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「あれ、威勢よく乗り込んできた割にその程度かな?」
「くそっ、まだだ!」
アリシアさんの冴えわたる剣技を前にして、その冒険者は手玉に取られるように翻弄されていた。
戦う周りに野次馬も集まっており、賭けすら行われているのは、相手の肩書によるものだろう。
ぼーっと眺めていると、隣から声をかけられる。
「朝から騒がしいと思ったら、ありゃなんだい。どっちも見たことない奴だけど」
「サラさん、おはようございます。朝からアリシアさんの噂を聞き付けた冒険者がいまして、流れで戦うことになりまして」
「ってことは、あの仮面の彼がアリシアさんで、もう片方が外から来た冒険者か」
「はい。本人は悪目立ちする気はないみたいで、正体を隠してならということで戦っています」
時は少し前まで遡る。
朝から書類整理をしていたところ、気づけばカウンターの下に仮面をつけたアリシアさんが潜んでいた。
「……いつからいたんですか」
「ちょっと匿って……。できればやり過ごして……」
「どうやらワケありみたいですね」
「(コクコク)」
アリシアさんから簡単に事情を聴取しようとしたところで、大柄ないかにも強いです風の男が、他が混んでいるせいか、人気のないこちらのカウンターにやってきた。
はて、この顔には見覚えもないが。
「ちょっといいか、聞きたいことがあるんだが」
「はい、なんでしょうか」
「ここに竜殺しがいると聞いてきた。そいつと戦わせてほしい」
「また唐突ですね。ええ、確かにここメイズにはそう呼ばれる人がいます。しかし残念ですが、彼は竜を殺すものの、他の人と戦うのは乗り気ではないようでして」
「そこをなんとか頼む、竜がついに消え去ったと聞いて、王都から遠路はるばるやってきたんだ……。ほら、こうして特級冒険者勲章もあるんだ」
「そうきましたか……」
冒険者勲章、それは多大な功績を挙げた冒険者に贈呈される証であり、功績に応じて何段階かに分かれている。しかしどれも一定以上の難易度が求められてもいる。
つまり冒険者としてのずば抜けた能力と人格を保障するものであり、それがあれば大抵のことはまかり通るほどに、信頼性の高いものである。
そう、勇者としての特権など比べ物にならないほどに。
「……わかりました、あなたであれば悪いようにはしないでしょう。ちょっと確認してくるので、外で待ってていただけますか?」
「わかった」
一旦冒険者の彼をギルドから追い出して、カウンターの下のアリシアさんと相談する。
「話は聞いていましたね?」
「うん、相手はなんか厄介そうだね」
「普通であれば追い返せたんですけどね。勲章、あれを出されるとギルドとしては苦い顔をしながらも、しぶしぶ頼みを了承するのが王都にいたころは常だったもので。まさか忌々しいあれを、この地でも見ることになるとは……」
「呪われしアイテムかな?」
今回はまだ優しい方だが、割と無理難題をふっかけてくる輩もおり、どこが人格を保障するだみたいな話でもあるが、そこは現場でうまいことやるしかないってことで。
それに今回も、要は嫌がる相手を引きずり出してこいって頼みなわけで。
「アリシアさん的にはどうですか。もし本当に嫌であれば、無理強いはしません」
「手はあるの?」
「ないこともない。とだけ言っておきます、正直死ぬほど使いたくありませんけど」
「わかった、なら私が出てくる。ギルドの予備の剣と攻撃系スクロール10枚もらえる? それと仮面とローブありでって条件なら嬉しいな」
「その程度であればお安い御用です」
そうして外で待つ冒険者に正体を隠しての戦いを飲んでもらい、今に至る。
剣で攻撃を受け流し、隙を見て細かく傷を負わせ、スクロールの魔法へと誘導をして、相手をじわじわ追い込むアリシアさん。
「なるほど。相手も強いらしいけど、余裕がありそうだね。彼なら一捻りなんじゃないかい?」
「目立ちたくないんでしょうね。本気ではない、あえてスクロールを使用して戦っているのは、強さを誤認させるためでしょう。あくまで竜殺しも噂ですし」
「負傷ヶ所にぶつけて誤魔化しているみたいだけど、アイスニードルにファイアボルト、ウィンドカッターね。あまり強くないスクロールなのも、そういうことかい」
「いえ、ギルドにはあんまり強いスクロールをストックしてないだけです……」
そんなことを話しつつのんびり見守っていれば、危なげなくアリシアさんの完勝となっていた。
賭けについては外の冒険者に賭ける者が多かったようだが、メイズの冒険者はほぼアリシアさんに賭けていたようで、終わった後はホクホク顔であった。




