ひさびさ
今夜は久しぶりに1人で野宿である。うむ、星が綺麗だ。
理由は簡単。
封印掛けられるとはいえ、ブレットにこっちが気付いてるとは知られたくない。
だからなるべく盗聴はそのままにして置くべきなんだが・・・。
そうすると、俺らが部屋でエロい事しないってのは不自然過ぎて怪しまれる。
と言って、聞かせる趣味は無えんだよ。
って事で、取り敢えず別行動。
クレアだけ宿に戻り、俺はまだ当分森に篭る。
クレアには、誰かに理由を訊かれたら、「ちょっと・・・」とか言葉を濁しておくように言っておいた。
大抵の人は、痴話喧嘩くらいに思うだろうな。
多分俺が全面的に悪役にされるだろうけど。
あのクソエルフが、クレアにチョッカイ出してくるとは思えんしな。
出したとしても、返り討ちは間違いないし。
まぁそれに、燻製やら干し肉やらが、まだ大分未完成だし。
結界張ってても、匂いは抜けちまうから、獣どもが寄って来ちゃうんで、放置も出来ん。
まぁ結界越えては来られないんだが、一応ね。
クロに結界の外縁部をパトロールしてもらってるんだが、
龍はやっぱし森の食物連鎖の頂点に居るらしく、どの獣も慌てて逃げてく。
オオカミらしき群れまでダッシュで逃げてくんだもんなぁ。
ちなみにミューは俺の横で寝てる。もふもふなんで抱き枕にはベストである。
そいや、昼間は魔法の話で盛り上がってたなぁ、ガールズは。
意外な事に、クレアは魔法に関しては初心者だった。召喚を除いて。
要するに、元のスペックがアレなんで、効率とか燃費とか度外視だったんだよね。
出力が足りなきゃ、もっと燃料入れりゃいーや、式。
人間は、そんな力技使えっこ無いもんだから、効率的な術式を懸命に開発して来たわけだ。
んで、結果としてサムとニノが先生になって、クレアに魔法教える事になったようだ。
ちゃんとした術式覚えれば、威力は格段に上がるらしい。
アレ以上強くなってもしょうがないんじゃ?とか思うんだが、
相手がエルフとなると、油断は出来ないっぽい。
サム曰く、タイマンならまず負けないと思うが、複数相手だとヤバいかも、って事らしい。
確かに、どんな剣豪でも100対1じゃ絶対殺られる。戦さは数だしな、アニキ。
俺?俺のチカラは魔力じゃ無いんで、そもそも術式とか通用しないんだとさ。
レシプロの技術とジェットの技術は別物って事だわな。
「んで、アンタ誰?」
「気付いてたの?」
「まぁな。俺が気付かなくても、そこの黒龍が気付くがな。」
「私はミスティ。見ての通りエルフよ。」
まーエルフだよなぁ、どう見ても。
銀髪の横に生えてる耳がアレだしなぁ。けどあの胸は・・・。
「それで?」
「貴方方と手を組みたい。」
「信用出来んな。」
「なぜかしら?」
「そんなチャチな偽乳で俺を騙そうなんて千年早い。」
「!」
「大方、俺が巨乳好きだからって偽装したんだろうが、無駄だったな。
おっぱい星人の鑑定力を舐めるんじゃ無え。」
「まさか一目で見破られるとはね・・・。」
「て事だ。とっとと消えろ虚乳。」
「随分ね。私が味方かも知れないのに。」
「敵意は無さそうだがな、まず相手を騙そうなんてヤツは信用出来んな。」
「ふーん。思ったよりバカじゃ無いみたいね。」
「少なくとも、ブレットよりは利口だろうな。」
「確かに、あいつはホント使えないわね。
貴方たちが泊まってくれなきゃ気付かないなんて、マヌケ過ぎるわ。」
「で、ようやく連絡が来て、アンタが出張って来たわけか。」
「そうよ。でも魔族のあの娘はともかく、貴方が何者なのか皆目解らないのよね。」
「教える気は無えよ。」
「でしょうね。力づくで聞き出すしか無いかしら?」
「そりゃ無理だな。」
「試してみる?」
「ハッタリは効かねーよ。
アンタはブレットほどバカじゃねーみたいだし、
ここでドンパチやったら都合が悪い事くらい判ってるだろうしな。」
「ホントやりにくいわね、貴方。」
「あんがとよ。」
「一つだけ教えて。貴方魔族なの?」
「ブー!
