第2章 第1項 死の荒野へ逃げ延びた悪役令嬢と魔王が、土地の呪いを食べ尽くして不毛の地を楽園に変える話
第2章 荒野の現世浄土
第1項 死の荒野へ逃げ延びた悪役令嬢と魔王が、土地の呪いを食べ尽くして不毛の地を楽園に変える話
王都を脱出したセシリアとノワールが辿り着いたのは、王国の北西に広がる広大な荒野だった。
そこは「死の荒野」と呼ばれ、草木一本生えず、瘴気が漂い、凶暴な魔獣さえ寄り付かない不毛の地として恐れられていた。かつて古の魔法文明が滅びた跡地とも、邪神の墓場とも言われる場所だ。
「……ここなら、追手も来ないでしょうね」
セシリアは、ひび割れた大地に足を下ろした。砂埃が舞い上がり、喉がひりつくような乾燥した空気が肺を満たす。
豪奢なドレスの裾は破り捨て、旅の途中で調達した活動的な服に着替えている。だが、その背筋は王城にいた時と同じく、凛と伸びていた。
『ケケッ、ひでえ場所だ。怨念と絶望が地面から湯気みたいに立ち上ってやがる』
肩に乗ったノワールが、鼻を鳴らすように震えた。
「あなたには、ご馳走に見えるのかしら?」
『ああ、最高だ。この土地には数百年分の「飢え」と「渇き」が染み付いてる。熟成された極上の呪いだ』
ノワールがセシリアの肩から飛び降り、地面に着地した。
瞬間、漆黒の毛玉が膨れ上がり、地面に口づけをするように(口はないが)吸い付き始めた。
『いただきまーす!』
ズオオオオオオッ!!
地面が震動した。
ノワールを中心にして、黒い竜巻のようなエネルギーが渦を巻き、大地から吸い上げられていく。
紫色の瘴気、ドス黒い怨念、そして「作物が育たない」という土地そのものの呪縛。それらが全て、ノワールの底なしの胃袋へと消えていく。
「……信じられない」
セシリアは目を見張った。
ノワールが瘴気を吸い尽くしたそばから、ひび割れた大地が潤いを取り戻し、黒々とした肥沃な土へと変わっていくのだ。
枯れ果てていた地下水脈が復活したのか、ポコポコと清水が湧き出し始める音さえ聞こえてくる。
『ぷはーっ! 食った食った! ちょっと土臭いが、腹持ちはいいな』
元のサイズに戻ったノワールが、満足げにゲップをした。
見渡す限り続いていた「死の荒野」の一角が、今や「約束の地」のような輝きを放っている。
「これが、あなたの力……」
セシリアは土を手に取った。しっとりと水分を含み、生命力に満ちている。
「これなら、いけるわ。王国が捨てたこの場所で、私は私の国を作る」
セシリアの瞳に、野心の炎が灯った。
誰にも頼らず、誰にも媚びず。己の力と、この大食らいの相棒だけで、世界を見返してやるのだ。




