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旅支度をして来い、今すぐにだ。
そう言ってユイスが背中を押して、ハロルは弾かれたように駆け出した。
涙はまだ頬を伝っている。溢れてくる。
かなしい、いない、そういう気持ちが途切れたわけでもないが、強制的に前を向かされると気持ちにばかりかかっていられなかった。
でも、気持ちは止まらない。
モジュールの家からほんの少し離れたところにある、ハロルの家。
アリスの、家。
扉を開けたときに、おかえりと言ってくれないかと期待してしまった。
勿論、そんな声は頭の外から聞こえてはこない。
記憶の中から静かに聞こえてくるだけだった。それだけで、またぼろぼろと涙がこぼれてくる。
袖で乱暴に目を擦って視界をクリアにするけれど、水の膜はまるで無尽蔵だ。ハロルはもうそんなものは放っておいて家を奥へと進む。
旅するための荷物の作り方は、ユイスやクローゼたちのを見ているからなんとなく分かる。と、思う。
それに旅くらい、したことある。
この村ができる前。この場所に辿りつくまでは旅をしていたのだ。
アリスと、一緒に。
あの時にアリスがどんなものを持っていたのか思い出す。大事な想い出だからとそのときの物を捨ててしまわなくて良かった。
放浪の旅をしていた頃よりハロルはずっと大きくなっていて、役に立たなくなった物もあるけれど、 それでも。
村が出来た。
クローゼたちが仲間になった。
今も昔も怖くて苦手だけど、シャールがやって来た。
モジュールと出会った。
ここへたどり着いた。
ユイスと歩いた。
その前から、ずっと、ハロルはアリスと一緒だった。
アリスはどんな時だって、ハロルを大事にしてくれていた。危なくないように。ハロルだけでも助かるように。
幼かったハロルにすら分かるほどに。
泣いていた私に、アリスは大事なものを分けてくれた。
それからぎゅっとして、ずっと一緒だって言った。
覚えてる。それから先は、ずっと、一緒だった。
リュックの中に着替えとか押し込んでしっかりと閉める。
アリスに抱えられて旅していた頃より大きくなった。大丈夫、私はちゃんとこの荷物だって抱えて一人で歩けるようになったから。
だからだから、アリス。
今度は私の大切なものを分けてあげるから、本当にずっとずっと一緒にいてね。
約束だよ。
いのちだって、賭けるから。
基本的に一人称な話なんですが(視点は時々かわる)、三人称も出てきてややこしいです…ごめんなさい。
ブログの時とナンバリングが変わっててさらにややこしい(自分だけ)。