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七色の精霊使い  作者: ぽけぽけさん
過去、もしくは序。
2/12

プロローグ

茜色あかねいろに染まった夕焼け空の下を、俺たち三人は歩いていた。

駅前の商店街。数多くの店が立ち並ぶ騒がしい通り沿いを話しながら進んでいた。


今の時間帯は五時を回ったところ。そろそろただでさえ人賑わいのいいここがさらに騒がしくなっていくだろう。

部活が終わって疲れきったところを冬華が「・・・駅前で買い物しよ」と言ってこなければ寄り道せずにゴーホームだっただろう。冬華は新しい服。翔は小説。俺はボックスティッシュに蛍光灯けいこうとう

現役高校生には似合わない買い物だと思うが、そうはいかない。両親はハードスケジュールな仕事が入っていて帰宅のは遅いし、姉は海外の大学に留学中。両親は一切気は回らないだろうし、期待するのも酷。頼もうにも前述の通り頼みづらい。


必然的に家事は俺の仕事になってしまう。めんどくさいし、大変で不本意なのだがやらなければ食う飯はないしはくパンツないし一週間で我が家はゴミ屋敷に変貌へんぼうするので仕方ない。やらなければ生きていけないしどうせ暇だからと言う理由だけで頑張っている。


実際器用貧乏な俺でも努力しすぎた所為で和洋中何でも料理できるし「・・・これには負けたわ」と冬華を唸らせたこともある。掃除機をかければ埃一つ残らないと揶揄やゆされ、洗濯すれば染み一つ残らないので「これじゃ主婦だな」「主婦だね」「・・・主婦顔負けね」とクラス中で言われた。褒められるのは嫌いではないがほめてもうれしくないから困るところだ。


まずは翔の小説から買いに行くことになった。伝記や純文学でない。官能小説でもない。ライトノベル、通称ラノベである。

手を出したのは中学になったくらいだったと記憶している。といっても深くは語らない。語りすぎると翔は過呼吸になり、いずれ心臓発作になるからだ。ヒントと言えば『中二病』の病とでも言っておくか。

ギャップがすごいが俺も冬華もこの趣味を知っているから驚きもしないが。


次の買い物は俺だった。ボックスティッシュは近くのスーパーで買うことにしている。会員の俺は、今週中はポイント二倍で全品五%引きなのだ。入り口の宣伝用の広告を見ると、今日は麺類が安いらしく焼きそばはその中でも格安だった。今日の夕飯は焼きそば確定だなと心の中で考えつつ、三箱連結のボックスティッシュを手に取った。

焼きそばの麺やその他いろいろ買ったところ翔に「今日はお前んちで食べていってもいいか?」と言われ二つ返事で「ああ、いいぜ。お前んちがいいならな」と返した。翔と冬華は疾風のようなスピードで家に連絡を取ると、十秒足らずでメールが返信されて「速っ!」と隣で驚いている間に今日は腐れ縁達と食事を取るようになった。どうせ両親はいないんだし、知り合いと一緒に食事を取った方が楽しいだろう。今日は腕を振るってやる・・・不本意だけどな!と心の中で俺はぼやく。


最後に冬華の買い物だ。ショッピングモールの女性服専門店による事になった。当初の予定では入り口で翔と二人でたむろっているはずだったが、冬華に「・・・日向に選んで欲しい」と上目遣いで頼まれて断るに断れなかった。「くそっ、これだから美人は・・・」とゴニョゴニョと呟き、「俺でよければいいけどよ・・・責任は持てないぞ」と言っても「・・・大丈夫。あくまでも参考にするだけだから」と頬を赤らめて自慢の黒髪をかきあげた。似合わない行動に恥ずかしがったのだろうか?疑問を浮かべる俺をよそに翔は「二人で行ってきなよ。俺はここで買った小説読んでるから」憎たらしいほど爽やかな笑みを浮かべてそういった。そんなにも小説を楽しみにしていたのだろうか。荷物を預け俺は冬華に袖を引かれるままに店に連れ込まれた。


