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わたしが起きたのは、あの子が起こしたから。
土で爪のあいだまで汚しながら掘り起こしてくれた。
大木の根本、地中奥深くに埋められていたわたしの心臓を陽の照らす地上へと連れ出して、わたしに笑いかけてくれた、話しかけてくれたあの日から、わたしは始まる。
おはよう、こんにちは!いい天気ね、はじめまして!
わたしを、わたしの心臓を胸に抱えて明るい森を軽快に走る。
しばらく、なのかすこし、なのか。
前に人影が現れる。
アリス。
アリスはハロル、とわたしを抱えたあの子を呼んだ。
本当はアリスはアリスでなくて、ハロルがアリスなんだと、アリスが言っていた。
ハロルは寝ていたときのことだ。
アリスの黒い瞳に炎の影が揺らめく。
暖炉の光が同じように揺れている。
ハロルがアリスだと知られてはならないのだとアリスは言った。
ここがごみばこで、だからこそ故郷が恋しくもなる。
そんな風にアリスは、言って。
ハロルが好き?
と、問いかけた。
もしもわたしを起こしたのがハロルじゃなくても。そんなおかしなことを付け加えてまで。
わたしを起こして、命を与えてくれたのがハロルじゃないなんてことはないのに。
ハロル、わたしの大切なあの子。
あの子がわたしの元へ、涙を溜めたまま走ってやってきた。
「アリスがいなくなっちゃったの!」