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「さて、どれから手をつけようか」
ギルド長(代理)として留守を任されたため、奥に引っ込んで久しく見ていない資料と格闘をする。
収支報告に在庫管理表、討伐記録帳etc.
こういうときは心を無にして腕を振るうに限る。
参考までに過去ヘレーナさんのこなしている分を確認してみれば、超几帳面がにじみ出るような丁寧なソレになっていた。仕事人だなあ。
送る用の整理した資料をひたすらに書きつつ、他の支部からの連絡にも対応する。前も少しはやっていたため勝手は把握しているが、リストに書かれている『基本全部断ること』『ギルド備え付けの機具は電話と送受信機以外機能していない』の赤文字が目を引く。
田舎ギルドではさすがに整備にすら対応できるほどのリソースはないと。
個人的にはそれよりこんな田舎でも、連絡網だけでも機能していたことの方が驚きである。
資料に目を滑らせつつ数字を書き加えていれば、当然のように電話が鳴りだす。ちゃんと動いてる事実に感動すらしているかもしれないが、仕事は仕事。感傷に浸ってないで受話器をとる。
「はい、メイズ支部です」
『あー? いーもーーーーい女性は?』
「訳あって不在のため代理が担当しております」
『ーーと、スーーイのーージョン周辺でーラーバイーー潜んーーー所とか』
「A8とC4とD2が候補ですが、機具が死んでいるため完全に予測になります」
最低限伝えて受話器を置く。
なるほど全部断ることなのが理解できた。電話は生きてこそいるが、死にかけだったらしい。
よくこんな環境でギルド長できてたなヘレーナさん。だからといって、手を抜いていい理由にはならない。
そんなことを考えていれば、突然出入口が開かれた。
「キリハさーんこんなとこにいたー!」
「アリシアさん、勝手に入ってきていいんですか?」
「受付にいなかったし、他も全部いなかったからここかなって」
まあ今のギルド長(代理)は自分なので言わなきゃばれないか。
「ちょっと協力してもらっていいですか? この近辺にはまだ不慣れでして」
「よくわからないけど任せて! バッチリなにかするから!」
「助かります。まずはそっちの棚から、1週間前の資料を持ってきてください」
「まかせろー!」
普段は静かな奥のギルド長部屋で騒ぎつつ、二人で仕事を始めた。




