表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/92

8

 

「さてと、もうそろそろかな」


 ちらりと時計を確認する。本来休みの日だが、給料と引き換えのデート日である。プラチナさんと懇意にすること、それ自体はメリットであるため、踏み込まれすぎずコントロールするのが重要である。と、少し駆け足で彼も来た、はてさて。


「おまたせー、待った?」


「いえ、今来たところです」


 実際には10分前には来てましたけどね、お決まりというやつで。

 そしてアリシアさんについては、スカート時を除いて普段は中性的な装備だが、普段は結んでいる髪を下ろし、ゆったりした半袖のトップスに長めのフレアスカートと、メスに振り切っているのが確認できる。


「綺麗ですね、似合っていますよ」


「そ、そう? えへへ、嬉しいなぁ」


 それでいて普通に顔も可愛いとなれば、うーん。これただ可愛い人とデート出来て、報酬もあるだけのご褒美なのではと錯覚すらする。

 その気は無い、地雷呼ばわりというところで、どうしても負の印象が強かったせいか。


「お誘いしたのはこちらですし、報酬で釣るような真似をした負い目もありますから、デートプランもしっかり練ってきましたよ」


「ほんと? 今までこういうこと無かったから楽しみ」


「おや、見かけによらず初デートでしたか」


「またまた上手いこと言っちゃってー、私なんて全然ですよ。このこのー」


 又聞きではあるものの、男性職員を追い込んできた手際から察するに、かなりのやり手と見ていたものの、意外とそうではないらしい。

 となれば、いくらでもやりようはある。まずはさりげなく、手を握るところから。


「何はともあれ、行きましょうか」


「えっ、手も繋ぐの!?」


「デートですから」


「いや、いいんだけどね? ま、待って、手汗が、心の準備が……」


「手汗なんて誰でもかきますから。それに私は気にしませんよ」


 相手が慣れていないのであれば、ちょっと強引目にエスコートしてあげないと、膠着してしまいそうでもある。ので、手を引いて歩き出す。この際にリード感は出しつつも、相手に合わせて早すぎないようにすることもポイントになる。プラチナ相手に早すぎるもないとか、そんな野暮なことは言わないお約束。

 そんなこんなで、アクセサリーショップに到着する。


「ありきたりかなとも思いましたが、今日一日は特別です。既に十分魅力的ではありますが、個人的なプレゼントに好きなものをおひとつ買ってあげます」


「えっ……いいの? 私の方がすごい稼いでるのに」


「この場でそんなこと言わないでください。申し訳ないですがあなたの金銭基準のショップではなく、私の金銭的に問題のないショップを選んでいますから、大丈夫です」


「じ、じゃあお言葉に甘えて」


 彼が選んだのは、スカイブルーの石がはめ込まれた指環だった。なるほど、確かに似合っている。

 しかしあくまで個人的にだが、何か足りないように思えた。ので、同じくスカイブルーの髪留めもプレゼントしてみる。今のものと置き換えてみれば。


「さらに可愛くなりましたね、まるで妖精のようです」


「うぅ……//」


 纏う雰囲気が清楚から可憐になっていくようで、顔を真っ赤にしてしゅんとする姿も中々である。しかしこうも変わるとは、地雷から考えを改める必要がありそうだ。


 デートに不慣れであり、環境的に褒められ慣れてないとなれば、随所で褒めることで、基本的には問題ないだろう。

 え、デートを舐めてるって? 仕方無いでしょう、今までそんな機会もなかったせいで、こっちも初デートなもので。


「お、クレープの屋台が出ていますね。行きましょうか、これもまたひとつの醍醐味です」


「醍醐味って?」


 疑問を抱く彼を引き連れ、屋台まで来れば定番の返しであった。


「あら、いらっしゃい。可愛い彼女さんとデート中?」


「かっ、かの……」


「ええ、まあそんなとこです。チョコバナナとストロベリーチョコ1つずつください」


「がんばんなさいよ、サービスしてあげるわ」


 こういう屋台では、大抵カップルいじりが発生するのがお約束であり、おまけされるとこまでワンセットである。目を回す彼とクレープを受け取り、次の目的地へ向かう。


「えと、あの……」


「いちごみたいに真っ赤で可愛いですよ」


「……//」


「クリームついてますよ、とってあげます」


「……//////」


 彼女呼びが効いたのだろうか、真っ赤になってチラチラとこちらを見てはクレープをもそもそしている。なんかもう、普通に悪くないと思えてしまうのも不思議である。むさい男だったらこうはならないだろう。

 口角のクリームをとってあげれば、今にも爆発せんほどに挙動不審になっていた。そんなこんなでつつきながら、次の目的地に到着する。青空の下の広大な草原である。


「さて、ここは何も無い草原。強いてあるとすれば木くらいのものですが、だからこそお互いの存在が際立つと思いませんか? 例えばひとつひとつの仕草とかも」


 そうして普通に繋いでいた手を、恋人がするように指を絡めてみれば、真っ赤な顔をこれでもかと赤くし、正気を疑うような目でこちらを見てきた。

 失敬な、私はいつだって正気であるぞ。と目で訴えるように、ぎゅっぎゅっと握ってあげれば、ついに俯いてしまった。うーん可愛い。

 そうして上がった熱を覚ますように、並んで木陰に腰を下ろす。


「ねえ、なんでここまでしてくれるの? おにーさんにそこまでの義理はないでしょうに」


「いや、ありますとも。個人的にというよりかは、いちギルド職員としてにはなりますが、ある程度の間やってきてわかりました。メイズ支部は、アリシアさんによって成り立っています。貴方が抜けるようなことがあれば、あそこは瞬く間に瓦解するでしょう」


