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「キリハさん、今どこまで進んでる?」
「ちょうど準決勝をしているところですね。ところで、その手に持っている物は……」
「いいでしょ、露天商で見つけたんだ」
「まさかとは思いますが……」
「キリハさんが悪い! 私は普段から、あんなのなんて比べ物にならないほど頑張ってるのに、キリハさんあっちの方がキラキラした目で見てた!」
時間は午後を回り、会場に戻ってきたアリシアさん。ぷんすこ怒りながらも、その手には怪しげな仮面があった。
言わずとも乱入するつもりなのは明白だろう。
顔を隠していればいいというものでもないが、ないよりはマシか……。
「せっかくだから、なんとなくでしか私のことを知らないキリハさんに、どのくらい優良物件なのか伝えるチャンスだしね」
「せっかくのお出かけだというのに、通常装備で来た理由はこれですか……」
「なんとなくだけど、戦うことにはなる気がしてね。大丈夫、ちゃんと仮面と一緒にローブも買ってきたから!」
決勝戦が終わり、大歓声の中実況役が優勝した戦士の男を湛える。
その会場の片隅でいそいそとローブを被り、仮面をつけたアリシアさんが、観客席の柵を蹴ってバトル場に降り立つ。
もちろん事前に運営に伝えてないため、決勝に負けた者が担架で運ばれる中、実況は困惑しつつも様子を見守っている。
「そこの優勝した新しい勇者さん? ちょっと私と戦ってくれない?」
「なんだ貴様は……」
大仰に相手を指さし、大声で啖呵を切るアリシアさん。
しかし、こういった場において、乱入などのイレギュラーは歓迎されているのか、会場の熱が冷めることもない。
「あ、わかった! 戦い抜いて疲れてるところだから不満なんでしょ? いやだなあ、もし私が魔族だったら、そんなこと気にせず襲い掛かっちゃうよ!」
「いや、そうでなくてだな……」
「でも私は魔族じゃないし優しいから! 回復薬をあげちゃう! 王都で買ってきたやつ未開封だから安心して飲んでどうぞ!」
「話を聞く気はないのか……」
なるほど用意周到だ、仮面とローブに合わせてそんなものまで買ってきていたとは。
相手はというと、投げられたポーションが未開封なのを確認してから、一気に飲み干して剣を構える。
不満を漏らしつつも戦う気はあるらしい。
「さて、準備は終わったね。じゃあどっからでもかかっておいで!」
「後悔しても知らねえぞ」
地を駆けた勇者が、一呼吸の間にアリシアさんに切りかかるが、アリシアさんもそれを剣で受け止め……。って、あれ普段使ってる剣じゃなくて、普通の王都で売ってる剣だ……。
普段の物が対ドラゴンの剣ではあるが、人相手に使えないこともないだろうし、だとしたら理由は正体を隠すためだろうか。
まあ普段の持ちだしたら、伸縮する剣の特徴から一瞬でバレることになるけど、そこまでするなら出なきゃいいじゃんとも思う。
「挑んでくるだけはあるらしいな、やるじゃねえか」
「うーん、勇者っていってもまあこんなもんか。フレイムエンハンス」
アリシアさんが剣にバフをかけて、詰められた距離を戻すように、鍔迫り合いから勇者を一気に吹き飛ばす。
結果としては最初の間合いより離れてしまっていたが。
勇者は壁にぶつかることなく踏みとどまったが、既に肩で息をしており、だいぶ消耗している様子。
「くそっ、マジックミサイル!!」
「そうこなくっちゃね」
勇者は接近戦じゃ分が悪いと判断して3つの誘導弾を放つが、時に細かく、時に大回りに動くアリシアさんを捉えることはことは叶わず、今度はアリシアさんから距離を縮め、赤く輝く剣を振るう。
今度は強い一撃ではない、手数を多めに相手を削るように。
そして狙い通り、全てを受け止めることはならず、徐々に相手の傷を増やしていく。
「この俺が押されるとは……。貴様何者だ!」
「さて、何者だろうね。名乗るほどの者ではない、とでも言っておこうかな?」
「舐めやがって!! スパイラルブリザード!!」
「いいね、スプレッドフレイム!」
それでも諦めない勇者は自らの無事を省みず、強力な範囲氷魔法に巻き込んだ。結果としてはアリシアさんの魔法により相殺、それ以上に火傷を負わされ、息も絶え絶えな悲惨な状態になっていた。
「ここまでかな。別に勇者さん殺しに来たわけじゃないしね」
「待て、まだ勝負は……」
「ついてるよ。だって私、別に本気だしてないし。それに目的も達成したから、もう戦う理由もないしね」
剣を地面に突き刺したアリシアさんは、言うだけ言って柵や塀を飛び移り、会場外へ飛び去ってしまった。
さて、見るものは全て見たし、私も宿に戻るとしよう。優勝者がこの惨状で、どう締めるのかは少し気になるが、そこはどうにかするのだろう。
「どう? 見直した?」
「はい、それはもう。実際に見ると違いますね」
宿に戻れば当たり前のような顔で、ローブと仮面を脱いでベッドに転がるアリシアさんの姿が。まあなんとなく、先回りされてる気はした。




