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「おにーさん」
「はい、なんでんむっ」
声をかけられ、書類から顔を上げたところ、何かが口に突き込まれた。やわらかい。
「マフィン作ってきたの、おにーさんもどうぞ」
「んむんむんむ」
会釈だけしてマフィンをしゃぶりながら、本部への報告書類の記入を再開する。ギルド内部の書類を受付窓口で書いていいのかという話については、ここにはほぼアリシアさんしか来ない上、彼もプラチナなので問題ないと思っている。思っているだけである。
アリシアさんについては、優しくしすぎても問題なので、素っ気ない対応も織り交ぜるのがコツである。しかし、ニコニコして向かいで立ったままでいる。何かあるのかな。
そんな感じで何か依頼を要求されるでもなく、平穏な時間が過ぎていたが、それは突然だった。突然アリシアさんより少し小さい少年が、こちらに向かってきた。そしてアリシアさんに向き合う。
「アッ、アリシアさん、、あなたが好きです!」
「んー? いきなり何かなー、君」
開口一番告白ときた。どうやら、アリシアさんが男とは知らないクチらしい。うまく回収してもらえれば助かるが、どうなることやら。
「僕はこの前、危ないところを助けられた冒険者です。その時の舞うように戦う姿に一目惚れしました、そして改めての感謝の印にこちらをどうぞ」
「わーありがとー」
何かを渡して、感謝を形にして伝えるということ。これは好スタートを切ったか。ここからどれだけ押せるかが勝負だ、頑張れ少年。
「前は油断しましたが、これでもシルバー上位にいます。きっとすぐにプラチナまで追いついてみせますし、あれからあなたの姿が頭に焼き付いて離れないんです」
「それは嬉しいけど、だからってすぐに股を開くほど、軽くもないんだよねー」
「さすがに知り合ったばかりです。お友達から始めませんか」
職員を襲おうとしている輩の発言とは思えない。対して少年は情熱的アピールからの、高い要求を引き下げて承諾を得ようとする狡猾さ。できるシルバーではありそうだが、プラチナさんがメスだと信じて疑ってないこと、その一点だけが残念である。
「気持ちは嬉しいんだけど、ごめんね。友達とか作ってないんだよねー。もっと他の子と遊んできたらいいと思うなー」
「そんな、僕のどこが悪いって言うんですか」
どうやらショタは守備範囲外らしい、普通なら食いつきそうなものを。
「少年を食い散らかす趣味は無いし、なにより受付のおにーさんのほうがカッコイイからかな?」
「お前か!?」
「私ですか、別に何もしていませんけど」
「そんなこと言ってー。ほーらお食べー」
「んむっ」
流れるように飛び火してきた件。そして追加のマフィン。親の仇でも見るような目で少年が睨んでくるが、そんな目をしないでほしい。力に任せれば、こっちは即座に捻られてしまうのだから。
「わ、わかった。カッコよくなってきてやる。覚えてろよ!!」
と、捨て台詞を吐いて少年は逃げていった。一体なんだったんだ。