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「ふーっふーっ」
「アリシアさん、顔色が悪いようですが何かありましたか?」
「あ、大丈夫。日ごろから武器用のエンハンスを馴染ませてみようかなって。必要になった時に使える手札は多い方がいいからさ」
「武器の強化を身体強化に転用ですか。それなら普通の身体強化でもいいのでは?」
定位置と相成ったカウンターで悶えていたアリシアさん、脂汗をかいている。
わざわざ武器の強化を無理して使うこともあるまい。
「いや、普通の身体強化魔法も使えるけど、それとは別にね。フリーズは前使って地獄を見たけど効果はあったし、他のエンハンスも何かしら使えるかなって」
「それだけの強さがあってなお向上心があるのはいいことですが、あまり無理はしないように。前っていうと竜王の時でしたっけ」
「そう。生き延びるための苦肉の策として、ぶっつけ本番でやったんだよね。ポーションも相まってその後しばらく尾を引いてたから、使うなら慣らしておくべきってね」
「回復こそしましたが、かなりグロッキー状態でしたね……」
あの時の負傷も込みでダルそうにしていたのは、珍しさもあって印象に残っている。
「上には上がいる、竜王とかロイドさんとか。魔族は問題ないにしても魔王と幹部は別だろうし。伸びしろはだんだんなくなってきてると思うから、使えるものは使っていかないと」
「それだけあっても十分ではない、この世界の恐ろしさの片鱗を目にしている気分です」
「王都で勤めてた時も似たような対応とかなかったの?」
「ドラゴンだー親玉だー、などと常日頃からやっていたわけではないので……」
煩雑さは向こうの方が上だったが、大物が常日頃からあるような惨状ではなかったのだ。
無防備なものへの恐ろしさを改めて認識させられた一幕だった。