答えてやったんだから、そっちにも一つ答えてもらおうか。」
「なに?」
「人間を敵視してるのは、多数派か否か。」
「・・・どこまで掴んでるの?」
「黙秘権を行使させてもらおう。」
「はぁ・・・答えはイエスよ。」
「で、アンタは少数派なわけか。」
「どうしてそう思うの?」
「アンタから敵意も侮蔑も感じられないからだ。」
「・・・私はブレットの仲間よ?」
「表向きは、だろ。ブレットはガチガチの敵視派、保守派か?だしな。
となると、アンタは融和派の間者ってトコか。」
「進歩派よ。どうしてそこまで判っちゃうのよ?」
「カマ掛けただけさー。」
「う・・・。く、悔しい。」
「さて、もう用は無い。消えろ。」
「ちょ、ちょっと。私たちと敵対する気?」
「いや別に。」
「だったら組んでも良いんじゃない?」
「やだね。
ぶっちゃけエルフ同士の内輪揉めだろうが。
150年前にゃ魔族や人間まで巻き込みやがってよ。
同族で殺り合うのは色々アレだし、人数も負けてるから、
部外者に汚れ仕事させようって魂胆なんだろう?
その手にゃ乗らねーよ。」
「・・・。」
「殺り合うのはアンタらの勝手だ。俺らは関わらない。
ただし、火の粉は払わせてもらうからな。どっち側だろうと。
武装中立ってヤツだ。」
「手を出したら容赦しない、って事かしら?」
「エルフ全部、派閥も関係無く女子供まで皆殺しにしてやる。
一人残らず綺麗さっぱり絶滅させてやるよ。
二度と自分たちの都合だけで悪さなんて出来ねーようにな。」
「そんな事・・・出来ると思ってるの?」
「多分な。
神様気取りのエゴイスト集団なんざ、俺の敵じゃ無え。」
「・・・確かに貴方の言う通りかもね。ほとんどのエルフは驕っているわ。」
「へぇ・・・反省とか出来るとは思わなかったぜ。」
「反省しない者が多いのは否定しないわ。でも、する者も居るの。」
「ふーん。」
「保守派の連中が動いたら教えるわ。そいつらをどうするかは貴方たちの自由。」
「ふん。それで俺たちが連中の戦力を削れば漁夫の利ってか。」
「そうよ。でもそっちにも損は無いでしょ?」
「どうだか?
