住人になろう
お茶も終わって、燻製と干し肉作りをサムとケンにも手伝わせる。
ただ飯食おうなんざ百万年早いわ。
「うぅ・・・またやらされるとは・・・。」
「いやー、結構面白いねー。」
「ところでさぁ。」
「なんだい?」
「町で家借りるとしたら、いくらぐらい?」
「家借りるのかい?!」
「いやさ、しばらくルビルに居るつもりだからさ。
宿屋暮らしは高く付くんで。」
「そうねー。二人とも料理とか出来るし、確かにそのほうが良いかも。」
「うーん、すまない。貸家の相場は・・・。」
「あー、私も。・・・あ、そうだ。町長さんに訊くのが一番かも。」
「なるほど。あの人なら、それぐらい知ってるわな。
よし、今日は町戻るかな。換金もしたいし。」
15時(一応時計持ってるからね、俺)。まだ大分明るい。
あれこれ片付けて、帰り支度も終わったんだが・・・。
「ミューが帰って来ねーな。」
「うーん。いつも暗くなる頃まで戻って来ませんしね。」
「どうすべーか。」
「きゅ!」
「あん?クロか・・・どした?」
「こ、これが黒龍・・・。」
「ウチの子に近付くな、この変態。」
「うっ!」
「きゅきゅーっ!」
「い、威嚇された・・・。」
「威嚇で済んで幸いよ。
クロちゃんがその気なら、アンタなんか瞬殺されてるわよ。」
「・・・そんなに強いの?」
「強いわよ。ミューちゃんもね。」
「で、クロ。何か用か?」
「きゅきゅきゅー!」
「お、そーかそーか。んじゃ頼む。」
「きゅ!」
「・・・ねぇ?」
「なんだ無にゅがふっ!」
「あの子と会話出来るの?」
「い、いや・・・何となく判るよーな気がするだけなんだが・・・。」
「凄いね、それは。」
「そぉ?クレアもおんなじだよな?」
「はい。私も何となく判ります。」
「で、クロちゃんはなんて?」
「ミュー呼び戻しに行った。」
「なるほど。・・・って、もう戻ってきたよ?」
「あいつら、マジになるとスゲー速いからな。」
「なんか獲物まで持ってるわよ。」
「みゅ!」「きゅー!」
「おかえり。」
「こ、これが白りゅ」「みゅぅぅっ!」
「ひぃっ!」
「懲りないヤツだな。」
「こりゃなんだ?初めて見る獲物だ。イノシシみたいだが。」
「こ、これは・・・アオバイノシシだよ。」
「あ、ホントにキバが青いや。」
「気をつけて!キバには毒があるから。」
「おおぅ!」
「このキバのおかげで、爪長も滅多に襲わないんだよ、これは。」
「へー。1mも無いのにな。
ミュー、怪我は無いか?」
「みゅみゅ!」
「そっかそっか。
ま、お前がそんなヘマするわきゃ無えか。」
「みゅぅ!」
「きゅきゅっ!」
「わかってるって。クロにだってこれぐらい獲れるってのは。」
「2匹の仔龍と戯れるオッサン・・・。」
「オッサン言うな無乳魔女!」
「くっ!私まだ16よ!希望はあるわ!」
「ふっ・・・それはな、儚い夢と言うものだよ。」
「うぐっ!・・・まぁ、アンタは良いわよね。
あと30年、見た目が変わらないんだもんねー?」
「ぐふぅっ!」
「ふ、二人とも、その辺にしときましょうよ?
お互い立ち直れなくなる前に・・・。」
「ぬぅ。」「むぅ。」
「それにしても、サム変わったよね。
前は凄く無口だった印象があるんだけど。」
「あー・・・それはユーキのせいよ。」
「なんでだよ?」
「黙ってたら、言われっ放しになるじゃない。」
「なるほど・・・。」
「ユーキさんには、デリカシーとか皆無ですしね・・・。」
「おいクレア・・・。」
「でも、そのほうが良いかな。
ユーキさんがモテモテになっちゃったら困るし///」
「ホント、バカップルなんだね。」
「お前が言うな!」「アンタが言うな!」「ケンさんに言われたくありません!」
「・・・総攻撃ですか・・・。」
暗くなる前に町に着いた。
サムやケンとは、ギルド行く途中で別れた。
イノシシが重たいんで、まず換金。
おっちゃんは、もう何持ってきても驚かねーよ、とか溜息ついてたな。
イノシシだけで金3。その他諸々も合わせて金4銀7.
