ー第2項 死んだはずの令嬢が荒野に楽園を築いているという噂が流れ、絶望した民衆の希望となる話
第2項 死んだはずの令嬢が荒野に楽園を築いているという噂が流れ、絶望した民衆の希望となる話
そんな荒廃した王国に、奇妙な噂が流れ始めたのは、冬の初めの頃だった。
「おい、聞いたか? 隣の『死の荒野』に、楽園があるらしいぞ」
「楽園? あそこは草も生えない不毛の地だろう?」
「いや、違うんだ。行商人が見たって話だ。荒野の真ん中に、美しい街ができてるって」
「しかも、そこを治めているのは……死んだはずのセシリア様だとか」
酒場で、井戸端で、人々はひそひそと囁き合った。
セシリア・フォン・オルティス。かつては冷徹な悪役令嬢として恐れられ、処刑されたはずの少女。
しかし今、彼女の評価は逆転しつつあった。
「セシリア様が生きていた頃は、こんなに税金高くなかったよな……」
「あの方は厳しかったけど、約束は守ってくれた」
「もしかして、私たちは間違っていたんじゃないか?」
噂は尾ひれをつけて広がった。
セシリアの国には、一年中花が咲き乱れ、食べきれないほどの作物が実り、病気になってもすぐに治る魔法の泉があるという。
そして何より、「理不尽な苦しみがない」という言葉が、人々の心を強く惹きつけた。
王国に絶望した者たちが、一人、また一人と荷物をまとめ、北西の荒野へと向かい始めた。
最初は貧民や職人だったが、やがてその波は、王国の根幹を支える層にまで及んでいった。




