爪は甘いかも (誤植では無い)
・・・あぁ・・・もう朝かよ・・・。
白黒が俺の顔を舐めたり、ペシペシ龍ぱんちをかましてくる。
お腹空いた~、起きて~、の意思表示である。
全く、生肉食えっての。
昨夜はあのクソエルフのせいで、あんまし寝てないんだからよぉ。
「ぬぅ・・・しょーがねーな。」
熾き火を吹いて、薪を足して、と。
フライパンに油を引きつつ、なんか昨日ミューが獲って来た鷲だか鷹だかに塩コショウを擦り込む。
うん、1kgはあるデカい肉塊だがな、こいつらには普通なのよ。
こいつら、塩コショウが好きなんだよな。
じゅわーっ、と良い音立てて鳥肉が焼け始める。うむ。
「ほれ。」
生焼けじゃ無いのを確認してから、大皿に移して地面に。
「熱いからなー、気を付けるんだぞー。」
とは言うものの、実はこいつら熱いの平気なんだよね。
俺のほうが猫舌だったりする。
切り分けてやらなくても、こいつらちゃんと公平に半分ずつ食うんだよなー。
ホント良く出来た子たちだわ。
食ったらミューは狩り行くんだが、クロはこれから寝る時間だ。
で、夕方また1kg半分こして交代。
ようやく少し冷めた肉をパンに挟んで齧ってると。
「ユーキさぁーん!」
クレアじゃねーか。あと無乳魔女と、ありゃ?
「ユーキさんっ!」
いきなりタックルかましてくるクレア。
「ぶほっっ!なんだよ、もう。」
「ん~、ユーキさぁぁん・・・寂しかったんです~。」
「たった一晩で大げさな・・・。」
「んぅ~~~♪」
俺の胸に顔埋めてぐりぐりしてくる。甘えんぼめ。だが可愛いいから許す。
クレアの背中を撫でてやりつつ、珍客に挨拶。
「ういっす。おいおい、嫁さんほっぽっって、こんなトコ来て良いのか?ケン。」
「おはよう。いや、朝っぱらから見せ付けてくれるねー。」
「あん?お前らには負けると思うが?」
「いやいや。」
「どっちもどっちよ。」
サムにバッサリ切り捨てられた。
「で、貧乳神官は居ないのか?」
「あー、あの娘とアリサは、料理の特訓中なのよ。」
「ほー。なんでまた急に?」
「いやぁ、昨日たまたま夫婦でサムの家に行ったんだけどね、
そこでサムとクレアの手料理ご馳走になっちゃって・・・。」
「このバカ旦那がさー、
毎日こんな美味しい料理食べられるユーキが羨ましいとか言っちゃうもんだから。」
「あー・・・。」
「アリサは今まで食べるの専門だったからねぇ。
食事は全部ボクの担当だしね・・・。」
「あいつ、そこまでダメなのか。」
「やった事無いだけだけどね。ちゃんと習えば出来るようになるでしょ。」
「で、ニノも便乗したのか。」
「まーね。あの娘も、どこに出しても恥ずかしい腕前だし。」
「恥ずかしいのかよ・・・。」
「得意料理が、生卵と生野菜サラダなのよ?」
「・・・それ料理なのか?」
「で、実家のメイドさんに頼んで特訓中なんだよ。」
「それで旦那は放置されてるわけか。けど俺に何か用でも?」
「それよりさー、何か食べさせてよ。もうじきお昼でしょ?」
「なんつー我侭なヤツ!まぁ良いけど。クレア、昼飯よろ。」
「んぅ~、・・・はぁい・・・。」
「俺のは軽くて良いよー。今食ってるのがあるし。」
「はーい。」
「もしかして、それ朝食?」
「あー、うん。ちと夜更かししちゃってさ。」
「それでまだ食べるの?」
「いやさ、俺の分要らねー、とか言ったら、多分クレア泣きそうになるから。」
「はぁ・・・ごちそうさまだわ。」
「ユーキは優しいね。ボクも見習わないと。」
「いやいや、お前には敵わんよ。嫁さんに毎回メシ作ってやるなんて俺には無理ぽ。」
「ゴハン出来ましたよー!」
「はやっ!」
「あぁ、いくつか下拵えしてあったからな。」
「「「「いっただきまーす!」」」」
「うわぁ。こりゃ凄いな。」
「あ、多すぎました?」
「クレアの料理を残したりしたら、生かして帰さんからな。」
「大丈夫よ。私が引き受けるから。」
「お前、大食いのくせに発いkぐふぅっ!」
「何か言った?」
「メシ食ってる時に鳩尾は勘弁・・・。」
「いやでも・・・ホントに美味しいな。肉が新鮮なせいもあるんだろうけど・・・。」
「うふふ・・・ありがとうございます。」
「ところで・・・龍はどこに居るんだい?」
「サム、話しちゃったのか?」
「あー、私じゃなくて・・・。」
「アリサか・・・ったく。
クロはそっちの木陰で寝てる。ミューはお出かけ中。」
「あ、あとで、その、触らせてもらっても良いかな?」
「ダメ。」
「即答なのっ!」
「あいつらは家族なの。
それを”魔法具の材料”として見てる人間には触らせられないね。」
「っ!・・・そんなつもりは・・・いや・・・そうかも知れないな。すまない。」
「まぁ商売柄仕方無いんだろーけどさ。
後で、あいつらが嫌がらなければ考えておくよ。」
「あぁ、うん。」
「家族かぁ・・・やっぱりユーキとクレアがパパとママ?」
「///はぅっ!パパとママ・・・あぅ///」
「んー?どーだろ?お兄ちゃんお姉ちゃんかも知れんし。」
「えー・・・。」
「そこは乗ってあげなさいよ。ほら、クレア拗ねちゃってるわよ。」
「良いの。収拾付かなくなるから。」
「むぅ。」
「ドライだねー。」
「甘やかすだけじゃダメだって事だよ、旦那。」
「なるほど・・・確かに。」
(クレア、怒らないの?)