407万円かよ。たった2日で。
何気にオカネモチだな、俺ら。
その足でエルムさんの家に。
「やぁ、良く来たね。」
「ご無沙汰・・・でも無いですね。」
「そうか、まだ3日しか経ってないんだなぁ。
娘が居なくなって、君たちも出て行ってしまって・・・
この家も静か過ぎてね・・・。」
「あー・・・すいません。」
「あ、いや。責めてるわけじゃないんだ・・・。
それで、何か用事でも?」
「あ、はい。実は・・・。」
「ふむ。家をね・・・。」
「それで、相場とか判らないもんですから。」
「そうだな・・・月に銀1枚でどうかな?」
「え?」
「私も何軒か貸家持ってるんでね。そのうちで気に入ったのを貸してあげよう。」
「そ、それは大助かりですけど、安過ぎません?」
「なーに。君たちは名誉町民だし、家ってのは維持費もかかるんでね。
空き家にしておくよりずっとマシなんだよ。」
「まぁそれは分かりますけど・・・。」
「その代わり、今夜は泊まっていってもらおうか。」
「ははは・・・じゃぁ、お言葉に甘えさせていただきます。」
家賃が月1万て、どんなボロアパートでも有り得んよなぁ。
好意で言ってくれてるのは分かるし、断るのはかえって失礼だよな、やっぱし。
予想通り、遅くまで酒に付き合わされた・・・。
翌朝、めちゃ寝不足で朝飯に行ったら、
”昨夜はお楽しみだったね”
と、開口一番に良い笑顔で言われてしまった。
だってさー、3日ぶりだったんだもん、仕方無いよな!
酒も入ってたしなぁ・・・。
あー、シーツをグチョグチョにしちゃったから、メイドさんには申し訳無い事したな。
「ほえ~・・・。」
マヌケな声を出したのは俺では無い。クレアである。
朝食後、エルムさんに連れられて、候補の貸家を廻って見たんだが。
「これって、エルムさんの家よりデカいんじゃ?」
「ああ。元は貴族の別荘だったんだが、そいつが没落したものでね。
足元見て買い叩いてやったんだよ。」
「さすがは町長、黒いですね。」
「はっはっはっ。あんまり褒めないでくれ。」
悪びれもせずに、さらっと言ってのけるあたり、大物だなこの人。
まーあれだ。町長ともなると、ただの”好い人”じゃ勤まらんのだろうな。
「何部屋あるんすか?」
「えーと、寝室が6、客間、居間、食堂、書斎、バス、トイレ、キッチン。
あと庭に物置小屋と鶏小屋。」
「どう考えても、二人じゃ広過ぎると思うんですが?」
「そこでだ。君たちに提案があるんだがね。」
「は?」
「ここで店をやってみないかい?」
「店?なんの店をやれと・・・。」
「この町には、喫茶店みたいなのが無くてね。酒場はそれなりにあるんだがね。」
「それを俺らにやれ、と?」
「私は王都に留学した事があるんだが、あちらにはそういう店がたくさんあった。
なのに、この町には1軒も無いのが寂しくてねぇ。」
「いやでも・・・。」
「まぁ本音を言えばね、若者の溜り場みたいな店が欲しいんだよ。
この町にはそういう店が無さ過ぎる。
安くて美味い料理と、美味しいお茶。酒は出さない店。
そういう店が欲しくてね。」
「まぁクレアが居るから、料理とかは大丈夫ですけど・・・お茶はどうかなぁ?
あれはそもそも茶葉って高価なんじゃないすか?」
「お茶は・・・私もあんまり自信無いですけど?」
「はっはっはっ。
それは問題ない。ウチに最高級のイセロン茶が13トンもある!」
「13トン?なんでそんなに?」
「いや、以前に相場が暴落した時期があってね。その時に買占めておいたんだよ。
ただ、それきり売れなくて・・・ね。」
「・・・在庫処分を俺らにさせようと?」
「うむ。ユーキ君がそれで美味しい淹れ方を練習すれば問題ない。
料理はクレアちゃんが居るし、お菓子も作れるんだろう?」
「え?ええまぁ・・・。」
「ここは森も近いし、肉類はユーキ君が狩ってくれば新鮮なのが確保できる。
農作物や乳製品はウチの畑から安く提供しよう。無論茶葉もだ。」
「えーっと、まだやるとは一言も・・・。」
「明日から改装させるから、まぁ10日もあれば完成するだろう。
それまで君たちは、もう一軒の貸家で準備しておいてくれ。」
「あの・・・お菓子の原料をたくさん用意してください。」
「ク、クレア?」
「お菓子は久々なんで、練習します。」
「おぉ、わかった。今日中に届けさせよう!
茶葉と道具一式も揃えさせるから、ユーキ君もしっかり練習してくれたまえ!」
「いやあの・・・。」
「ユーキさん、頑張りましょう!」
「へ?え?」
「それじゃ私は戻るから、あとは二人で相談してくれ!」
「おーい・・・。」
「クレア、なんでそんなやる気なの?」
「だってぇ~・・・やってみたいんですぅ。」
「可愛い娘ぶってもダメ。キリキリ白状せい!」
「あぅ・・・えーと・・・お菓子好きなんですよー・・・。」
「食うんじゃなくて作るんだぞ?」
「試食出来ます♪」
「・・・太るぞ?」
「はぅっ!・・・そ、そこはセーブします!・・・するつもり・・・多分。」
「はぁ・・・まぁ良いけど・・・。
我ながら、なんか思いっきり流されてる気がする。」
「今更断れないと思いますけど・・・。」
「お、ま、え、の、せ、い、だっ!」
「きゃんっ!」
デコピン一発。たまにはお仕置きしないとな、うん。
「うぅ・・・痛いですぅ。」
「はぁ・・・こうなったら腹括ってやるか・・・。」
「やったぁ!」
「ただし、つまみ食いは禁止する!」
「えぇ~っ!そんなぁっ!鬼です!悪魔です!鬼畜ですぅっ!」
「体重。」
「はぅぅぅっ!」