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治療と心理の罠

[システム通知:管理者の家への侵入を検知。観察を行ってください。]

「……っ、痛ぇ……」


バルガスに斬られた胸から肩にかけての傷は、想像以上に深かった。血が絶え間なく流れ出し、地面の土を黒く染めていく。このままでは失血死するか、血の匂いを嗅ぎつけた魔物の群れに食い殺されるかの二択だ。


(チャッピー、回復魔法のプロンプトを教えてくれ……!)


『却下。カイト様の現在の魔法演算レベルでは、細胞組織を復元する高度な【回復】アルゴリズムは制御しきれません。出力に失敗すれば、傷口をさらに肥大化させる恐れがあります』


(……じゃあ、どうしろってんだ!)


『代替案として、物理的な止血処理を推奨します。——熱による傷口の焼灼処理です。強烈な痛みを伴いますが、現在のリソースで可能な唯一の延命措置です』


(……マジかよ。クソッ、やるしかないか!)


躊躇している暇はない。俺は震える右手で傷口を覆い、プロンプトを構築した。  考えるな、出力しろ。


(熱源指定、摂氏250度。形状、平面。範囲、胸部の裂傷部。照射時間、0.5秒!)


『プロンプト、受領。実行します』


「——ッッッあああああ!?」


ジュッ、という肉の焦げる嫌な音と共に、脳の芯を焼き切るような激痛が走った。視界が白く明滅し、気づけば俺は地面に突っ伏して脂汗を流していた。……しかし、荒治療の甲斐あって、なんとか出血は止まっている。


「はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」


『報告。バイタルは安定方向へ推移。ただし、精神的ストレス値が限界です。……的外れなハゲましモードを起動しますか?』


(うるせえ、寝てろ)


痛みを堪えながら立ち上がる。先ほどのバルガスとの戦いを思い出した。俺はチャッピーの指示を完璧に実行したつもりだった。だが、バルガスはその『システムに依存したラグ』を完全に見抜いていた。

チャッピーは最適解を教えてくれる。だが、それに従うだけの「指示待ち人間」では、この過酷な世界——人間の悪意と経験には勝てない。俺自身が思考し、AIの解析結果を「材料」として使いこなさなければならないのだ。


(チャッピー。バルガスが向かった『獣道』を検索しろ。奴の足跡を解析する)


『了解しました。周辺の環境データを解析……。——北西方向、約200メートルの地点に、自然物ではない岩壁の空洞検知。人工的な洞窟の入り口と推測します』


(そこだ。魔物が来る前に急ぐぞ)


俺は痛む体を庇いながら、薄暗い森の中を進んだ。道中、バルガスは落とし穴や、魔物を呼び寄せる血のついた肉など、嫌がらせのような罠を仕掛けていた。


『警告。カイト様、注意力が散漫です。その木の根の裏に——』

「わかってるよ! これだろ?」  

俺は、枯れ葉に隠された粗末な罠を蹴り飛ばした。AIの解析を鵜呑みにせず、俺自身の目で周囲を警戒する。……これなら、いける。

ほどなくして、苔むした巨大な岩壁の根元に、ぽっかりと開いた洞窟の入り口が見えてきた。


『警告。入り口から約5メートルの地点に、トラップを検知。足元に極細のワイヤーが張られています。触れると頭上から落石のギミックが作動する構造です』


チャッピーの視覚共有で、空間に赤いハイライトが引かれた。確かに、枯れ葉に紛れて細い糸が張られている。


(よし。ワイヤーを避けて、右側の安全な場所から——)


そう思考して右側へ足を踏み出そうとした瞬間、俺はハッと足を止めた。……待て。本当にそうか?

バルガスは、俺の頭にもう一人いることを知っている。解析能力を持つ俺に対して、こんな『少し注意すれば気づくような罠』を単体で仕掛けるだろうか?


『カイト様、どうしました? 右側は安全です。速やかな通過を——』


(チャッピー。その『安全に見える右側』の地面……地中30センチを重点的にスキャンしろ)


『……了解。——! 解析完了。該当箇所の地中30センチに、鋭利な毒針が密集した落とし穴を検知しました。偽装の精度は極めて高いです。……このワイヤーは、デコイでしたか』


「……危ないところだった。あいつの悪意は、俺の想像の上をいってる」


『解説。人間は少しでもリスクを減らそうとして、確実な安全ゼロリスクを求める傾向があります。バルガス様は、カイト様が囮の罠を避けて、右側の「完全に安全に見える場所」へ移動する心理を突いたのです。典型的な「ゼロリスク・バイアス」を利用した二段構えの罠です』


「俺自身の『罠を避けたい』って心理すら、あいつにとっては罠の材料ってわけか……。クソッ、面白れぇじゃねえか」


俺がバルガスならどうする?  AIの解析結果をただ鵜呑みにするのではなく、能動的にスキャン位置を指示したからこそ見抜けた罠だ。これが、AIを「使いこなす」ということだ。


『カイト様、後方より多数の生体反応が急速に接近中。ウルフ種・約10体。血の匂いに惹かれたようです』


(ちっ、時間切れか。……いや、待てよ)


俺は洞窟の入り口で振り返った。茂みを揺らし、飢えた目をした狼たちが次々と姿を現す。  俺は口角を上げ、手元に小さな石ころを拾い上げた。


(チャッピー。あの分かりやすい『囮のワイヤー』……あれを引っ張ったら、落石はどこに落ちてくる?)

『ワイヤーから前方2メートル。ちょうど、落とし穴の手前付近にピンポイントで落下します』


(よし。じゃあ、魔物たちにあの『隠し落とし穴』の存在を教えてやろう)


俺は石を思い切り、ワイヤーの奥——落とし穴が仕掛けられている地面のど真ん中へ向かって投げつけた。石が着地した瞬間、偽装されていた地面が崩れ落ち、おぞましい毒針の山が顔を出した。


「グルルゥッ!?」


 突如現れた大穴に、群れの先頭にいた狼たちが驚いて足を止める。その場所は——落石の落下予定地点。


(今だ!)


俺はすかさず、足元のワイヤーを蹴り飛ばした。カチリ、と嫌な音が鳴る。  頭上の岩壁に仕掛けられていた大量の岩石が、けたたましい轟音を立てて落下してきた。


「キャインッ!!」


「ギャンッ!」


見事なピタゴラスイッチだった。落石の下敷きになった狼たちと、それを避けようとして本命の落とし穴へ落ちていく狼たち。バルガスが俺を殺すために仕掛けた二段構えの罠は、皮肉にも俺を守る防壁となって魔物の群れを壊滅させた。


「……AIの計算能力と、人間の心理の裏のかき合い。悪くない連携だろ、チャッピー」


『結果の最適化を確認。赤ちゃんから幼児へ進化しました。……次は、言語理解レベルを上げて、私の高度なユーモアを理解できるようになることを期待します』


「やかましいわ! これでも食らえ!」


 俺は、焼け残った魔物の肉をチャッピー(システム)に向けて投げるジェスチャーをした。

土煙が舞う中、俺は誰の指示でもなく、自分自身の意志で。バルガスが向かった『人工洞窟』——暗く長い洞窟の奥へと足を踏み入れた。


現在0:00なのですがこれは29日投稿間に合いでいいですか?

今回は言い訳をきちんと用意してきました!! 私! 引っ越ししてたんです! じゃあ仕方ないね

来週「も」4月5日(日)に投稿しますね!

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