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「キリハさん、あの人やばかったよ」
「どうやばかったんですか?」
「普通に私より数段上だった……」
「アリシアさんがそこまで認めるのなら、本物ですね」
ロイドさんにアリシアさんをつけて数日後、ギルドでアリシアさんから事後報告を受けていた。
「あんな重そうな鎧纏って、すんごい速く動くの。刀でばばばーって敵を肉塊に変えてた。もちろん私でも苦労はしないけど、出る幕はなかったよ」
「連携はとれそうですか?」
「いや、私が足手まといになるだろうから無理。無双の存在ってやつだった」
「王都がそのレベルを寄越したのなら、魔王軍が攻めてきた際に我々では手に負えなさそうですね。対処は彼に任せるほかありません」
読みが合ってるとは思いたくないが、王都には本命は残した上で必要だからと寄越した彼が、アリシアさんですら届かない。ならばできることはないのかもしれない。
ドラゴン級とは言わずとも、数が多く手こずるどころでは済まないだろうか。
「それと癖強いという第一印象は変わりましたか?」
「うん、あの人あれでめちゃくちゃ紳士だった」
「紳士ですか」
「メイズで私が一番強いって紹介だったのに、旅慣れてない人を気遣うように声をかけたり、手を貸してきたり、休憩とろうってなったり、正直いらない配慮だらけだった。ぶっきらぼうながらも優しい人だったよ。強くて優しくてかっこいい、非の打ちどころがない完璧超人」
「人格面も問題なしと。であれば依頼は彼にも割り振りましょう。本来の目的ではありませんが、魔族関連なら快く引き受けてくれるでしょう」
そうしてアリシアさんの待遇は、さらに良くなったのだった。
この騒動が終わったら、彼も回収されてしまうであろう一点は惜しい限りである。




