日常という奇跡
引越しの準備で荷物をダンボールに詰めていると、机の引き出しから1通の封筒が出てきた。
当時付き合っていた彼女からの手紙だった。
病気を患っていた彼女が、病室で書いてくれたもの。
僕は封筒から手紙を取り出して、久しぶりに目を通した。
□ □ □
雪也へ。
お元気ですか?
いつも励ましの連絡や、面白くて笑ってしまうお話を送ってきてくれてありがとう。
スマホがあるって便利だね。
でも、雪也に会えないのが寂しいです。
近くの病院だったら良かったのに。
秋になりましたね。
病室から見える木の葉も、だいぶ赤く色づいてきました。
けど、その葉ももう少しで冬になり、散ってしまいます。
私もそのうち散ってしまうんだなと思うと、涙が出る時があります。
先生からは、そう長くはないと言われました。
だから、今回この手紙を書くことにしました。
雪也とは小学校で出会って、中学校、高校も一緒で。
本当に長く一緒にお話したり、遊んだりしたね。
高校に入ってから、告白してくれて、本当に嬉しかった。
私の体が弱いからいろいろ気を遣わせちゃったと思うけど、とてもとても楽しい日々でした。
もっともっと一緒にいたい。
もっともっと一緒にお話をしたい。
でも、それも叶わなそうです。
この手紙を読んでいる頃には、私はもうこの世にはいないかもしれません。
だから、この手紙はお母さんに渡して、私がいなくなったら渡してもらうようにします。
雪也はずっとずっと健康でいてください。
私の分もいっぱい生きて、幸せになってね。
PS. 雪也がおすすめしてくれたジュースが病院の自動販売機にあったから飲んでみたけど、あまり美味しくなかったです笑
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「雪也、何読んでるの?」
手紙を読み終わった直後、背後から声を掛けられた。
僕は振り返り、持っていた手紙を見せながら言った。
「どっかの誰かさんが入院中に書いた手紙だよ」
「ちょっと、それまだ持ってたの!? 捨ててって言ったじゃない!」
「ふふふ、せっかく貰ったんだから、捨てるわけないだろ!」
そう、この手紙は、今目の前にいる彼女が書いたものだ。
この手紙を書いた後、彼女は新しい治療法が奇跡的にヒットして回復に向かったのだ。
そうなるとこの手紙は本来であれば破棄されるはずだったけど、彼女のお母さんが、涙ながらに「こんな手紙書いてたのよ」とこっそりくれたのだった。
「いいじゃないか、僕達の大切な思い出の1つなんだから」
僕がそう言うと、彼女は「もう」と言いながら頬を膨らませた。
「そうそう、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」
彼女はそう言って、僕の手を取る。
お互いの左薬指の指輪が光る。
僕達は引っ越しをする。
2人で新しい生活をする為に。
そして僕は思うのだ。
こうして2人でいられる、日常という奇跡に感謝を。
自動販売機のジュース、当たり外れありますよね。




