ー第4項 有能だが傷ついた民を統率し、苦しみなき理想郷の建国を宣言する元悪役令嬢のカリスマの話
第4項 有能だが傷ついた民を統率し、苦しみなき理想郷の建国を宣言する元悪役令嬢のカリスマの話
一ヶ月が経つ頃には、セシリアの家の周りには十数軒の小屋が立ち並び、小さな村の様相を呈していた。
畑には魔法で成長を促進された作物が実り、工房からは槌音が響く。
住民は五十人を超えていた。
セシリアは広場に彼らを集めた。
急ごしらえの演台の上で、彼女はドワーフたちが打ったミスリルの剣を杖代わりに突き立てた。
「聞きなさい、私の民たちよ」
凛とした声が響く。彼女はもはや、泥にまみれた逃亡者ではない。女王の風格を纏っていた。
「ここは王国の地図には載っていない、忘れられた土地です。しかし、今日からここは『新生オルティス領』。私の国です」
民たちが静まり返り、彼女の言葉を待つ。
「あなたたちは王国で捨てられた。無能だ、汚らわしいと罵られた。……けれど、ここでは違う。実力こそが全て。そして、不当な苦しみは、私の相棒が食らい尽くしてくれる!」
『おう! お前らの「月曜日の憂鬱」も「将来の不安」も「上司への殺意」も、全部俺が美味しくいただいてやるから安心しろ!』
ノワールが巨大化し、マスコットのように手を振った(手はないが)。
民衆から「ノワール様!」「守護神様!」と歓声が上がる。彼らにとって、精神的苦痛を取り除いてくれるノワールは、まさに神に等しい存在だった。
「私たちは、苦しみのない国を作る。あの腐った王国が指をくわえて羨むほどの、豊かな国を。……ついて来られる者は、その腕を私に貸しなさい!」
オオオオオッ!!
熱狂的な叫びが荒野にこだました。
彼らの目は輝いていた。かつて死んだ魚のようだった彼らの魂に、セシリアが火をつけたのだ。
セシリアは満足げに頷き、演台を降りた。
(見ていなさい、アルフレッド。あなたが捨てたゴミたちが、いずれあなたの喉元に牙を突き立てるわ)
彼女の復讐は、単なる破壊ではない。
王国よりも優れた国を作り、彼らの価値観そのものを否定し、踏みにじること。それこそが、誇り高き悪役令嬢の選んだ「勝利」の形だった。




