87
「アリシアさん、朗報ですよ。早すぎる気はしますが魔王軍が退却を始めたようです」
「あれっ? 敗色濃厚みたいな話じゃなかったっけ」
「だったと思うんですけどね、今朝の新聞に大々的に退けたと載っています」
「ほえー。相手の詳細まではわからないとはいえ、結構やるもんだね。件の勇者たち」
アリシアさんとギルドのカウンターで新聞を囲む。
あれだけの大軍勢で攻め込んできたのだ。
押し込むのに時間がかかったとしても、退くことはないと思っていたのだが。
「……そうだね、考えられる状況としては、魔王軍が損害を嫌ったってとこかもね」
「損害が出たとしても、最終的に圧し潰してしまえば終わりでもあると思いますけど」
「その上で勇者が想定より強かった、下手すれば逆に幹部をはじめとした主要戦力を持ってかれることを恐れてっていうのかな」
「実際にぶつかって確実に勝てないどころか、負けるかもしれないと判断したということですか」
「その先に何を視たかまではわからないけど、王都が滅ばなかったのはよかったってことで」
力を抜いてべたっとカウンターに突っ伏すアリシアさん。
魔王側も人間側も少なくない消耗があっただろうが、一旦はこちらの勝利といったとこだろうか。
ギルド内はどこもこの話題で持ち切りのためか、安堵の雰囲気が漂っている。
「しかし困ったもんだよ、対岸の火事がこっちまで延焼してきて全てを灰塵と化していきそうじゃない?」
「まあ結局対岸の火事ですから、こちらに来るまで私たちには手の打ちようがありません。万が一メイズ周辺が無事だったとしても、王都が陥落したなら今まで通りの生活は望めませんね。世界は確実に悪い方向に進んでいくことでしょう」
「精々がお祈りと寄付くらいかなあ」
「頑張って人類存亡のため命を賭けている彼らに賞賛と心ばかりの支援を。少しは士気も上がるかもしれませんね」
やはりどこまでいっても直接我々にできることはない、いつも通りに過ごすことだけだった。




