68
「あの、ボスがいつまでいるとか聞いてます?」
「聞いてはみたんだけど、答えてくれなくて……。いつもなら、こんなことはないんだけどね」
アリシアさんに尋ねるも、その答えは不発。ボスが居座る限りアリシアさんを動かせないのは、メイズにとって大きな問題である。トロッポさんに裏で魔族を処理はしてもらっているが、メイン火力であるアリシアさんが拘束されている状況は、やはり美味しくない。
「そしてケースの依頼も減っていない、拘束を解かれてはいないみたいですね」
「ごめんね、いやほんとこればかりはね……」
「わかりました。この状況はこちらとしても困るので、私からも直接話してみます」
「えっ、いや。どうだろ……」
このままだと、一年でも二年でも居座っている気がしてならない。
仕方ないので直接話すべく、微妙な表情のアリシアさんを残して受付の席を立ち、ボスの向かいの席まで来る。
「相席よろしいでしょうか」
「どうぞ。ようやく来たな」
相変わらずフードの中は黒一色で何も見えないが、少し疲れたような声での反応が返ってくる。
許しを得たので対面に座る。ようやくとはどういうことだろうか。
「担当直入にお聞きします。ボスはいつまで滞在されますか」
「いつまででも問題ないだろう、ここは冒険者ギルドだ。そして我は冒険者だ」
「失礼、言い方を変えましょうか。アリシアさんの拘束を解いてもらえないでしょうか、メイズのギルドとしては、彼が動けないのはそこそこ困っていまして」
「そう、それだ。あれからしばらく経ったが、貴様が大悪魔を使っていない様子なのはわかる。わかるが何をした? ちょくちょく問題になっている依頼を持って行っては、何か書き写していたが」
「別の方に頼んでいるだけです……。その様子だと、ボスは私を試していただけですか?」
「そうだ。安易に大悪魔を利用しないと、それは窮地に陥ってこそ判断できる。今回はギルドごと仕掛けただけよ」
やはり初対面での疑いは晴れておらず、泳がせていたということだろう。そもそも命の危機でもない限りこれを使うつもりはなかったのだが。
「……私はいいんですけど、アリシアさんが動けないせいで、ヘレーナさんもかなり頭を悩ませていましたよ。彼女にも説明しておいてくださいね」
「いいや、面倒だからそれも頼んだ」
「……やっておきます。それで、解放はしてくれるので?」
「アーが必要なのだろう、ならば私はしばらく出る。戻るころにはアーに頼り切らない、普通の体制を構築しておくことだな」
確認は済んだとばかりにボスは立ち上がり、のそのそとギルドの戸を開けて出て行った。
入れ替わりでアリシアさんが近づいてくる。
「行ったかな?」
「はい、しばらく出ると。普通の環境作っておけと言われましたが、それができるならとっくにやってるんですよね」
「あはは、難しいね……」
特産品や何かしら強者を釣って引き止められるような、そんな何かがあれば話は違うのだが、生憎ここは何の変哲もない辺鄙な田舎。この課題はまだまだ解決しなさそうだ。




