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「元気そうだな、また情報を持ってきたぞ」
「ドミノさん、どうもお久しぶりです」
「前来た時よりも活気づいているな」
「ストレイのダンジョンのせいでしょうね。ここを経由する人がさらに増えていますから」
アリシアさんを見送って昼頃、情報屋がやってきた。
ドラゴンが終わって以来だろうか。
「しかし、なぜもう一度ここに? メイズ最大の脅威である竜王は去りました。もうここへ情報を届ける必要はなさそうなものですが」
「念には念を入れてってやつだ。大悪魔を動かせるとなれば、あんたも隠し玉として勘定に入ってくるからな。無理強いするつもりもないし判断は任せるが、いざって時に状況を把握できてた方がいいだろう」
「……戦力の一角ですか」
「ま、話半分で聞いておいてくれるだけでもいい。正式発表はされていないが、魔王の宣戦布告に対して城でも精鋭の勇者を差し向けるべく動いていたようだ。戦争が始まるぞ」
ドミノの話はこうだ。宣戦布告からしばらく、城の動きはなかったように見えたが、実は裏で対抗するべく密かに戦力を整えていたらしい。勇者選定云々のなんちゃって勇者ではなく、今回舞台に上がるのは、一騎当千の実力者なのだとか。
ドミノは話しながらカウンターに地図を広げて指をさす。
「魔王が宣戦布告して以降、支配領域を徐々に広げてきている。冒険者の抵抗虚しく、王都に向けて進軍中というところだ」
「メイズだと位置的に真反対なせいで、攻められている実感が湧きませんね」
「かなり距離があるからな。進行している推定現在地から察するに、サウザン平野、ルード山脈、ザーグ森林、スタラ平野と超えてくるのに、今のままなら王都到着までひと月もかからないだろう」
「今のままなら、ですか」
「戦力を整えてスタラ平野で抑えることになるだろうな。王都前決戦ってのはまずいが、進行ルート的にこちらから山脈を超えて消耗しに行くのも悪手だ」
退くことは叶わない、もし押し込まれたらこの先人類はどうなるのだろうか。
「今回戦力として用意されてる勇者の名前とかわかりますか?」
「確か強いのは……剣豪スターライト、爆雷マキシム、黒穴メノウ、千塔トールの4人、他はそんなでもない勇者や兵士多数って感じか」
「強いのは4人ですか。相手の規模が気になりますね」
「だな。4人で足りるのかは俺も懸念してるところだ」
突出した個人は有象無象の群れに勝るが、相手は魔王軍単位で押し寄せている。その数は途方もない上、中に幹部級が何人いるかもわからない。個人的には少ないように思える。
「情報ありがとうございます、こっちでも新聞は追うようにしておきますね。それと何かあれば、いつでもメイズまで来てください。少なくとも軍が押し寄せるまでは平和でしょうから」
「ありがたくそうさせてもらうよ。それじゃあ他の情報も探ってくるとしようか」
ということらしい。
しかしどうにも他人事なのは、やはりメイズが襲われていないせいだろう。




