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「……というわけで、頼みたい魔族の討伐がいくつかあるのですが。見たとこ難しいですかね」
「うん、まさかボス戻ってくるとは思わなくてさ……」
外部の冒険者も気軽に立ち寄り、いくらかメイズに滞在もするようになったとはいえ、やはりアリシアさんレベルの強さは貴重なのだが、どうやらボスのお相手で忙しいらしい。
「アリシアさん以外の方にボスの対応を任せられたりしませんか?」
「難しいかな。キリハさんが私のマスコットなように、私はボスがいる間はボスのマスコットだしね。普段はすぐに別のとこ行っちゃうから、拘束も少ないんだけど」
「なるほど?」
カウンターに来たアリシアさんと話しているが、ボスがこちらをじっと見ている。つまりはそういうことだろう。
唐突すぎてほぼ何もわからないが、唯一把握している情報が『アリシアさんが下手に出るほどの強さと地位にいる』ということだけだ。
下手に刺激しない方がいいのは確実。
「それでは、ボスがいる間はアリシアさんに依頼は振りません。一番右のケースに期限の長いものをいくつか入れておくので、余裕があれば適当に見ておいてください」
「でも、強い魔族もいるんでしょ。動けない私が言うのもなんだけど大丈夫?」
「当てはあるので適当に試してみますよ。本当に厳しい場合は泣きつくかもしれませんが」
「わかった。私の方でもボスにそれとなく交渉してみるね」
当のボスはと言えば、いつも奥のテーブル席で何かを飲みつつ、アリシアさんと何か話している様子しか見ていない。
あれなら他の人でもいいのではとも思うが、あれか。美容室で担当を指定するようなものか。
それなら仕方ない。