把握
朝飯食いながら、3人娘から聞いた情報を総合すると。
大陸は、中央を横断する山脈で2分されている。
山脈より北は、ツァーリ帝国。国主は皇帝ニコライ。
大陸最大の版図ではあるが、寒冷な気候のため人口は多くなく、技術も遅れ気味。
どこのロシア帝国?イメージしやすくて良いがな。
山脈より南の西半分はブルボン王国。国王はシャルル。
文化も技術も一流だが、軍隊はあんまし強くない。
おフランスやね。
で、東半分のほとんどが、バーデン王国。国王ルドルフ。
質実剛健。軍隊は実力もあるが政治的発言力も強い。
ドイツまんまやな・・・。
んで最後の部分、バーデン領じゃない大陸の東南端。
ここはバーデンは自国領と主張して、度々軍を送り込んでいるが、実質は魔族が支配してるとか。
そしてその沖合いに黒森島がある。
悪役つーか潰す予定だったピラウ王国は、とっくの昔にバーデンに滅ぼされたとか。
ザマミロ。
ピラウの旧王城は、魔族支配地にあるらしいんで、今んとこ勇者召喚は無さそうだ。
待てよ。ピラウ滅ぼしたのがバーデンなら、王城もバーデンに陥とされたんじゃネ?
「ああ、それはですね。ピラウが滅んだあと、数年後に黒森島から魔獣やら魔物やらが大挙して押し寄せて来まして・・・。」
「サム、それ魔族じゃ無いじゃん。」
「そうなんですが、バーデンでは魔族の仕業と言う事になってるみたいで。」
「ふん。魔獣如きに追い出されたとか、軍の威信にかけても云えないってとこか。」
「そんな所でしょう。その後何度侵攻しても返り討ちに遭ってるのが笑えますが。」
「魔獣って、そんな強いのか?」
「強いのも居ます。としか。」
「なるほど。みんな強かったら冒険者なんて1人も居なくなるな。」
「神官のニノはともかく、私やアリサなんてロクな仕事無かったでしょうね。」
「アリサは残念な子だから判るが、魔導師だろ?お前。」
「私の属性は闇。人間相手には危なくて使えないし、戦闘以外役に立たない。」
「ふーん。使い方次第だと思うけどねー。」
「どういう意味?」
「魔法なんて道具と同じだろ、って意味。」
「?」
「包丁は調理器具だよな。美味いメシ作るには欠かせない。
でもコレで人を刺したら?それは凶器と呼ばれる。」
「・・・」
「難しく考えるな。包丁には料理も人殺しも出来ないって事さ。」
「使う人次第・・・ですか。」
「世の中にはさ、寝付きが悪くて困ってる人とかも居るんじゃネ?」
「!」
「ま、お前次第だろ。」
「・・・うん。」
「難しい話?」
「アリサに難しくない話なんてあるのか?」
「うっ。」
「んでさ、ぶっちゃけココってブルボン領なんだよな?」
「一応ね。冒険者はブルボンが一番多いの。」
「なんで?」
「軍隊が弱いからかな?バーデンだと魔物が出ても、すぐ兵隊が来るらしいし。」
「その方が良いんじゃねーか?」
「その代わりすっごく威張ってるんだってさ。魔物よりタチが悪いとすら言われてるよ。」
「ツァーリはどうなんだ?」
「あそこは寒すぎて、魔物もほとんど居ないみたい。」
「それでブルボンなわけか。」
「うん。軍隊は滅多に出て来ないし、魔物もそこそこ居る。冒険者ならココがベスト。」
「軍隊にカネ掛けないのはまぁ良いとして、その分浮いたカネはどうなってるんだ?」
「王族貴族の懐。」
「だよなぁ、やっぱし。」
「ニノ、戦争とかってちょくちょくあるのか?」
「大きなのは30年前のピラウ滅亡が最後ですね。」
「30年前?そんなに昔じゃないんだな?」
「ええ。なんでも当時のピラウ王が、勇者召喚をしようとしてるって噂が立って・・・」
「勇者召喚?!そ、それって成功したのか?」
「え、あ、実行する前にバーデンが攻め落としたようですけど・・・。」
「うーむ・・・なぁ、なんで勇者召喚なんてしようとしたんだ?」
「あ、あくまで噂ですが、黒森島に攻め込もうとしたらしいです。」
「なんで?」
「あの島には有力なミスリル鉱脈があって、魔王様がいらした頃には、たくさん掘り出されていたんです。
それが、魔王様が行方不明になられてしまってからは、島の魔族たちも次々と居なくなり、誰もミスリルを掘らなくなってしまって・・・。」
「魔王って、行方不明なの?」
「はい。150年前に突然・・・。」
「戦争とかじゃ無く?」
「魔王様は、中立を貫いておられたので、敵と言える国は無かったはずです。
むしろ、魔王様を攻めたりしたら、他国が黙っていなかったでしょう。」
「んで、魔王が居なくなった黒森島は、魔獣の巣窟になっちまった、と。」
「いえ、むしろ元に戻ったと言ったほうが正しいです。」
「なるほどな。魔王ぐらいじゃ無きゃ魔獣を抑えてミスリル掘るなんて無理だったわけか。」
「はい。それで大陸中でミスリル不足になってしまって・・・。」
「だったら、ピラウが勇者使ってミスリル掘ってくれた方が良かったんじゃネ?」
「ピラウが、魔王様のように分け隔て無く、どの国にもミスリルを供給してくれるとは思えなかったんでしょう。」
「あー、魔王ってそんなに公平だったのか?」
「はい。ミスリルの供給が偏れば、それだけで国力・軍事力に差が付きます。」
「解った。魔王は大した人物だ。俺も尊敬する。」
「この大陸で、魔王様を悪く言うのは、極一部の王族や貴族だけでしょうね。
少なくとも一般の民衆には絶大な人気があります。」
「今でもなのか?150年前だろ?」
「今でもです。」
「ふーむ。」
魔王の人気はそんなにあるのか。
その娘を押し倒した、なんて知られたらフクロにされそーだな・・・。
しっかしピラウってサイアクだな。そりゃミスリル独占出来りゃ大儲けだろーけどさ。
魔王倒した後で島行ったんだろうな。んで魔獣どもに蹴散らされてミスリルは手に入らず。
人間じゃどーにも出来んからって、またしても勇者召喚・・・。
腐ってるなんてレベルじゃねーな。
しかし・・・
召喚途中だったとしたら、装置やら資料やらがバーデンに行ってる可能性もあるな。
あるいは最悪、召喚は成功してた可能性もある。
んで召喚された勇者が、呼び出したクズどもをシバいたのかも。
30年前なら、まだ生きてる可能性は高いな。召喚されてたなら、だが。