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「キリハさん、ドラゴンあるー? ってあれ、いないや」
「キリハさんでしたら、ドラゴンがないのを確認してからすぐに出ていかれましたよ」
「いつもはギルドにいないことってないのに、珍しいね」
いつものようにギルドに来て見れば、お目当てのキリハさんはおらず、代わりに席にはヘレーナが陣取っていた。キリハさんはお前の物ではない。我が物顔でキリハさんの定位置に座らないでほしい。
「どこに行ったか聞いてる?」
「なんでも野暮用で王都に向かうとか。何の目的で向かうのかははぐらかされて聞けませんでした。まあ元は王都の本部にいた彼のことです、悪いようにはならないでしょう」
「うう、せっかく来たのにいないなんて……。しばらく休業かなぁ」
「ちょっと待ってください。あなたが休んだらメイズが滅んでしまいます」
「大丈夫大丈夫、そんなドラゴンの一匹や二匹。湧いたところですぐに崩壊するわけでもないでしょ」
「それはあなたの感想でしょう……」
まあ、これはモチベーションの問題であって他の人にどうこう言われる問題ではない。
「わかる? わかんないよね? ドラゴンに行くにあたって、毎朝キリハさんから気の抜けたいってらっしゃいを受けることの大切さを。そんな何気ない日常が私に活力をもたらすのであって、それは誰もが思っている以上に重要な意味を持ってるの。そもそもキリハさんは奴隷として売られていたのを私がドラゴンを狩り尽くしてきた報酬で5億を出して文句を言わせず買い取って、消えない傷跡も優しく洗ってあげるし、一つ屋根の下で優しくしてあげることで徐々に心を開いて行くも、ちょっとツンツンしちゃう性から素直になれなくて、でも本当は私のことが好きだから一緒に出掛けたり手をつなぎたがったり、ご飯もあーんで食べさせ合ったり、気恥ずかしさからフイっと顔をそらす横顔も素敵だし、ロウソクを灯していい感じのムードになったところで私からキリハさんの気持ちを察してベッドイン……。そうやって結ばれる二人の物語を邪魔しないでほしいんだけど」
「キリハさんに奴隷だった過去はありません。存在しない記憶を植え付けるのはやめてください……」
いずれ来たる未来について語っているので、他の人にはわからなくて当然でもあるよね。