嫌だなぁ、とは口に出せなかった。まさしく拒否権はないであった。



     ☆



俺は今、女性用更衣室の前にいる。

これだけを聞けば誰だって俺のことを変態だと思うだろう。きちんとした理由があるが、そんなものは通用しない。まずそもそも女性服専門店に男である俺がいるのが間違っているのである。よって汚物を見るような視線がグサグサと刺さる。もしかしたら、翔があんな笑顔をしていたのはこれが分かっていたからかもしれない。アイツ絶対ぶっ飛ばすと心の中で一人誓った。


その中に俺の学校の女生徒がいないことを祈る限りである。居たとたんに学校の俺の立場が無くなってしまう。目の前の更衣室では冬華が着替えている。奥から聞こえる衣擦れの音が嫌ってほど耳に入ってきて悩ましい。そのせいで神経が妙に鋭くなって、ものすごく困っている。俺を刺激する音が鳴り止んだと思うと冬華の声が聞こえた。


「・・・着替え終わった」

「お、おう。そうか」


もとがいい冬華のことだ。なにを着ても映えるだろう。服に着せられると言う言葉があるが、もしかしたら逆に服が着せられる可能性がなくない。校内で絶世の美女と言われ、街を歩いていて雑誌モデルにスカウトされた数が両手じゃ数え切れないほどの美貌の少女が、カーテンを開けた。


ノースリーブのワンピースだった。キャミソールワンピースかもしれないが。俺にはそういう知識はないので服の区別がそう出来ないのである。

普段来ている服とは傾向の違うタイプで不意にドキリとしてしまう。

それもそのはず。首許から処女雪のように白く滑らかな素肌がむき出しで、スカートは膝上五センチ以上と来た。写真にして家に飾っておきたいものである。見られたら白い目を向けられるだろうが。


「・・・どうかな?」

「うん、目が離せなくなりそうなほど綺麗だよ・・・って違うんだ!これはその口からこぼれてしまったと言いますか、心にも無いことを言ってしまったといいますか―――」


思わず本音がこぼれてしまい慌ててふためく俺。そんな俺に対し冬華は顔をりんごのように赤く染めて


「・・・バカ」


と暴言をぽろっと零し勢いよくカーテンを閉めた。罵詈雑言ではなくて気恥ずかしさだったのかなと思いつつ、深呼吸。すー、はー。すー、はー。

まだ心臓がどきどきしている。こんなことは初めてだ。どうしたんだ、俺ッ!


という心の声をよそに刻一刻と時間は過ぎていった。冬華は他にもサマードレスや浴衣やなんやらを試着していく。度肝を抜かれたのはメイド服だった。紺色のワンピース、たくさんのフリルが付いた真っ白なエプロンドレス。カチューシャをちょこんと乗せた冬華に「・・・おまたせしました、ご主人様」と言われたときは人として何かを失うところだった、と自負できる。なんでメイド服のセット一式がこんなとこにあんだよ!と心の中で突っ込みなぜ着たのか聞いてみた。すると


「・・・日向はコスプレ好きだし、メイド服は群を抜いていると聞いたよ。・・・昔『メイド服最高、ハァ、ハァ』ってしていたのを見かけたから」

「勝手に人の記憶を捏造ねつぞうすんなッ!コスプレ好きはともかく『メイド服最高、ハァ、ハァ』はないだろ!」

「・・・コスプレは嫌いなの?」

「嫌いじゃないけどさぁ」

「だったら今すぐ着替えに行こう」

「ちょっと待ッ!コスプレは普通男にとって魅せるものじゃなくて見るものだから!は・な・せ!ちょっ!なんで関節極めてるの!?そっちの関節はマジだめなヤツでぎゃあああああ!」


みたいな展開になってメイド服着せられる羽目になって大惨事でした、はい。しかも写真まで撮ってウトウトとした恍惚こうこつな笑みを浮かべてたし。もしかしたら脅迫材料になりかねんとか、マジ怖EEEEEE!

