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日常という奇跡

掲載日:2026/09/19

 引越しの準備で荷物をダンボールに詰めていると、机の引き出しから1通の封筒が出てきた。

 当時付き合っていた彼女からの手紙だった。

 病気を患っていた彼女が、病室で書いてくれたもの。

 僕は封筒から手紙を取り出して、久しぶりに目を通した。



 □ □ □



 雪也(ゆきや)へ。


 お元気ですか?

 いつも励ましの連絡や、面白くて笑ってしまうお話を送ってきてくれてありがとう。

 スマホがあるって便利だね。

 でも、雪也(ゆきや)に会えないのが寂しいです。

 近くの病院だったら良かったのに。


 秋になりましたね。

 病室から見える木の葉も、だいぶ赤く色づいてきました。

 けど、その葉ももう少しで冬になり、散ってしまいます。

 私もそのうち散ってしまうんだなと思うと、涙が出る時があります。

 先生からは、そう長くはないと言われました。

 だから、今回この手紙を書くことにしました。


 雪也(ゆきや)とは小学校で出会って、中学校、高校も一緒で。

 本当に長く一緒にお話したり、遊んだりしたね。

 高校に入ってから、告白してくれて、本当に嬉しかった。

 私の体が弱いからいろいろ気を遣わせちゃったと思うけど、とてもとても楽しい日々でした。

 もっともっと一緒にいたい。

 もっともっと一緒にお話をしたい。

 でも、それも叶わなそうです。


 この手紙を読んでいる頃には、私はもうこの世にはいないかもしれません。

 だから、この手紙はお母さんに渡して、私がいなくなったら渡してもらうようにします。


 雪也(ゆきや)はずっとずっと健康でいてください。

 私の分もいっぱい生きて、幸せになってね。


 PS. 雪也(ゆきや)がおすすめしてくれたジュースが病院の自動販売機にあったから飲んでみたけど、あまり美味しくなかったです笑



 □ □ □



「雪也(ゆきや)、何読んでるの?」


 手紙を読み終わった直後、背後から声を掛けられた。

 僕は振り返り、持っていた手紙を見せながら言った。


「どっかの誰かさんが入院中に書いた手紙だよ」

「ちょっと、それまだ持ってたの!? 捨ててって言ったじゃない!」

「ふふふ、せっかく貰ったんだから、捨てるわけないだろ!」


 そう、この手紙は、今目の前にいる彼女が書いたものだ。

 この手紙を書いた後、彼女は新しい治療法が奇跡的にヒットして回復に向かったのだ。

 そうなるとこの手紙は本来であれば破棄されるはずだったけど、彼女のお母さんが、涙ながらに「こんな手紙書いてたのよ」とこっそりくれたのだった。


「いいじゃないか、僕達の大切な思い出の1つなんだから」


 僕がそう言うと、彼女は「もう」と言いながら頬を膨らませた。


「そうそう、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」


 彼女はそう言って、僕の手を取る。

 お互いの左薬指の指輪が光る。

 僕達は引っ越しをする。

 2人で新しい生活をする為に。


 そして僕は思うのだ。

 こうして2人でいられる、日常という奇跡に感謝を。

自動販売機のジュース、当たり外れありますよね。

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― 新着の感想 ―
拝読しました。 悲しいお話かと思いきや、まさかのハッピーエンド、 見事でした。 ほっとしました。
読みました! 今作も素敵なお話でした〜。 とても悲しいお話だなと思ったらラストのオチ。つい微笑んでしまいました。悲壮感漂う主人公が、未来では明るく朗らかになっており嬉しいとともに時間の流れをうまく表…
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