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「おにーさん、今日も依頼くださいな!」
「ああ、アリシアさん。いいところに」
「?」
「実は職員随伴での調査依頼が出ていまして、受けてもらえると助かるのですが」
聞いた途端なにやら、目の色を変えているがまさか。
「おにーさんとのデート!?」
「いえ、ベテランをつけるようなので、今回はヘレーナさんですよ」
「じゃあいかなーい」
ちなみにこういった特殊な案件は、こちらに回ってきた時点でアリシアさんでしか対応できないようなものである。そういったものはこっちに投げるよう、暗黙の了解でもできているのだろうか。
つまり今回は自分で同伴するしかないのだ。問題なければへレーナさんに行ってもらうとこだったが、これも仕事である。
「わかりました、外出届けを出してきます。少しだけお待ちを」
「そうこなくっちゃね!」
わくわくしている彼を尻目に、外出届けを書き上げてヘレーナさんに手渡す。
「これも想定していましたから、問題はありませんよ。お気をつけて行ってきてください」
「というか、そのつもりだったでしょう?」
フフフと意味深に笑うヘレーナさんを置いて、二人で依頼に向かうのだった。
「環境調査、要ゴールド以上って。これ私じゃなくてもよかったんじゃない? まあデートできてるから文句は無いけどね」
「このあたりはゴールドでも、下手すれば命を落とすみたいですからね。念には念をというやつで……」
話しながら森の随所を確認し、ボードに書き込んでいく。なにやらスタンピード、または強力な魔物の発生予兆があったそうな。荒れに荒れている今回の痕跡であれば、恐らくミノタウロスだろうか。
というところまで予想できると判断して、代わりを承諾したのであれば、ヘレーナさんもかなりできる上司なのだろう。
「確認終わりました。近々ミノタウロス、またはそれに準ずる何かが現れるでしょう、備えておいてくださいね」
「はーい。しかしざっくりだね、それに準ずる何かって」
「痕跡からでは完全に特定できません、幅を持たせているだけです」
そうして何事もなく帰途に着く中で気づいたが、アリシアさんのスカートから伸びる脚は、かなりほっそりしている。あれで本当に大丈夫なのかと思うが、しかしそこはプラチナさん。使用に耐えうるだけのスペックを秘めているのだろう。
ミスリルの輩なんかみんなそうである。容姿端麗、壊れスペックは基本ときた。世界は平等じゃないのだ。
「なーに? おにーさん、私の脚に見とれちゃったー?」
「いいえ、細くて綺麗だなあと」
「それはどっちなのかな?」
「どっちもです」
見とれてはいないが、細くて綺麗だとは思ってるので、どちらもである。この後で気を良くしていたので、まあ問題ないだろう。
「道中襲われてませんか?」
「いえ、特には」
「アリシアさんに」
「大丈夫です……」
戻ったあとでこの様なやり取りがあったあたり、アリシアさんの信用はゼロなのだろう。