もはや自暴自棄になっていた俺を迎えたのは悪友の笑みだった。


「メイド服、着たんだってね」


おいコラ。その話何処で聞きやがった。



     ☆



家に戻ると(二人の場合『来る』という表現)まず俺は料理を始めた。


「これでよし」


出来上がった焼きそばを一本味見して、思わず笑みを零す。

俺らは面白いことに全員濃い味付けよりも薄い味付けの方が好きなのだ。だからソースはなるべく薄味のを選んだ。塩焼きそばも塩分控えめである。


もう一品として餃子をチョイスした。さすがにひき肉からこねていたら時間が尽きる、とのことから焼くだけでいいやつにしたけどな。


焼きそばを皿に小分けしてその上に満月のように丸く黄色の目玉焼きを乗せれば完成。餃子もさらに乗せて終わりと。

醤油、酢、ラー油、餃子の三神器もトレーに載せてダイニングまで持っていく。


「ずいぶん手を抜いたな~」

「だったら食うなよ」

「いや、そういう意味じゃなくて日向にしてはだからな」

「本当はもっと手を込んだものを作りたかったんですけどねぇ」


と視線を向ける先には冬華の姿。


「・・・悪かったとは思ってるわよ」

「へーへー、そうですか・・・・・・ぎゃあああああ!」


再び響く俺の悲鳴。あまりの痛さに阿鼻叫喚する。


何が起こったか、説明しよう!

まず冬華がスカートをはためかせるような動きで手を動かし腰を浮かせ俺に向かって突進。突き出した指をポチッとスイッチを置く感覚ではなく勢いのままブスッと差し込んで激痛が走り今の状況に至る。

そして今の行動全てで俺の体感時間としてはたったの一秒。何処の古武術の達人だ、と突っ込みたくなるような動きであり、惚れ惚れするほどすごかった。けど


「痛てぇえええええ!〇孔か!?秘〇でも攻撃されたのか!?」

「・・・北〇の拳ちゃう。・・・というかもしも私が〇孔でも攻撃してたら痛みを感じず肉体は爆散していると思う」

「確かにそうだな、イテテテ。で実際何をどうしたんだ」

「・・・神経叢ツボを、突っついた」

「・・・ロクでもねぇ技術を持ってんな」


まぁまぁ、そんな恋人同士の痴話げんか見たいのやってないでさ、と俺たちの会話を中断させるようにしたのだろう。

冬華は「・・・違う、違う!」と首を振ってむきになって否定していた。

・・・痴話げんかはまだ許す。これの何処に彼氏彼女要素が入っている!お前の目は節穴か!?ただの飾りか!?

という会話はさておき夕食を食べるために手を合わせる。

少し遅いだけの普通の夕食が始めるはずだった。


「「「いただきます(・・・いただきます)」」」


そう、俺たちの座る足元の床が、眩い閃光に包まれなければ。


「なっ!」



     ☆



驚きにあまり三人は顔を見合わせた。

三人寄れば文殊の知恵とも言うが・・・くそっ!わかんねぇ、常識外だ。


「ははっ、サプライズのし過ぎじゃないかい?」

「俺もそういいたいけどよ」


俺は自らの足元を見た。

純白の本流が視界へどっと流れ込んでくる。足元の輝きは俺たちを覆うようにしてさらに広がっていく。

半透明で、怖いとすら感じてしまう。これが人外の出来事であることは間違いない。

突如頭の中に直接難読な文字列が流れ込んでくる。その膨大の量に頭が痛くなってくる。二人ともこめかみを押さえている。二人もこの痛みを味わっているのだろう。


突如、視界がゆがんだ。今度はなんだ。あまりの非常識さに呆れてくる。

悲鳴の一つ上げることができず、俺の視界は暗転し一切の闇に包まれた。

次からやっと異世界に突入します

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