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「キリハさん、なんか最近人増えてない……?」
「ドラゴンが湧かなくなった影響か、徐々に足を運ぶ人が増えてきてますね。賑やかになるのは。って、その手のカップは何ですか」
「お酒……」
「まあ今までを考えればこそ、私からは何も言いません。どうぞゆっくりしていってください」
カップ片手に赤ら顔で現れたアリシアさんの言う通り、明らかにギルドへの人の出入りが増えているし、街も酒場も前より活気づいている。
恐らく隣のダンジョンへ向かうため、経由だけの人も多いと思われるが、それでもお金を落としていってくれるのはよいことで。
そんなことを考えていれば、アリシアさんが受付台を乗り超えて足元にすり寄って来ていた。
「ねえ聞いて、私頑張ったんだよ……。ドラゴン倒してドラゴン倒して」
「偉いですね。私はその頑張りを知っています」
「でも最後の最後に、体壊してまで挑んだのに。結果はブレスに焼かれるし、体ほっかほかで死ぬかと思ったし、結局勝てなかったん……」
「相手が悪かっただけです、あれは人の手には余るでしょうから」
どうやら、竜王に勝てなかったのが不満らしい。
しかし、戦えるだけ上出来なのでは? とも思ってしまう。
「武器の強化魔法は体に馴染まなくて、サイアクだったし……」
「何したんですか」
「フリーズエンハンスで身体冷やしてた……」
「エンハンスを体にって、無茶しますね。ところでフリーズは聞いたことない魔法なんですけど、奥の手ですか?」
「奥の手じゃないけど、師匠から習った魔法しか使えない……。たぶんそれが一般的には知られてないだけだと思う……。似たものでアイスエンハンスってよく見るし、どうせ誰も気にしないし……」
前に見たフレイムエンハンス、この魔法を知らなかったのもそれが原因か。
アリシアさんがするすると膝の上に上がってくる。
「撫でて……」
「お疲れ様でした。いつも感謝してますよ」
「私はねこ、ねこ……」
「飲むのはそのくらいにしましょうね」
「……」
撫でながらもカップを取り上げてみれば、当の本人は静かな寝息を立てていた。
起こすのも忍びなかったので、起きるまではそのままでいた。