(うふふ・・・ユーキさんは、最後には甘やかしてくれるから良いの♪)
(・・・お腹いっぱいだわ・・・。)
食後のお茶中・・・
「実はね、採って欲しい材料があるんだよ。」
「何?」
「ハシグロワシの爪。」
「ハシグロワシ?」
「ほら、時々森の上飛んでる大きな鷲。嘴が真っ黒の。
高い所飛ぶから、中々獲れないんだよね。」
「・・・。」
「どうしたの?」
「いや、さっき食ったの、それだから。」
「えぇっ!?」
「どおりで、見た事無い肉だと思ったわ・・・。」
「そんなに珍しいのか?」
「いや、珍しい鳥じゃ無いんだよ。獲れないだけで。」
「なるほどな。ちなみに獲ったのは俺じゃないけどね。」
「え?」
「あぁ、ミューちゃんね。」
「はぁ・・・さすがは龍だなぁ・・・。」
「爪なら、あそこにあるよ。嘴とかも。」
「助かるよ!いくらで売ってくれるかな?あんまり払えるわけじゃないけど・・・。」
「そうだなー。取り敢えず、何に使うのか教えろ。」
「え、あ、あー・・・。」
「言えないのかよ?」
「奥様へのプレゼントなのよ。」
「サ、サムっ・・・。///」
「何だよ、そんなの今更隠すなよなー。」
「いやその・・・ホントはさ、恋人にあげる物なんだよ。
でもボクらって、色々すっ飛ばして結婚しちゃったから・・・。」
「なるほどなー・・・なんかそれ分かるわ。照れ臭いよな、やっぱ。」
「う、うん・・・。」
「で、どんな物なの、それ?」
「いや、ハシグロの爪さえ使ってれば、何でも良いんだよ。」
「はぁ?」
「えっとね、あの鳥は、獲物を捕らえたら絶対離さないって言われててね・・・。」
「あー、なんか分かった気がする・・・。
”もう君を離さない”みたいなメッセージアイテム?」
「ぴんぽーん♪」
「そりゃぁ確かに、恋人時代のアイテムだなぁ。」
「うう・・・もう手遅れかな・・・。」
「そんな事無いと思うぞ。少なくともアリサの料理修行よりは手遅れ感は無いな。」
「あー言えてるかもー。」
「いいなー、アリサ。そんなのもらえるんだぁ・・・。」
うっ!
クレア、そ、そんな上目遣いでおねだりモードに入るんじゃありませんっ!
だがしかし、聞かれてしまってスルー決め込むのはさすがになぁ・・・。
「なぁケン。それって自作すんの?」
「そうだよ。自作が基本だね。」
「いや、お前は細工師だからそうかも知れないけど・・・。」
「違うわよー、みんな自作よ。男性の。」
「・・・あ、そう。」
逃げ場は無い、つーか自作かよっ!?
ファッションセンス皆無の俺に、なんつー苦行をっ!
「はぁ・・・ま、それは置いといて。
サム、その爪って相場いくらぐらい?」
「わかんない。」
「使えねーヤツめ。
まいーや、一本ならタダで持ってって良いよ旦那。」
「え?そりゃいくらなんでも悪いよ・・・。」
「今度一杯奢ってもらおうか。それでチャラだ。」
「・・・ありがとう。」
「サム、めっちゃ高い店教えろ。一晩で金貨無くなるような。」
「おっけー!」
「ちょっ!」
はぁ・・・今夜はアクセ作りの内職か・・・。