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第4章 第1項 枯れ木のような兵士たちと、黄金に輝く守護者たち。飢えた王国軍が目の当たりにした、あまりに残酷な現実の格差

第4章 聖戦という名の自殺行為


第1項 枯れ木のような兵士たちと、黄金に輝く守護者たち。飢えた王国軍が目の当たりにした、あまりに残酷な現実の格差


聖戦、と彼らは呼んだ。

神聖なる王国を守るため、邪悪な魔女セシリア・オルコットを討ち滅ぼすための正義の行軍であると。


だが、現実はどうだ。


国境へと続く荒野を行く王国軍の隊列は、まるで亡者の葬列のようだった。かつて大陸最強と謳われた威容は見る影もない。兵士たちの頬はこけ、眼窩はくぼみ、身にまとう鎧の重さに足をもつれさせている。

連日の不作、重税による食糧難、そして疫病の流行。王太子ギルバートと聖女マリアの失政によって、国力は限界まで疲弊していた。それでもなお、「聖女の加護があれば勝てる」「魔女の蓄えた財宝を奪えば国は潤う」という甘言に踊らされ、彼らはここへ来たのだ。


「……腹が減った」

「水は……水はないか……」


隊列のあちこちから漏れるのは、敵への憎悪ではなく、生存への渇望だった。

そんな彼らの視界の先に、セシリアの治める領地――今や独立国家となった『楽園』の防衛線が見えてきた。


「見ろ! 敵軍だ!」


誰かの叫び声に、兵士たちは重い頭を上げる。そして、絶句した。

そこに並んでいたのは、人間という生物としての「格」が違う存在たちだった。


王国から追放され、セシリアの下へと集った元騎士たち。彼らはかつて裏切り者と呼ばれた者たちだが、その姿は堂々たるものだった。

肌は血色良く艶めき、筋肉は鎧の上からでもわかるほどに隆起している。瞳には確固たる意志と、溢れんばかりの活力が宿っていた。

何より恐ろしいのは、彼らの周囲に漂う不可視の力だ。

悪魔ノワールの加護を受けた彼らは、ただ立っているだけで陽炎のようなオーラを放っている。飢えた王国兵にとって、その生命力そのものが暴力的なまでのプレッシャーとなって襲いかかってきた。


「な、なんだあれは……化け物か……?」

「俺たちは、あんな奴らと戦うのか……?」


震える手で剣を握り直す王国兵たち。

その時、対岸の陣形が割れ、豪奢な天蓋付きの馬車がゆっくりと進み出てきた。

戦場には似つかわしくない、あまりに優雅な登場。

馬車が止まり、従僕の手によって扉が開かれると、そこから現れたのは一人の女性だった。


漆黒のドレスに身を包み、宝石のように輝く銀髪をなびかせた美女。

セシリア・オルコット。

かつての悪役令嬢であり、今は魔女として恐れられるこの国の支配者。


彼女は戦場の最前線に、まるで庭園を散歩するかのような足取りで降り立った。

その隣には、執事服を着た長身の男――悪魔ノワールが恭しく控えている。


「ようこそ、愚かなる元同胞たちよ」


セシリアの声は決して大きくなかったが、不思議と戦場全体に響き渡った。

それは風に乗り、飢えた兵士たちの耳に甘く、冷たく届く。


「私の楽園を汚しに来たのなら、歓迎はしないわ。けれど、自らの愚かさを知りに来たのなら――特等席を用意してあげてもよくてよ?」


彼女は扇子で口元を隠し、冷酷な笑みを浮かべた。

王国軍の指揮官が震える声で突撃を命じる。

だが、その命令は誰の耳にも届かなかった。兵士たちの目は、セシリアの背後、防衛線の向こう側に広がる光景に釘付けになっていたからだ。


そこには、豊かな麦畑が黄金色に波打ち、果樹園にはたわわに実がなり、風に乗ってパンを焼く香ばしい匂いが漂ってきていた。

地獄と天国。

痩せ細った王国兵たちは、自分たちがどちら側に立っているのかを、痛いほど理解させられたのだった。


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