「えー? 急に何言ってるの、大袈裟だなあ」


「それが大袈裟でもないんですよ、私の元に回されるイレギュラーな依頼は、基本的にアリシアさんにしかこなせないものがほとんどです。しかし内容をよく見れば、どれも負担のかかるものばかり。よくこんな体制を維持できているなと、驚いたものです」


 もちろん、わかった時点でヘレーナさんに打診はしてみたが、やはり上の方向としては現状維持のつもりのようで。


「だからこそ、そんな負い目を感じていたからこそ、普通は追放されていてもおかしくないような、あなたの行動をギルドは容認していたのでしょう」


「……」


「恐らく、追い詰めてしまったギルド側に原因があります。私どもはあなたに返していかなければいけないのです、あなたから削ってしまったものをね」


 左遷されたメイズ支部が平和なのは、八割方彼によるものである。であれば、上がどうあれ、何とかしてあげたいとも思うもので。

 追加で、そっと耳元で囁いてみたりもする。


「つまるところ、あなたに幸せになってほしいんですよ」


「!?!?」


 耳元で囁いた途端、目を回しながら頭から煙を噴いて停止してしまった。彼が起きるまでまで待つとしよう。


 そうして待っていれば夕方になってしまったが、たまにはこうして大自然の中ゆっくりするのも、風を受けてうつらうつらするのも快適だった。

 悪戯心が湧いてきたので、つい膝枕をしてみれば普通に悪くない。やっぱりあれだ。相手をどう見るかは性別ではなく、それがかわいいかかわいくないか、というところだ。


「ん……。あれ、寝てて……」


「おや、目覚めましたか。寝顔も素敵でしたよ」


「っ//////」


 膝枕されていることに気づいた彼は、大層慌てて起き上がり、服の乱れなどを気にしていたが、すぐにあははと笑っていた。ふむ、これは。


「さて、他にもお連れしたいところはあったのですが、途中でダウンしてしまいましたから、今回はここまでです」


「えっ、今回って。もしかして次があるとか……?」


「あなた次第です、あと私の気分もですけどね。さあ、帰りましょう」


 そうして並んで帰路に着く。他愛もないことを喋りながら進むその途中、突然アリシアさんがビクッとする。視線の先を追えば、複数の男性の集まり。予想が当たればまだ何かありそうだ。


「どうかしましたか」


「い、いえ、なんでもない……ですよ?」


「わかりました、この機会に過去の清算もしてしまいましょうか」


「なんでもないですから!」


「私の予想が正しければ、あれらはあなたの被害者の集いですね? 幸いこちらには気づいていないようですが」


 彼に幸せかつ、後腐れなく過ごしてもらうためにも、彼らの許しを得る必要はあるだろう。


「大丈夫、私もついてます。あなたはプラチナですから、最悪札束ではたけば解決です。今までの行いを振り返ってみて、お金に頼らずに終えれそうですか?」


「だ、ダメそうです……」


「ではお金を準備してきてください、私はここで彼らを見張っています」


「お願いします……」


 お金を用意するのに、一旦どこかへと消えるアリシアさん。そのままトンズラということもなく、無事に戻ってきた。その間被害者の会も動くことはなく、好都合である。


「示談金はあなたの裁量で決めてください、私は当事者ではありませんから。そう不安がることはありません、怯えていると付け込まれますよ」


「は、はい……」


 分けてお金を包んでから、争いを軟着陸させるべくいざ出陣。


「あ、あのー」


「げっ、お前は」


「うわあ、出た!!」


「噂をすれば影とはよく言ったもんだ……」


「お、俺じゃねぇ! こいつが言ってたんだよ!」


 などなど、完全に化け物のような扱いではあるが、してきた事を考えれば仕方なし。これだと話どころではない、少し出るべきか。


「被害者の会の皆さん落ち着いてください、今回は彼も反省しているということで、謝罪に来ただけです」


「……新たな被害者?」


「いいや、俺らに代わる生贄だ。丁重にもてなせ!」


「こちらお飲み物です」


「あ、どうも」


 ってそうではない! 仕方ない、アリシアさんに異常に怯えてて話にならないので、こちらで済ませることにしよう。でないともう無理だこれ。


「先程も言った通り一応謝罪には来ましたが、彼を見たくもないレベルみたいてすから、私から代わりに謝罪とこちら示談金です。あなた方を深く傷つけてしまい、申し訳ございませんでした」


 深く頭を下げてから、怯えている彼らにお金を配っていく。


「も、もう用は済んだか? 済んだなら行ってくれ……」


「わかりました、私らはこれで失礼します。あなた方の今後に幸あらんことを」


 あれ以上はお互い何も良いことはない、許されたなら退散するに限る。そして気になったことを聞いてみる。


「ひどい怯えようでしたが、あなた何をしたんですか……」


 (フイッ……)


 顔を背けるのみで、これには返答がなかった。何があったかは、当人のみぞ知るといったとこか。拒むのならわざわざ深堀りすることもあるまい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