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「うーん、これはかなりまずいかな……」
キリハさんからもらった盾を懐にしまって、私は黒を纏った竜王の元へと足を進める。
そこまではよかったけど、近づくほどに今までの有象無象とは違うことを理解させられる。
キリハさんに言われていたため、過剰に準備はしていたが正直侮っていた。強化用ポーションも副作用のあるとっておきを用意したし、武器も多めに仕込んできた。体調も問題ないけど、勝てるビジョンが全く見えないほどに、今までと比較しても異質なドラゴンだった。
それでも、やれるだけはやっておくべきか。
「アークエンハンス」
剣を強化し、ポーションを5本飲み干す。
内訳は敏捷、魔力、筋力、耐久、加えて全能力を大幅に強化するものであり、しかし徐々に副作用が全身を蝕むせいで、表には流通していない代物だが、この際文句は言っていられない。
ポーションが体へと回るほどに、血液が沸騰するほど熱く感じるが、一方全能力強化ポーションにより思考は冷静に冴えわたり、いつも以上に予測や思考が回せるようになっていた。
これならあるいは。
「マジックエンハンス」
「アークスプリント」
「アークプロテクト」
「グラビティストック」
「エアプレート」
「リロード」
強化魔法を追加してから走り始める。
まずは奴に気取られないよう大回りに右後方の死角へと入り、一気に距離を詰めて剣を胴に振るう。
しかし、装甲を削ぐように振るった剣を通すことはなく、次の瞬間には眼前に尾の一振りが迫っていた。
ストックしていた重力球を用いて、自らを上空へ跳ね飛ばし、これを回避する。
「手ごたえ無し、剥がすのは無理か」
空中で無防備になった私を見逃すはずもなく、ドラゴンはこちらを向いて黒いブレスを放ってくるが、エアプレートで空を蹴りつけ方向転換し回避、その先でも素早くプレートを渡って、陣取るはドラゴンの頭上。
剣を最大の長さまで解放し、狙いを目に定める。
「グラビティ!」
重力魔法で加速しながらの一撃は目の位置を捉えたが、剣は閉じられた瞼により弾かれた。
もちろん私が体勢を崩した隙をついて、噛み殺さんと大顎が迫る。
「エクスプロード!」
これには咄嗟に爆発魔法を使い、爆風でその場を離脱。剣を縮めて体勢を立て直し、ドラゴンの正面に降り立つ。
至近距離で爆発を受けたためかなりきついが、噛み殺されるよかマシではある。
『我の攻撃をこうも避けるとは、貴様。人間にしては普通じゃないな、何者だ』
「通りすがりのドラゴンスレイヤー、かな。まあ今回は、こっちがスレイヤーされる側みたいだけど」
『力量の差も把握しているようだな、その上で我に挑むか』
「どうあれ戦わないと、末路は同じだしね」
改めて周囲を見渡すが、利用できそうな岩や木はない。
仕方なしに加速してドラゴンの懐へ飛び込み、補足されないよう回避に徹しながら、足や翼の間を走り抜け、改めて観察してみるものの、弱点らしい弱点は見当たらない。ドラゴンにあるはずの逆鱗も、どういうわけかその姿がなかった。
「フラッシュ!!」
ドラゴンの眼前に強烈な光魔法を放ち、目をつぶす。
動きが鈍ったそこに、再度展開した剣を尾に巻きつけて、一気に引き切ってみるものの、やはり尾が切り落とされることはなかった。
「反則でしょうよ、攻撃が通らないって言うのは……」
この調子だと、他にいろいろ用意してきた武器も意味をなさないだろう。
一体活路はどこにあるのやら。




