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 重そうな荷物を持って歩くハロルと目が合った。

 持ち上げるだけでふらつきかけている。眉間に皺が寄るのが分かった。そんな大荷物じゃ長旅には向かない。

「ユイス!」


 一旦俺も家に戻った。

 無言で旅支度をし始めた俺をみて、クローゼがやはり無言で息を吐いた。

 俺やモジュールに任せた時点でこうなることなど火を見るより明らかだったのだろう。行くのか。そう訊かれただけだった。

「ああ」

 振り返らないまま、答える。そのまま、お互い何も言わなかった。

 昨夜まで狩りに行っていたジーファとザクセンも起きて来たが、彼らも何も言わない。

 悪いとは、思っている。

 だが俺には、一番付き合いの長いはずのクローゼが何を思っているかもわからなかった。謝ることが正しいのか、怒らせるだけなのか分からない。

 村の外へ出るのはそう珍しくないが、長く離れるとなるのは、もうほとんどなかったことだ。

 今回の旅には、危険が伴う。それも、人間同士で争うような、場合によっては多勢を相手にすることになる。

 狩りでは使うことのなかった武器を、手にする。

 何時でも使えるように手入れを欠かしたことなどないが、久しぶりに重みを感じた。

 それをジャケットの下に入れる。重さは直ぐに馴染んだ。

 外へ出ようと、扉に手を掛けたときに後ろからふああ、とジーファのあくびがした。

「分からないことだらけのこと、分かるようになるかな」

 何のことだ、と思って振り返るがジーファは呟くだけ呟いて既に背中を見せていた。寝室の扉が閉まる。

 ザクセンとクローゼを見遣る。二人は、それでも何も言わなかった。

 ジーファの言う意味が、分かっているように。

 ただ、ザクセンは布を放って寄越した。

 薄手の、防寒着として使うにも難しい。そもそも俺には短すぎるそれは。



 俺たちの居住している場所と、ハロルたちの家がある場所とは小川で隔てられている。唯一互いを結んでいるのがゲートの真っ直ぐ先にある、小さな橋だ。

 アリスの家からほど近く、家を出たときにまず目に入るそこで、俺はハロルが出てくるのを待っていた。

 モジュールの準備が一番長いだろうことは分かっていた。

 おんなのこのじゅんびがどうこう、とモジュールが言っていた。あいつもそんな軽口が叩けるんだな、と思う。モジュールの準備は、女子供と言える範囲をぶっちぎっているくせに。

 ハロルは程なくして、家から出てきた。

 引きずりかけた荷物を背中に背負いなおして、走って来る。目元が赤くて腫れそうだった。

「やり直しだな」

「っえー!?

 でも、見た目ほど重くないよ?大丈夫だよ?」

「要らない物は置いていけ」

「でもでも、モジュールのとか入ってるし……」

「それはモジュールに持って貰え」

 細くて繊細な人形じみた外見の割にあれは村一番の力持ちだ。

「それに、あまり大荷物だと違和感がある」

 ザクセンに渡された布を羽織らせる。

 ご丁寧に留め具のブローチまで用意してあった。照蓋熱石のような石にガウニオス語が彫られている。本物の照蓋熱石だとしたら、一体どこで手に入れたんだ。

「寒くないのに、マント?」

「魔法使いに似せるためだ。外すなよ」

 腰のあたりまでの丈で、ハロルが動くたびに裾がはためく。

 ハロルは物珍しそうにマントを見ているが、見ているこっちのほうが余程違和感だ。

「魔法使いって、私見たことない」

「あんなもん、俺たちとは別格だ。関わらないに越したことはない」

 ただの子供を旅に出すなんて攫ってくれと言うものだ。だからこそ、外では魔法使いに見せ掛けるために子供にマントを羽織らせるのは当たり前のことだが。

「魔法使いって年をとらないって本当?」

「年を食った魔法使いを見たことはないな」

 あのいけ好かない魔法使い連中の仲間に、ハロルがなってしまったようで、落ち着かない。

 いずれ慣れるだろうか、と思っている間にモジュールも「準備」が整ったようだ。

「……ハロルのバッグに、まだ余裕があると思うが」

「あるよ」

「入れてやってくれ」

 旅慣れないどころじゃない。

 必要な物を最小限にまとめたのはいい。

 それをそのまま、手に抱えて持ってくるあたりが。

 懐かしかった。


 アリス、お前は何にも分かってない。

 まだまだハロルにもモジュールにも、俺たちにも、お前が必要なんだ。

 起きたばかりのモジュールを3人で世話していた頃のように、また過ごしたい。

 そんなことも分からないのか。

 懐かしい光景を見ながら、苦い気持ちを覚えた。 

 




今のところ書いてるのはここまで。

時々ぐわーってなった時にだけ書いてるのでぼちぼち進みます。

(2012.02.17/昨日誕生日でした)

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