第5章 第1項 新たな覇権国家の誕生と、かつての祖国の凋落。屈辱的な条約調印式で決定づけられた、逃れようのない絶対的な主従関係
第5章 永遠に続く黄金の楽園
第1項 新たな覇権国家の誕生と、かつての祖国の凋落。屈辱的な条約調印式で決定づけられた、逃れようのない絶対的な主従関係
聖戦と呼ばれたあの一方的な蹂躙から、わずか数週間。大陸の勢力図は劇的に塗り替えられた。
セシリア・オルコットが建国した新国家『ノワール・キングダム』。
豊かな資源、圧倒的な軍事力、そして何よりも「悪魔の加護」という未知なる力を背景に、この国は瞬く間に大陸の中心へと躍り出た。
周辺諸国の動きは早かった。
かつては王国に阿り、セシリアを「魔女」と忌避していた国々が、手のひらを返したように親善大使を送り込んできたのだ。彼らは皆、山のような貢ぎ物を携え、セシリアの前に額をこすりつけた。
逆らえばどうなるか。あの飢えた王国軍の末路を見れば明らかだったからだ。
「これより、旧王国は我が国の属国として、その存続を『許可』します」
豪奢な謁見の間。玉座に座るセシリアは、眼下で震える旧王国の宰相に冷淡に告げた。
王太子ギルバートが失脚し、国王も心労で倒れた今、王国には主権など残されていなかった。
提示された条件は過酷極まりないものだった。軍の解体、外交権の譲渡、そして膨大な賠償金。それは国家としての死刑宣告に等しかったが、拒否権などあるはずもない。
「あ、ありがたき幸せ……」
屈辱に顔を歪めながらも、宰相は震える手で条約書にサインをした。
その瞬間、歴史ある王国は事実上消滅し、セシリアの広大な庭の一部へと成り下がったのだ。
「これで名実ともに、この大陸は私のものね」
セシリアが呟くと、傍らに控えていたノワールが恭しくワインを注ぐ。
「ええ。賢明な判断をした諸外国には、相応の『豊かさ』を分け与えてやりましょう。我々の支配が、いかに甘美で逃れがたいものか、骨の髄まで理解させるために」
ノワールの瞳が妖しく光る。
武力による支配ではない。経済と文化、そして「快楽」による支配。
セシリアの国から輸出される極上の作物、美しい工芸品、そして魔法技術は、瞬く間に世界中を中毒にしていった。人々はセシリアを恐れると同時に、彼女がもたらす繁栄に依存し、崇拝するようになったのだ。
それは、誰もが夢見た理想郷。
ただし、その中心には冷酷な魔女と悪魔が座しているという一点を除いて。




