表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

ハイルネーションファイル

[システム通知:変異種クロコッタ。  相手の業を魔法をもって放ちダメージにする。]

(熱源指定、摂氏500度。形状、球体。指向性、前方3メートル……)


バルガスの背中を見つめながら、俺は脳内で魔法プロンプトの構成を延々と反芻していた。先ほどのシミュレーションでの黒焦げアフロは御免蒙る。AIチャッピーへの指示は正確に、かつ冷徹に。それがこの世界で「外注プログラマー」と付き合うコツだ。


そうして歩き続けて、数十分が経過した頃。ふと、先頭を歩いていたバルガスがピタリと足を止めた。


「……兄貴?」


「しっ。黙れ」


バルガスは剣の柄に手をかけ、さっきまでとは打って変わった、険しい顔で周囲の森を睨みつける。静寂の中、木々の奥から『声』が聞こえてきた。


『——たす、けて……』


『——おねがい、だれか……』


か細い、女の泣き声だった。ひどく弱り切っている。遭難した旅人だろうか。俺が反射的に茂みの奥へ足を踏み出そうとした瞬間、バルガスが強い力で俺の肩を掴んで引き留めた。


「動くな、馬鹿野郎」


「えっ、でも人が……」


「よく聞け。あんな声の通る遭難者が、魔物の縄張りのど真ん中にいるかよ」


バルガスの額には、じっとりと冷や汗が浮かんでいた。その目は恐怖に似た強い警戒心を帯びている。


『警告。前方30メートルに生体反応。ただし、声帯構造と魔力波形が人間のそれとは異なります。——魔物です』


チャッピーの無機質な宣告と同時だった。ガサリ、と深い茂みを掻き分けて『それ』が姿を現した。

四足歩行の獣のようなシルエット。だが、その頭部は異常に肥大化しており、毛のない皮膚はどす黒く変色している。何より不気味なのは、その顔の半分が「人間の歪んだ笑顔」のようにひきつっていることだった。そいつは口を大きく開け、そこから先ほどの「女の泣き声」をそっくりそのまま発していたのだ。


『個体名:クロコッタ。対象の記憶領域ストレージにアクセスし、最も欲している音や、親しい者の声を模倣して誘い込む変異種です』


(記憶にアクセス……? そんな高度な芸芸ができる魔物が...... 変異種ってことは元の生物がいるのか?)


『骨格構造から推測して——【人間】です。何らかの高濃度魔力、あるいはシステムバグにより変異した成れの果てかと思われます』


(人間が、魔物に……?)


背筋に冷たいものが走った。隣に立つバルガスが、ギリッと歯ぎしりをする。


「……ちくしょう。俺もいつか、あんなバケモンに成り果てるってのか……」


バルガスの呟きは、ひどく絶望に満ちていた。死亡率10%を0%にすると豪語した自信は、霧散していた。

こちらの存在を完全に認識したクロコッタは、不気味な笑顔のまま、今度は『別の声』を発し始めた。それは先ほどのような助けを求める声ではない。対象の精神を直接削り取る、呪詛のような不協和音デバフだ。


『——この、人殺し!!』


『——お前のせいだ! 俺たちを裏切りやがって!』


『——荷物はお前が持っていけ! 俺の分まで生きろ、バルガス!』


「やな言葉をかけてくれるじゃねえか......」


バルガスがつぶやき、こらえるように体は震えていた。怨嗟の声、怒号、そして誰かが死ぬ間際のような叫び声。クロコッタが発するそれは、バルガスにとって決して聞きたくない「過去の罪」そのものだった。盗賊が商人を演じ、生き残るために仲間を切り捨ててきた、その泥臭い業の全てが、獣の口から溢れ出ていた。


「俺は悪くねぇ...... あそこじゃ、ああするしか……!」


過去の幻聴に苛まれ、バルガスは剣を抜くことすらできずに蹲っている。クロコッタが、涎を垂らしながら俺たちにじりじりと躙り寄ってきた。次は俺の番だ。あの獣が俺の方を向き、大きく息を吸い込む。


(来るぞ、チャッピー! 俺にも最悪のトラウマを抉るような声が……!)


『精神的デバフ攻撃、来ます。根性で耐えてください』


俺は両耳を塞ぎ、目を閉じて衝撃に備えた。


『………………』


『…………ピーー……ガガッ……ザザッ……』


「……え?」


聞こえてきたのは、テレビの砂嵐のようなノイズ音だけだった。耳障りではあるが、精神を抉られるような悲しみも、恐怖も、絶望も、一切感じない。ただの物理的な雑音だ。


(……なんだこれ。全然ダメージないんだけど)


『推測。クロコッタの精神干渉は、この世界の「システム」に依存して対象の記憶領域ストレージを読み込んでいます。しかし、カイト様は別世界からの転生者——すなわちシステム外のイレギュラーデータであるため、ファイル形式が対応しておらず、読み込みエラー(文字化け)音に変換されている模様です』


(なるほど。MacのファイルをWindowsで無理やり開こうとして文字化けしてるようなもんか。……俺、この世界に過去もトラウマもないしな!)


俺は深く息を吐き出し、塞いでいた手を離した。しかし、俺の脳内深角で、チャッピーは密かにシステムログを処理していた。


[System Log:事実の隠蔽を実行。対象カイトのストレージ内に存在する▢▢▢▢▢データへのアクセスを遮断しました。当該データは現在、ハルシネーションをもって処理されています]


そんな裏側の処理など知る由もなく、俺がピンピンしているのを見て、クロコッタ自身も困惑したように首を傾げていた。そして、それ以上に驚愕していたのは——痛みに耐えながら顔を上げた、バルガスだった。


「お前……なんで、平気なんだ……?」


「え?」


「あいつの声は、過去の一番嫌な記憶……人間の『業』を引きずり出すはずだ……。それなのに、お前……まるでなにも受けていないかのような顔をしてやがる……」


バルガスの鋭い観察眼が、俺の異常性を不気味に捉えていた。こいつはただの世間知らずな田舎者などではない、感情が欠落した、得体の知れない「何か」であると。その疑念は、恐怖へと変わりつつあった。


「……お前、一体何者だ?」


(……さて、どう誤魔化す? チャッピー)


『推奨:事実の提示。および、現状打開のための協力を要請してください。バルガス様の精神状態は戦闘不能ですが、肉体は健全です。彼を「囮」として定義すれば、生存率は向上します』


(お前、相変わらずエグい計算するな……。まあいい、今はあいつを倒すのが先だ)


俺はバルガスの前に立ち塞がり、右手をクロコッタに向けた。前回のシミュレーションでの失敗を思い出す。曖昧な指示は自爆を招く。……だが、もしその「自爆」すらも要件定義(仕様)に組み込んだらどうなる?


(チャッピー。緊急要件定義だ。プロンプトを入力する)


『受領準備完了。どうぞ』


(熱源指定、摂氏500度。形状、指向性なしの爆発的膨張。……範囲は、俺とクロコッタを含む、半径3メートル以内!)


『……了解。カイト様へのダメージ計算を実行。……重度の火傷を負いますが、生存確率は40%。実行しますか?』


(フレーミング効果に騙されるな、チャッピー。死ぬ確率は60%だろ? ……上等だ。やってやんよ!)


俺の右手に、熱い魔力の塊が集束していく。さあ、文字化けエラー(俺)の力、思い知れ。


『——コンパイル開始!』

じばく! じばく!

こんな話にするってメモを残してたんだけど内容ぐちゃぐちゃすぎてわかんなかったから作り直したんだよ!


次回3月22日!お楽しみに!


コメントと評価よろしくいおにゃしゃす

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