悪役令嬢に転生しましたがあなた方に興味はないのでお好きにどうぞ!
「たしかにわたくし、悪役令嬢に転生しましたがあなた方に興味はないのでお好きにどうぞ!」
その婚約者の言葉に、頭をガツンと殴られた気分になった。
僕の婚約者は、完璧な女性だ。
素晴らしい理解力、集中力、柔軟性、知識も幼い頃から何故か豊富で、なんなら我が国の科学力を底上げし「英雄」の称号を授けられる程。
そんな婚約者が僕は誇らしかった。
彼女に釣り合う男になるため努力して、我ながら「完璧な王太子」と呼ばれるまでになった。
そんな僕が。
愛する婚約者に。
興味はないと、言われてしまった…。
「…ま、待ってアンジェリカ!僕は本当にこんな女に毛ほども興味ないんだ!」
「それはそれは…お可哀想に」
「え?え!?待ってルイス様!私のこと可愛いって言ったじゃない!」
「『頭が空っぽそうで扱いやすい、教会にとって可愛い可愛い聖女様だね』ってどう考えたって嫌味にしか聞こえない言葉できっぱり言ったのに嫌味が通じないお前の頭がおかしいよ!」
「え?それ嫌味なの?酷い!」
ごふっとアンジェリカが噴き出す。
「ふ、ふふ…ルイス様…その子に嫌味は難しいですわ」
「そ…そうみたいだね。それよりアンジェリカ、誤解は解けた?」
「誤解?」
「僕はこの子を毛ほども好きじゃないよ!」
「ああ…まあそれはそのあんまりのその態度で分かりますわ」
よし!
それなら婚約破棄とか言われないよな!
「じゃあ、婚約は続けてくれる?」
「何言ってるの、当たり前でしょう。例え貴方がその子を選んでも婚約破棄なんかしてやりませんわ」
「え」
「貴方の正妃となるのはわたくし。その子を寵妃として迎えてもわたくしの立場はまず揺るがない。だってその子、ただの男爵家の庶子ですもの。聖女だからって正妃にはなれませんでしょう?だからお好きにどうぞと言ったのですよ」
「え、嫉妬してくれたんじゃないの?」
彼女はまたもごふっと吹き出した。
「ふ、ふふふふふ!言ったでしょう?興味ありませんもの」
「うぐぅっ!!!」
僕はあまりの衝撃に胸を抑えて蹲る。
もしかしてあのセリフは愛情の裏返しの可能性も…と思っていたがこれはなさそうだ。
「…アンジェリカ、今回は誤解を与えてごめんね。でも彼女とはなにもないから」
「それはもうわかりましたわ」
「そして僕は君が好きだ」
「…は?」
「君を愛してる」
頬にキスをする。
ぽかんとした顔も、その直後真っ赤になる顔も可愛い。
「好きだよ、アンジェリカ。愛してる。どうか君も、せめて僕に興味くらいは持って欲しい」
「…今、興味が湧きましたわ」
やっと恋が実りそうだ。
「なによー!見せつけないでよこの悪役令嬢!転生者だからってチートで原作改変するなんて酷い!」
「あ、君はもうお呼びじゃないからさっさと消えて。アンジェリカ、もっとお互い話をしよう」
「え、ええ…いいの?彼女は放っておいて」
「いいよいいよ」
「酷ーい!」
野次馬と化した彼女をしっしっと追い出して、彼女とお話をすることにした。
「アンジェリカ!デートに行こう!」
「いいですけれど…」
「さあ行こう!」
あれ以降僕はアンジェリカを頻繁にデートに誘い、贈り物もこまめにするようになった。
婚約者という立場に胡座をかいていたと思い知ったからだ。
「アンジェリカ、今日はメイクを変えたんだね」
「え、ええ。変えましたわ」
「いつも可愛いけど、こっちのメイクもとっても可愛いよ」
「…!!!」
真っ赤な顔で口をぱくぱくするのも可愛い。
「ふふ、アンジェリカ。本当に愛してる」
「ルイス様…変わり過ぎですわ」
「だって、君が好きなんだ」
あの時。
初対面の日に僕を一目見て、『ルイス様ー!?』と叫んで倒れた君。
その日以降僕に何故か冷めた目を向けてくるようになった君を、僕は何故か好きになった。
『ルイス様ー!?』と叫んで僕を一瞬でも見つめた君の瞳が、ひどく輝いていて。
あの瞳をまた見たくて。
「君とあの男爵令嬢の言っていた『テンセイシャ』とか『ゲンサクカイヘン』とかはわからないけれど。僕は君を愛してる。それは真実だ」
「あの…ルイス様、そのことなんですけれど………ちゃんとお話しておこうと思いますの」
「うん、聞くよ。なに?」
彼女曰く。
ここは彼女の『前世の世界』での遊戯『乙女ゲーム』というものに酷似した世界らしい。
そして彼女はあの男爵令嬢をいじめる『悪役令嬢』で、僕は『メイン攻略対象』らしい。
で、彼女は僕と出会った日にその記憶を取り戻して…僕が『推し』だったから目を輝かせたのだと。
でも自分は悪役令嬢だから『自分を好きになってはくれない』と、次の日から線を引いて接してきたと。
「今でも君の推しは僕?」
「ええ、そうですわね。興味がないと自分に言い聞かせても、それでも結局は貴方を目で追っていた」
「ならよかった。僕の『推し』も君だよ。相思相愛だね!」
「そ、そうですわね…なら、もう我慢することないのよね…」
アンジェリカが僕の胸に飛び込んでくる。
「好きよ、ルイス様!前世からずっと貴方が好きだった!愛してるわ!」
「僕も君が好きだ!愛してる」
こうして僕たちは晴れて婚約者兼恋人となった。
「随分盛大な結婚式ね」
「そりゃあもう。なんなら私財すら投じたからね」
「すごい執念…」
「君の晴れ舞台だもの!しかもその隣に僕が立てるなんて!」
「…もう。そんなところも好きよ」
頬にキスをされる。
これが結婚式の控え室でなければ押し倒していた。
「どうして君はこう…僕をときめかせるんだ」
「あら、それはわたくしのセリフよ」
「好きだ!」
「わたくしも好きよ、愛してるわ」
「この世で一番愛してる!」
そして結婚式を盛大に行って、僕とアンジェリカは夫婦になった。
結婚式は三日三晩行った。
晴れの日だから盛大に式をあげたのだ。
そして今日。
結婚式が終わり、ようやく初夜を迎える。
「アンジェリカ…愛してる」
「わたくしも愛してるわ」
もはや口癖のようになった言葉。
でもそれに乗せる気持ちの重さは変わらない。
アンジェリカも、きっとそうなのだろう。
「子供の名前はアンリにしようね」
「気が早いわ」
「だって楽しみで」
「なら二人目の子はルイね」
「そうだね」
そして彼女を優しく横たえる。
その身体をぎゅっと抱きしめた。
「ああ、夢みたいだ…こんなに幸せなことはない」
「わたくしも幸せだわ」
微笑みあって、キスをする。
ああ…幸せだ。
これ以上ないくらい。
ちゃんと反省して、愛情表現をするようになって本当に良かった。
その意味ではあの男爵令嬢にも感謝だな。
今頃どうしているかは知らないけれど。