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「ということで、彼は本日付で王都からメイズに派遣されてきた冒険者です。挨拶を」
「ロイドだ。よろしく」
「で、こちらがメイズで一番の冒険者です。挨拶を」
「アリシアです。よろしく」
ガチャガチャと音を鳴らす、表情すらうかがい知れぬ重厚な鎧の人物と、アリシアさんが無事握手を交わす。
そのままアリシアさんが、首だけをこちらに向けてきた。
「キリハさん、なにがあったかもう一回聞いてもいい?」
「はい。要約すると魔王軍への備えですね。今回は直接王都が狙われましたが、次は辺境の地域から侵略が始まらないとも限りません。派遣しても問題ない範囲で、可能な限り強い戦力を各地のギルドに送っており、メイズには彼が来てくださったということです」
「なるほど。でもなんで私に紹介してるの? 他のみんなでよくない?」
確かにギルド中から他の冒険者の視線を感じる。やはり気になるか。
「王都の動きからして彼は生半可な人材ではないでしょう。本人の前で言うことではありませんが、アリシアさんの主観で構いません。彼がどの程度の戦力なのかを、一緒に依頼を受けて見てきてください」
この発言を聞いたロイドさんの頭部もこちらを向く。
「ギルド員、俺の強さを疑うか」
「疑ってはいません。ただ具体的にそれがどれほどなのか、というのは把握しておく必要があります。今回ロイドさんがこちらに派遣されたのは、対魔王軍への対抗及び足止めのためです。一応、こちらのアリシアさんもかなり強い冒険者ではあるので、ロイドさんの戦い方を確認したうえで補助できるよう連携を組めるか、いざ急襲された際にどのように動くのか、といったところを知っておきたいのです」
「なるほど、力を示して納得させればいいのだな」
「ええまあそんなところです。依頼はこちらの魔族でお願いします」
ある中で難しそうな依頼書を数枚手渡す。それを少し眺めてから彼は踵を返してギルドの出口へと向かう、説明は特に必要ないか。
そんな彼と入れ替わるようにアリシアさんが寄ってきた。
「キリハさん、あの人なんか癖強くない?」
「実力は本物なんでしょうね。なので、今回彼がピンチに陥らない限り手は出さなくていいです、それと戻った後で正直な感想をお願いします。アリシアさんと並ぶほどなら今後の関わりも増えるでしょうし、人となりも探れるいい機会ですよ」
「わかった。いってくるね~」
一足遅れてギルドを出ていくアリシアさん。ロイドさんの強さ次第でどの程度までなら分散できるのか、なら王都に置いておきたい戦力はどれほどなのかも少しはわかるかもしれない。どれほどの相手と戦っているのかも含め。