俺らの情報を大げさに保守派に伝えれば、奴らの戦力をこっちに集中させられるしな。
こっちにゃ命のやり取りさせておいて、高見の見物決め込まれるのは割りに合わん。
それなりの見返りを寄越せ。取り敢えず情報。」
「・・・ホントやりにくいわね。」
「アンタが今までに相手してきたのがバカ過ぎたってだけさ。」
「そうね。石頭のエルフと、金次第な人間ばっかりだったわね。
貴方みたいなのは初めてかも。弱味が握れれば良いんだけど。」
「俺の弱味はクレアだけだが・・・
あいつに何かしたら、マジ皆殺しにしてやる。」
「そこまでバカじゃ無いわよ。
大体あの娘どうこうするなんて、エルフの長老でも難しいわよ。」
「卑劣なるエルフは、数で押して来るんじゃねーのか?」
「残念ながら、高潔なるエルフは集団戦は苦手なの。」
「俺が俺が、ってか。」
「そういう事。スタンドプレーしか頭に無いのよ。ホントバカばっかり。」
「長生き過ぎるから、進歩しねーのか。」
「そうよ。伝統も良いけど、それだけじゃね・・・。」
「それで人間に押し込まれてるのが不満、てか。」
「自分たちが進歩しないのが悪いのに、それを棚に上げて人間を敵視する。
それが今のエルフの主流派。」
「んで、自分たちも進歩すべきだってのがアンタらか。」
「そう。このままではエルフはいずれ滅んでしまう。
進歩しない種族に未来は無いわ。
それが判らない連中が、姑息な手段を取ったりしてるんだけど。」
「やっぱ150年前の事件は・・・。」
「そうよ。エルフが仕掛けたの。
ミスリルを独占し、供給を偏らせる。」
「あー、そーゆー手だったのか。」
「貴方は違うと思ってたのね。」
「ミスリル独占までは同じだがな。
それを以って支配権確立を目論んでるのかと思ってた。」
「それは無理だったのよ。
ミスリルは確かに貴重ではあるけど、軍事以外では必需品じゃ無い。
今だって、ミスリルが無くても人間はそれほど困って無いでしょ。」
「それもそうか。
だからミリタリーバランスを崩して戦乱を起こそうと。」
「そう。
一方の軍事力が圧倒的になれば、人間は必ず戦争を起こす。
そして今度は、負けそうになったもう一方にだけミスリルを流す。」
「そして戦乱は続くよ、どこまでも、か・・・。
人間を弱体化させるには、確かに同士討ちさせるのが一番だよな。」
「そうよ。」
「でだ。魔王はやっぱし勇者と闘ったのか?
それとも勇者を帰そうとしたのか?」
「それは分からない。
尾行させた者は一人も戻らなかったらしいの。」
「巻き込まれた、か。」
「恐らくね。
どんな手を使ってでも、魔王と勇者を亡き者にするように言われてたらしいから。」
「なのに無駄死にになっちまったわけか。ザマミロ。
で、鉱山はまだ見つかって無いんだよな?」
「そうよ。・・・まさか知ってるの?鉱山の在り処。」
「ノーコメント。」
「知ってるのね・・・。」
「ノーコメント。」
「ムカつく・・・。」
「話は終わりだ。
次はもっと偉いの連れて来い。アンタみたいな下っ端じゃ話にならん。」
「あのね・・・私一応進歩派のリーダーなんだけど?」
「は?・・・進歩派って、少数どころじゃ無えんだな・・・。
この程度でリーダーかよ。」
「この程度で悪かったわね!けど実際ほんの一握りなのよ。」
「ふん。それで俺らが戦力として欲しいわけだ。」
「そうよ。少なくとも私たちは貴方たちに敵対はしない。それは約束するわ。」
「利用はするけど、ってか。」
「そうでもしないとどうにもならないのよ。悔しいけどね。」
「ま、良かろう。俺は優しいからな。多少は利用されてやるよ。」
「良く言うわ・・・。」
「アンタが虚乳じゃ無きゃ、二つ返事で承知してやったんだがな?」
「うるさいっ!これでもエルフじゃ普通なのよっ!」
「・・・それで普通だと?やっとこBじゃないか・・・。
うん。エルフ滅んで良し。いやむしろ滅べ。
乳無き民なぞ世界に不要。」
「あーのーねー・・・。」
「豊乳の魔法とか無いのか?」
「無いわよ。・・・はぁ、もう帰るわ。」
「おぅ帰れ。」
「とうとう結界の中に入れてくれなかったわね。」
「当たり前だ。
今んとこ、アンタらとはビジネス上の協力関係に過ぎんからな。
利害が対立したら、即敵に回るような相手をホイホイ信用するかよ。」
「ホント、やりにくいったら。」
「巨乳エルフ連れて来い。そしたら信用するかも。」
「乳だけで信用するとか、有り得ないでしょ?」
「おっぱいは正義だ。」