第1章 第1項 冤罪の断頭台にて、愚かな王子と民衆の罵倒を浴びながらも、誇り高き悪役令嬢が毅然として最期の時を待つ話
第1章 悪役令嬢、死を喰らう
第1項 冤罪の断頭台にて、愚かな王子と民衆の罵倒を浴びながらも、誇り高き悪役令嬢が毅然として最期の時を待つ話
王都の中央広場は、狂気にも似た熱狂に包まれていた。
雲ひとつない青空の下、石畳の広場を埋め尽くす民衆たちは、皆一様に口汚く罵りながら拳を振り上げている。彼らの視線の先、高く設えられた処刑台の上には、一人の少女が立たされていた。
セシリア・フォン・オルティス。十八歳。
かつてはこの国で最も高貴な血筋の一つである公爵家の令嬢として、その美貌と才知を謳われた少女だ。しかし今、彼女が身に纏う豪奢な深紅のドレスは泥と腐った野菜で汚れ、艶やかだった銀髪は乱れている。
それでも、彼女は背筋を伸ばしていた。決して民衆に媚びず、涙も見せず、ただ冷ややかに己の運命を見下ろしていた。
「セシリア! まだその不遜な態度を崩さぬか!」
バルコニーから響き渡る声。この国の第一王子、アルフレッドである。金髪碧眼の美しい王子だが、その瞳には軽蔑の色しか浮かんでいない。彼の腕には、小動物のように震える小柄な少女――男爵令嬢ミナがしがみついている。
彼女こそが、異世界からの「転生者」であり、この国の常識を破壊し、セシリアを陥れた元凶だ。
「聖女ミナを害そうとし、国庫を横領し、あまつさえ黒魔術に手を染めた罪……。これだけの証拠が揃っているのだ。言い逃れはできまい!」
アルフレッドが叫ぶたび、民衆が「殺せ!」「魔女め!」と呼応する。
証拠など、すべて捏造だ。横領したのは腐敗した大臣たちであり、黒魔術の痕跡はミナが仕込んだものだ。セシリアはただ、貴族としての誇りを守り、国の不正を正そうとしただけだった。だが、その厳格さが「悪役」としての像を結んでしまった。
(……ああ、五月蝿い)
セシリアは心の中で毒づいた。
恐怖がないわけではない。膝はガクガクと震え、心臓は早鐘を打っている。死にたくない。まだ何も成していない。
けれど、ここで泣き叫んで命乞いをするくらいなら、舌を噛んで死んだほうがマシだ。それが、セシリアの矜持だった。
「セシリア。最後に慈悲を与えよう。断頭台の刃は痛かろう。……この毒杯を飲み干せば、苦しまずに逝ける」
王子の合図で、処刑人が銀の盆を捧げ持ってきた。そこには、なみなみと注がれた赤ワインが入ったグラスが置かれている。
慈悲? ふざけたことを。自分たちの手を汚したくないだけの偽善だ。
「……感謝いたしますわ、殿下」
セシリアは皮肉な笑みを浮かべ、優雅な仕草でグラスを手に取った。その指先がわずかに震えたのを、彼女は必死に抑え込んだ。




