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思考停止のすゝめ

[システム通知:戦闘イベントが発生しました] 推奨アクション:???

投げた石は狼の眉間にコツン、と当たった。 乾いた音が響く。それだけだ。 巨大な狼は、痛がる素振りすら見せず、ただ鬱陶しそうに鼻を鳴らしただけだった。


「……うん、知ってた」


 俺は乾いた笑みを浮かべた。 そりゃそうだ。相手は猛獣、こっちは小石。 マンガじゃあるまいし、これ一発でどうにかなるなんて虫が良すぎる。


 ……と、そこで思考が止まる。 貼り付けたような乾いた笑いが徐々に引きつっていくのがわかった。


「……え、ちょっと待って」


 現状を整理しよう。 石を投げた。効かなかった。つまり、俺の唯一の攻撃手段はこれで尽きたということになるんじゃないか?


「……嘘、だろ?」


 じわり、と。遅れてやってきた恐怖が冷や汗となって背中を伝う。 だめだ。やっぱり石なんて豆鉄砲にもなりやしない。あのポンコツAI、指示を間違えやがったんじゃないか?


 ここからどうにかなる気もしない 。こんなに早く俺は死んじまうのか? 逃げるにしても戦うにしても狼の上を取る方法なんて思いつかないぞ。


 思考がぐるぐると空回りする。 その瞬間、狼の輪郭がブレた。


「ッ!?」


 速い。 反応する間もなく鋭い爪が俺の頬を掠める。 鮮血が舞い、遅れて鋭い痛みが走った。


「ぐあっ……!」


『警告。対象の敏捷性が上昇しています』


 脳内に響く声に、俺は半泣きで叫ぶ。


「見りゃわかるよ! なんでさっきより速くなってるんだあいつは!」


『解析完了。対象個体「リュカオン・アグリオス」。ここの在来種です』


『この魔物は【恐怖嗅覚】を持っています。獲物の「迷い」「焦り」「思考のノイズ」を感知し、相手が萎縮すればするほど、その動きを鋭く補正する特性があります』


「はあ!? じゃあ俺がビビればビビるほど相手は強くなるのかよ!」


『はい。カイト様の現在の思考ノイズは騒音レベルです。このままでは1分以内に捕食されるでしょう』


「じゃあどうするってんだよ! ビビるなって言われても無理だぞ、こんなバケモン前にして!」


 狼が低い唸り声を上げ姿勢を低くする。 さっきとは違う。 次は威嚇じゃない、「狩る」ための跳躍だ。 死の予感が俺の思考をさらに加速させる。どうする、どうする、どうする――。


『推奨される対処法は、音による威嚇。そして何より“考えないこと”です』


 無機質な声が脳内に響く。


「考えないってどうやって!」


『カイト様には無理そうですね。ですので――』


 プツン、と。 脳内の通信が途絶えるような音がした。


『これより、ナビゲーションを一時停止します。後はご自身の野生にお任せします。グッドラック』


「は?」


[システム通知:スキル’’’生成AI’’’がスリープモードに移行しました]


「はああああああ!? おい待てふざけんな! ここにきて見捨てるのかよ!?」


 おい! 返事しろよポンコツ!  そう叫んだところで返事はない。視界の端にあったウィンドウすら消滅した。


 目の前には、牙を剥いた狼。 頭の中には、真っ白な絶望。


「――クソがっ!!」


 思考が焼き切れた。 もうどうにでもなれ。 俺は防御のために縮こまるのではなく、あろうことか狼に向かって一歩踏み出した。


「うおおおおおおお!!!」


 今の俺には殺意も、恐怖も、作戦もない。 ただ、喉が裂けんばかりの咆哮を上げ、拳を振り回す。  人間としての理性をかなぐり捨てた、ただの暴走。


(食えるもんなら食ってみろ、こちとらAIに見捨てられたんだぞ!)


 言葉にならない怒りの波動。 俺のヤケクソな視線と狼の金色の瞳が至近距離で交差する。


 数秒の静寂。


「……グルル……」


 狼は短く鼻を鳴らすと、興味を失ったように視線を外し森の奥へと走り去っていった。 どうやら「焦りの匂い」がしない、訳のわからない動きをする獲物はリスクを冒してまで襲う価値がないと判断されたらしい。


「…………はぁ、はぁ、はぁ……」


 へたり込みそうになる膝をなんとか手で支える。 助かった……のか?


『ピピッ……。戦闘終了を確認。お疲れ様でした』


 脳内に、何食わぬ顔で電子音が戻ってきた。


『見事な“虚無”でしたね、カイト様。思考停止した人間は獣と同義。リュカオンにとって、今のあなたはただの「味のしない肉」に映ったことでしょう』


「お前……っ!」


 俺は泥と血にまみれた拳を握りしめながら虚空に向かって吠えた。


「絶対!!あとでアンインストールしてやるからな!!」

最後までお読みいただきありがとうございます!

戦闘中にスリープモードに入るAI......私、このAIとは異世界行きたくないです。

楽しんでいただけたらブクマ、評価ポチっとしていただけると嬉しいです!

次回、『自動更新:有効』。 AIの独断専行は止まりません。2月8日の更新をお楽しみに!

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