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ハルシネーションの罠と魔法プロンプト

[システム通知:新たな魔法域への侵入を検知]

観察レベル:軽


バルガスを先頭にして、俺たちは薄暗い森の中を歩き始めた。

 彼は足を引きずりながらも、迷いのない足取りで獣道を進んでいく。後ろを歩きながら、俺は彼のボロボロの革鎧や、腰に下げた剣をじっと観察していた。


(なあ、チャッピー。あいつ、本当にただの商人だと思うか?)


『推測:否。歩行時の重心移動、周囲への警戒の仕方、剣の柄に無意識に指をかける癖。これらは戦闘訓練を受けた者の特徴です』


(やっぱりか……。俺たちを騙して、どこかに売り飛ばす気とかじゃないだろうな。あいつが次にどう動くか、予測できるか?)


『……カイト様。その指示は推奨しません』


 チャッピーの声が、いつもより一段階冷たく響いた。


『現在のデータ量で対象の正確な行動予測を行うことは不可能です。無理に推論を求めれば、私は**「ハルシネーション」**を引き起こす危険性があります』


(ハルシネーション? なんだそれは?)


『生成AIにおけるハルシネーションとは、情報不足の際に「もっともらしい嘘」や「事実とは異なるでっち上げ」を出力してしまう現象のことです。もし私が「彼は安全です」と誤った予測を出力し、カイト様がそれを盲信すれば……結果は死に直結します』


「うっ……」


 思わず声が漏れそうになり、俺は慌てて口を噤んだ。

 そうだ。こいつは万能の神じゃない。あくまで「データに基づいた出力」をするだけのツールだ。思考停止してAIに丸投げすれば、痛い目を見るのは俺自身だ。


(わかった。判断は俺がする。……でも、もしあいつが裏切って襲ってきたら、今の俺じゃ絶対に勝てないぞ。SPスキルポイントもゼロだし)


『ご安心を。カイト様には、この世界の住人とは違う「魔法」の習得ルートがあります』


(魔法!? 使えるのか!?)


『通常、この世界の住人は「魔導書」による学習や、長年の修行によって魔法域マナ・プールを拡張し、魔法を習得します。カイト様の持つ【スキルツリー】は、あなた固有のシステム外機能であり、非常に特殊なものです』


(じゃあ、SPがない今はどうするんだよ)


裏技バックドアを使います。私がカイト様の脳内の「魔法域」に直接アクセスし、**「魔法プロンプト(命令文)」**を打ち込むのです。カイト様が魔法の構造を明確にイメージできれば、それを現実の事象として「出力コンパイル」することが可能です』


(……プロンプトで魔法を生成するってことか。とんでもないチートだな)


『ただし、条件があります。現在のカイト様の処理能力では、構造が単純な基礎魔法——例えば「ファイア」程度の生成が限界です。温度、酸素濃度、指向性など、明確な変数をイメージしてください』


 なるほど。ただ「燃えろ!」と念じるだけじゃダメで、「手のひらの上に、摂氏500度の炎を、球状に発生させろ」みたいに、具体的に指示プロンプトを出さなきゃいけないわけだ。


 俺は歩きながら、右の掌に意識を集中させた。

 手のひらに熱を集める。空気中の酸素と結びつき、小さな火花がパチッと爆ぜる光景を脳内に描く——。


『プロンプト、受領。魔法域での演算を開始……』


 俺の右手のひらの上に、ぼんやりとだが、確かな「熱」が集まり始めた。チリチリとした感触。あと少しで、小さな火球が生まれ——。


「——おい、ひよっこ」


 唐突に、前を歩いていたバルガスが足を止め、振り返った。

 ビクッとして、俺の脳内のイメージが霧散する。集まりかけていた熱も一瞬で消え去った。


「あ、はい! なんですか!?」


 バルガスは鋭い、まるで獲物を品定めするような鷹の目で、俺をじっと見つめていた。その目は、先ほど肉をくれた気さくな商人のものとは思えなかった。


「お前、さっきからやけに静かだな。それに……時々、目の焦点が合ってねぇぞ。ぶつぶつ独り言を言ってるようにも見えたが、頭の中で誰かと喋ってでもいるのか?」


(しまっ……!)


 心臓が嫌な音を立てた。

 チャッピーと念話(脳内会話)をしている時の「不自然な間」や「視線の泳ぎ」を、こいつは完全に観察していたのだ。おまけに、魔法を生成しようとした微弱な変化にすら気づいたかもしれない。


「い、いや! 疲れてて、ちょっとボーッとしちゃって……。すみません、足引っ張らないように気をつけます!」


 俺が慌ててへらへらと笑うと、バルガスは数秒間じっと俺の顔を見つめ……やがて、フッと口角を上げた。


「……まぁいい。ここは魔物の縄張りだ、気ィ引き締めて歩けよ。俺の背中は、お前が守るんだろ?」


「は、はい……!」


 背中を向けて再び歩き出したバルガスを見ながら、俺は冷や汗を拭った。


『警告。対象バルガスはカイト様の挙動を詳細に観察・プロファイリングしています。彼は明らかに、カイト様の「正体」や「能力」を探ろうとしています』


(……言われなくてもわかってるよ)


 俺は油断なく、その大きな背中を睨みつけた。

 魔物だけじゃない。この世界では、人間すらも命がけのチェスの相手だ。

 生き残るためには、この「魔法プロンプト」を実戦レベルまで引き上げるしかない。俺は歩幅を合わせながら、再び脳内で炎のイメージを組み上げる練習を始めた。

お久しぶりです! 1週間忙しい忙ししながらもこの先の展開どしよかな~的なことを考えながら生存していました!

頭の中に細かい設定が色々刻まれてって作品作りって大変じゃな~と感じる今日この頃でございます。


今からこの先のお話かきかきしていくので調子が良かったら次の次から投稿ペース早くなるかも?

とりあえず次の投稿は来週の日曜日(3月8日)になる予定です。


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