パーティで倒すのが基準とされたゴブリンを一人で殲滅。その後十五メートルを越える超でかい鷲、翡翠鷲と遭遇。もちろん苦も無く討伐。そのときにお前さんの能力は何かね?とギルマス(ギルドマスターの略)に聞かれて「精霊魔法です」と答えたら今年還暦のギルマスは気を失った。精霊が見えて会話でき、その力を御自ら振るえる精霊使い―――攻撃の言い方は精霊魔術―――は世界に百人ともいない希少にして稀有な能力者なのらしい。能力としては孤高にして最強。一つの軍隊に匹敵するといわれるほどだ。


「お前は一体何者だ?」と言われたときは「なに、名乗るほどのものではありません。国をさまよい続ける精霊使いです」とかっこよく言っておいた。当然異世界人だということは伏せておいたが。いろいろあってCランクまでランクアップした俺たちはたまたま冬華と遭遇。今の状況になる。



     ☆



「で、ここは異世界らしいけど・・・どう思う?」


冬華との仲直りを終えた俺たちは、今の状況を考えてみた。

奇妙な色の植物。見たことも無い生物。そして魔法に精霊。異世界だと証明する物的証拠はありまくるって言える。

それでも二人はどう考えているのか聞いてみた。


「・・・VRは?」

「仮想現実ってこと?」


VR。バーチャルリアリティ、仮想現実といわれる次世代型科学技術だ。テレビでそんなニュースは聞いたこと無いが。


「俺らが実験体ってことか?まずないね」

「今回は日向の意見に賛同。俺たちを実験体にする理由がないね」


俺ら二人は間違いなくここは異世界だと確信している。その上望んでいるほどだ。

俺たちの場合「帰してくれ」という懇願よりも「魔法マジかっけEEEEE」の方が強いのである。全く、中二心が騒ぐねぇ。


「・・・顔がにやけてる」

「だってねぇ。覚醒系主人公にあこがれて早十六年。そんな俺は親友と異世界に巻き込まれました、だぜぇ。無意識の内ににやけちゃうぜ」

「・・・変態」

「「(ぐさりっ!!)身も蓋も無い言い方をすんな―――っっ!」」


子房むき出しの裸子植物のような言い方をされて、思わず俺らは大声を上げる。


「・・・普通異世界来たら慌てるのが普通。それなのに慌てるどころか馴染んでる。どういう神経をしているわけ?」

「・・・汚物を見る目で俺らを見ないでくれるかな」

「そうだ、そうだ。汚物はコイツだけだ」

「そうそう、汚物といえばこの俺様だけ―――って誰が汚物だ、ボケェ!しかも俺だけになすりつけようとしてんじゃねぇ!」

「まあまあ、冷静に。そういえば冷静の漢字を逆にして読むと精霊だよね」

「んなことどうでもいいわ、アホ―――ッ!」

「・・・で、私の案は不採用。他に意見は」


冬華の鶴の一声で俺たちが静かになる。うーん


「俺は現実であって欲しい」

「俺は『夢』という案しか思いつかないね。まあ、その案はもう消え去っているけど」

「・・・クズ」

「「人に意見を聞いておいてテメェは一体何者だ―――ッッッ!!!」」

「・・・目を見間違うような美人」

「否定はしないけどさぁ。自分で言うのはどうよ」

「・・・いいじゃない。別に」


ぷいっとそっぽを向く冬華。素直じゃねぇ、性格曲がってやがる。

まあ確かに、もといた世界―――地球―――でも十人中九人は振り向く美貌の持ち主だし、一度言ったが雑誌モデルの勧誘に何回もかかったくらいだしな。

北の国『スノア』では嫌になるくらいの劣情と欲望の眼差しを感じたという。うへぇ、それは確かに勘弁だろうな。俺、女じゃないからわかんないけど。


「・・・異世界に来たのはいいけど、本当にどうするの?地球あっちじゃニュースになるくらいの事件になっているはずよ」

「確かにな・・・、一理ある。『現役高校生。なんと食事中に失踪!』見たいな風になってるかもね」

「とのんきに言えるな、おい!まあ、何ははしゃいでも無駄だけどよ。はあ、父ちゃん母ちゃん俺のこと心配してくれてるかな」

「悲しッ!親に心配されない子供とかいるのかよ」

「・・・俺、昔風邪こじらせて肺炎になったの覚えてるか?」

「あー、あったね。確か俺らが小学五年のときだったっけ」

「・・・私は知らない」

「そりゃ中学校入学前だしな。まあ、そのときなんだ。俺の両親、俺そっちのけで仕事やってたんだ」

「うわー、なかなかひどいね。その扱い」

「・・・日向は波乱な人生を送っている」


ごもっともです。

ちょっとの熱じゃ自分で料理作れ言ってくるし、インフルエンザも看病無し。お粥作っただけ。


「例えそれでも一応俺の親なんだ。悪くは言わないでくれ」

「分かってるさ。でも『一応』なんだ」

「日向の両親にいい印象もってもらえないと、後々困るし」

「何が困るのか分からないけど・・・まあいいや。とにかくここは『異世界』で決定。それでいいね、二人とも?」

「まあ、やるだけやってみるよ」

「・・・同じく」


二人とも同意。何も問題は無い。

俺たち腐れ縁三人組の異世界ライフが始まった。

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