外伝第二部:『鉄の誓い(アイアン・オース)』 ――錆びたジャンクヤードの片隅で、少年が「心」の代わりに「鉄」を選んだ日。
1. 灰色の空の下、二人の「家族」
本編より二十数年前。ジャンクヤード「外典」の最下層。 少年だったシンは、自分よりさらに小さな少女、ミーナと肩を寄せ合って生きていた。血の繋がりはない。だが、毒素を含んだ風が吹き荒れるこの場所で、お互いの体温だけが唯一の「生」の証明だった。
「シン、見て。これ、動いたよ」 ミーナが差し出したのは、廃棄された時計の歯車を組み合わせた、不格好なゼンマイ仕掛けの人形だった。 シンは、不器用に笑った。 「すごいな、ミーナ。お前は天才だ。いつか、本物の人間みたいに動く機械を作れるようになるさ」
彼らにとって、捨てられた屑鉄はゴミではなく、夢を紡ぐための粘土だった。
2. 暗黒の雨、慈悲なき空
ある日、空がこれまで見たこともないような、不気味な赤紫色に染まった。 旧文明の化学工場跡地から漏れ出した汚染物質が、雲を焼き、致命的な「極高濃度酸性雨」を生成したのだ。
「シン! 痛い、熱いよ!」 逃げ遅れた二人の上に、一滴、また一滴と、致死性の雨が降り注ぐ。 シェルターの扉は固く閉ざされ、中にいた大人たちは、汚染を恐れて二人を拒絶した。
シンはミーナを自分の下に抱え込み、必死に庇った。 だが、少年の小さな背中だけでは、雨を防ぎきることはできなかった。 ミーナの細い腕が、足が、そしてあの歯車を握りしめていた手が、酸の雨によって文字通り「溶けて」いく。
「シン……。手、離さないで……」 「離さない! 絶対に離さないからな!」
シンは叫び、ミーナの右手を強く握りしめた。だが、握れば握るほど、彼女の肉は崩れ、骨だけが虚しく残っていく。 シン自身の右腕もまた、雨に焼かれ、神経が死に絶え、黒く変色していた。
3. 『鉄』という名の決意
雨が止んだ後、シンの手の中に残っていたのは、ミーナの体温ではなく、彼女が大切にしていた、錆びついたゼンマイ人形の歯車だけだった。
シンは、生き残った。だが、彼の心はあの日、酸の雨と共に消え去った。 彼は、動かなくなった自らの右腕を、麻酔もなしに自ら切り落とした。 「……肉なんて、いらない。……心なんて、邪魔だ」
彼はジャンクの山から、パワーショベルの油圧アームを拾い上げた。 それを自分の肩にボルトで打ち込み、配線を無理やり神経に繋いだ。 激痛が走る。だが、その痛みこそが、ミーナを守れなかった自分への罰だと、彼は笑った。
「これからは、この『鉄』で、すべてを殴り倒して生き延びてやる。……二度と、誰の手も、溶けさせたりしない」
こうして、ジャンクヤード最強の戦士、シンが誕生した。 彼の無骨な機械アームの深奥には、今もあの日拾い上げた、小さなゼンマイの歯車が一つ、静かに埋め込まれている。
た真意)を外伝第二部:活動報告用キャッチコピー
「あの日、少年の『肉』は死に、『鉄』が生まれた。握りしめたのは、溶けゆく温もりと、錆びた歯車だけ。」




