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「キリハさん、ドラゴンある?」
「おはようございます、今日はミレイ岩窟のストーンドラゴンがあります。少し遠いので、戻るのは明日になるかもしれませんね。準備を怠らないように」
「はーい、それじゃいってきまーす」
相変わらず朝から元気なことで、こちらも安心できるというもの。
そして入れ替わるように情報屋のドミノが再びやってきた。そのまま行方をくらましてもこちらからは追えないのでありがたいが。
「情報には対価を。太祖の竜王についてできる限り調べて来たぞ」
「助かります」
「太祖の竜王。それはブレスで地表を焦土とし、尾の一振りで全てを跡形もなく破壊する、古の時代に確かに存在していたらしい。堅牢な装甲により人間の勇者も勝てなかったが、魔王との相打ちで眠りについたとな」
「実はそれが復活するかもしれないって話が上がってるんですよ。竜殺しがたくさん殺してきてるってことで」
「ああ、確かにそうだな……。復活の条件は魂を分けたドラゴンが全て倒されることだが、これが実はそこまで多くはないみたいでね」
「えっと、どのくらいですか」
「300だ、300のドラゴンに分かれて散っている」
アリシアさんはメイズに左遷されてくる前から、じゃんじゃんドラゴンを狩っていた。となるともう目覚めの時が遠くないみたいで。あとで討伐履歴を調べてみよう。
「対抗できる武器とかないんですか? 弱点とか」
「そんなものがあったら、人間の勇者が勝っていただろうよ。どれだけ探っても弱点は見つからなかった。しかしこの事態を無視もできない、メイズが陥落したら次は他の地だからな。そこで他の強い存在についても調べてみた、対抗策が効くかもしれないとね」
「藁にもすがる必要があると」
ここまでくるといよいよ、アリシアさんと言えど怪しくなってくる。かつての魔王の強さがどれくらいだったのかも気になるが、どんな者でも勝てていないあたりいよいよまずい。
「そこであたってみたのは特に強い大悪魔についてだが、槌の悪魔、盾の悪魔、鎖の悪魔、時の悪魔の4体の話だ」
「聞いたことない名前ですね……」
「悪魔は契約と代償によりいくらでも悪用ができる。その昔とある貴族が時の悪魔を悪用して、王家を巻き込む大事件を起こしたことがあったんだ。これを機に4体の大悪魔を危険と判断して、王族主体で魔法使いによる厳重な封印を施した。その上で悪魔の召喚法などは秘匿され、今となっては存在を知るものの方が少ない時代になっている」
「なるほど」
「そこで封印に使われたのが、世界樹の葉や枝といった強い魔力をもった素材だ。世界樹の実は食べればたちどころに傷を治し、世界樹のしずくはどんな悪い状態も解消する薬となり、他の部位も調合次第で強力なアイテムとなり得た。竜王に抵抗する際にはこれが必要になるんじゃないかと睨んでるんだが」
「ふむふむ」
「その足取りを追う中で、とある時代の争いの火種となったことからか全てが破棄されてしまっていた」
「……その上でこれを私に伝えるということは、まだ終わりではないんですよね?」
「察しがいいな。どんな傷も病も癒す夢のような回復薬、王家が手放すと思うか?」
「そんなわけないですね」
「恐らくこの先を追うには、王都の城の書庫を探る必要がある。が、俺のような身分の怪しい奴が入れるわけもなくてね。ギルド員ならツテでいけるんじゃないかと思ったのさ」
「城の書庫ですか。ちなみにどの程度の人物でないと入れないんでしょうか」
「ギルドからの接触なら、ギルドマスターか一部の幹部、信頼のおけるミスリル冒険者あたりか」
「なるほど。わかりました、なんとかしてみます」
せっかく色々と情報を持ち込んでくれたのだ。これを活かさない手はない。そして気になることも一つ。
「ところで前に話した、性犯罪未遂の件についてはどういう扱いになってますか」
「ん゛っ……。他の情報屋に共有はしてみたが、揃って微妙な顔をしていたよ。いずれメイズに深く探りを入れたとこから追加で情報が広がってからだ。まだ保留みたいな状態になってる……」
予想の斜め上の事態が起きていたとなれば、それも頷ける話である。




